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37.引きこもりと噂
しおりを挟む翌朝、いつもの時間に出勤すると、副団長室に入った。
昨日やり残した報告書を確認し、一息つくと、今日も魔法騎士の訓練場に向かう。
すると、私を見つけた魔法騎士たちが私に手を振りながら向かってきた。1人2人ではない。集団でだ。
私ではないのではないかと、チラリと後ろを確認してみたが誰もいない。私はそのまま後ろを向いて足早に部屋に引き返して鍵を閉めた。
コンコン
「副団長、お話があります。」
「すまない、急ぎの仕事がある。後日にしてくれ。」
「分かりました。」
なんだ?怖いんだが。しばらくして鍵を開け、そっとドアを開けて確認すると、廊下には誰も居なかった。
ほっ
昼になると食堂へ行こうと思ったのだが、嫌な予感がして時間をずらすことにした。
そして時間をずらして食堂へ向かうと、残っていた魔法騎士たちに囲まれた。
「副団長、お疲れ様です。」
「あぁ。私は食事中だ。」
「キーノたちに聞きました。」
「・・・。」
あいつら何を言ったんだ?食事中と言ったのに何なんだ?私はゆっくり食事もできないということか?少し不満に思っていると、
「すみません。また改めます。」
そう言って彼らは私から離れていった。
サッと食事をとると、私は足早に部屋へ戻った。本当はこの後、剣士部隊に身体強化の進捗を確認しに行くつもりだったが迷う。
いや、私が始めたことなのだから剣士たちを確認しにいくのは決定だな。
私は部屋の窓から飛翔魔法で飛び上がり、廊下を使わずに第3訓練場まで飛んで移動した。
これなら誰にも追いかけられたりはしないだろう。
「副団長!」
キーノとカルムがこちらへ駆けてきた。
人が駆け寄ってくるということ自体が少し怖い。
すると、2人は私の前に来て深く頭を下げた。
「なんだ?」
「「申し訳ありません」」
「何のことだ?」
「その、昨日副団長に相談に乗っていただいたことが嬉しくて、内容も衝撃的で、自慢してしまったら広まって・・・。」
あぁ、なるほど。私が朝から集団に追われたのはこの2人の仕業だったというわけだ。まぁ半分は知っていた。昼に「キーノたちに聞いた」というようなことを言っていたからな。
しかし困ったな。これから毎日のように追われるのは困る。たまたまキーノとカルムには上手くハマったかもしれないが、全員に上手くいくとは限らないし、希望する全ての魔法騎士を個別に対応するなど無理だろう。
私が黙ってしまったためか、2人は跪いて地面に頭をつけるほど深く頭を下げた。
「そんなことはしなくていい。頭を上げろ。」
「「はい。」」
剣士部隊の身体強化の様子を確認すると、私はまた身体強化を使って認識できないほどの速さで部屋に戻った。
ふぅ。どうしたものか。
コンコン
「俺だ。」
「どうぞ。」
団長が部屋を訪ねてきた。ノックをしたのに名乗りもせず「俺だ」などと言うのは団長くらいだからすぐに分かる。
「ホワイト副団長、突然人気者になった気分はどうだ?」
「は?」
「いや、別に揶揄ったわけではないんだが、面白い話を聞いて追われて部屋に引きこもってしまったと聞いてな。」
「・・・。」
揶揄っていないと言いながら、楽しそうにしている団長をジットリと眺める。
「すまん。噂が誇張され一人歩きしているようだから真相を確かめにきた。そんなに睨むな。」
「そうですか。」
別に睨んではいないが、誇張された噂か。そのせいで過剰に期待した者たちが押し寄せたということだな。
「部下に相談を持ちかけられて個別に相談に乗ったというのは本当か?」
「えぇ。事実です。」
「そうか。それではその部下を優しく抱いたというのは?」
「は?有り得ません。」
「だよな。身体接触をしたとか、一体になったとかいうのも曖昧でよく分からんし嘘か。」
「彼らの腕には触れました。魔力に干渉して彼らの魔力を使って魔法を撃った。そのことだろう。」
「そんなことできるのか?」
「えぇ。それで、その噂は魔法騎士たちだけの中で広がっているんですよね?剣士には伝わってませんよね?外部にとかありませんよね?」
「い、いや、分からんが、そんなに広まってはいないと、思う。」
ノアの耳に入るようなことがあれば、私は嫌われてしまう。誰も抱いてなどいない。ノアの兄たちに知られるのも困る。
「そんな・・・団長、何とかしてください!」
「いつも冷静なホワイト副団長がそんなに必死なのは珍しいな。」
「恋人の耳に入れたくない。」
「あぁ、なるほど。ってえ!?恋人!?いるのか?」
「いますが何か?」
「婚約者か?」
「婚約はしていない。」
「なら別にいいじゃないか。」
「・・・。」
別にいいだと?こんな有りもしない噂でノアが傷ついたり、私がノアに嫌われたりしたら、私の人生は終わる。
「わ、分かった。できるだけのことはするから、その威圧と冷気を収めてくれ。」
「はぁ・・・、こんなことになるなら、私はもう部下の相談になど乗りたくない。訓練メニューは作ってもいいが、魔法騎士の底上げも諦めてほしい。」
「さっきの件は俺が何とかするから、諦めないでほしい。」
「・・・早退します。」
「あぁ、分かった。」
私はそのまま窓から飛翔魔法で飛び立って屋敷に帰った。
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