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36.部下カルム
しおりを挟む「副団長、俺も話をしていいですか?」
「あぁ、ここでいいか?部屋に行くか?」
「ここで大丈夫です。少し端に移動してもいいですか?」
「分かった。」
「それで話とはなんだ?」
キーノの話は魔法に関することだったが、カルムの話は何だろうか?少し緊張する。訓練場の端に移動すると、私はドキドキしながらカルムに問いかけた。
「そ、その、俺、副団長にずっと憧れていて、俺も副団長のようにいつも冷静で強くありたいんです。」
「そうか。」
いつも冷静?彼には私がそのように見えていたのか?それは気のせいだ。顔に出さないだけで、いつも緊張してビクビクしていたし、特別強くもない。
「俺もキーノみたいにしてほしいです。」
「カルムの魔力に干渉して初級魔法を撃てばいいのか?」
「はい!できればさっきの障壁を遠くに出すのもお願いできますか?」
「分かった。」
私はカルムの腕を掴むと、的に向けて火、水、風の初級魔法と、その後、障壁を的の向こうに出した。
「凄い!副団長、感動しました。」
「そうか。」
「障壁は位置を設定して魔力を変換前に飛ばすんですね。」
「そうだ。魔力のまま飛ばして、障壁を立てたい位置で変換する。」
「それは今の俺ではまだできませんが、必ずできるようにします。」
「あぁ、カルムも練習していればできるようになる。」
カルムも私の両手をギュッと握って、ありがとうと言った。
「ん?なんだ?」
しかしカルムは握った私の手をなかなか離さなかった。
「憧れなんです。」
「そうか。」
「俺の名前、覚えていてくれたんですね。」
「カルムは魔法剣士であるし、私の部下に当たるからな。」
「嬉しいです。」
カルムは私のことを買い被りすぎだ。名前は覚えていたが、正直全員覚えているわけではないし。
私は憧れを抱かれるような人物ではない。
情けない私を反面教師として頑張っていると言われた方が理解できる。
「副団長、また相談に乗ってもらえませんか?」
「分かった。しかし、私は相談に乗ることが得意ではない。魔法であれば私でも答えられるが、それ以外の相談に答えるのは難しい。そこは、理解してもらいたい。」
「分かりました。」
ふぅ、よかった。ちゃんと言えた。
私なんかに相談して無駄になるくらいなら、初めから言っておいた方がお互いにいいだろう。
しかしカルムはまだ私の手を離さない。
「まだ何かあるのか?」
「あ、いえ、感動していただけです。」
そう言って彼は手を離した。
感動する場面など全く無かったが、よく分からないな。
しばらくキーノとカルムの魔法を見ながら、どのようなイメージを持って変換すればいいのかを教えた。
そして、カルムは剣士に教えた身体強化の方法も詳しく聞きたがったため、解剖学の本で筋肉や体の仕組みを勉強するといいと適当なアドバイスを送っておいた。
「魔法の仕組みだけ勉強していればいいというわけではないんですね。」
「まぁ、そうだな。身体強化などはむしろ体の仕組みを理解していないと無駄に魔力を消費することになる。」
「なるほど。勉強になります!」
「そうか。」
「本当に、副団長は凄いです。」
「これくらいのことなら誰でもできるようになる。」
「そんなことありません。本当に凄いんです。俺は副団長に憧れて騎士団に入ったんです。」
「そうか。」
「だけど、上手くいかなくて、ずっと悩んでいました。救ってくれたのはやはりあなたでした。」
「そうか。役に立てたならよかった。」
「はい!」
私に憧れて?何かの間違いか勘違いなのでは?訂正しておいた方がいいか?
触れないでおいた方がいいか。夢を壊してもいけない気がする。
「私は戻る。」
「はい!ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
疲れたが、緊張したが、初めて部下の相談に乗るということをした私は、小さな達成感と共に部屋へ戻った。
嬉しい。少しだけ人の役に立てた。役に、立てたんだよな?
ノアに報告したい。今すぐに。
「キーノ、どうしよう。今になって手が震えている。」
「は?何でだ?」
「感動して。」
「そうだな。あの魔法の教え方はヤバかった。まさか体内の魔力に干渉して撃ち出すなど考えたこともなかった。」
「俺の中の魔力に干渉、俺の中に副団長が・・・イきそう。」
「・・・・」
「触れる手が優しかった。意外と硬くて。」
「そりゃあそうだろ。副団長は剣の腕も立つ。柔らかいわけがない。」
「俺、今日は手洗えない。」
「いや、洗えよ。」
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