【完結】うちの子は可愛い弱虫

cyan

文字の大きさ
上 下
21 / 49

21.救世主ノア

しおりを挟む

「坊ちゃま、明日、来客がありますので、衣装を用意しておきますね。」
「うん。いつもありがとう。」

 来客か。父か母の友人だろうか。
 面倒だな。

 私は翌日になると、リーナに手伝ってもらって来客対応のための衣装に着替えた。

「ところでリーナ、誰が来るんだ?
 父上の知り合いか?それとも母上の知り合いか?」
「キャサリン様ですよ。」
「え・・・。」

 嘘だろ?会いたくない。怖い。逃げたい。

 着替えが終わると、逃げようとしたが無理だった。にこやかだが有無を言わせないリーナに、あいつがいるサロンに放り込まれた。

 母もいるが、さすがにこの歳で母の後ろに隠れるなんてできない。
 目を合わさないように、心を殺してソファの端に座った。

「格好良くなったわね。あの頃の泣き虫なあなたとは見違えるほどに。」
「・・・。」

「私とは話もしたくないということかしら。」
「ごめんなさいね。愛想が悪くて。」

 目も合わせられず、口も聞けない私の代わりに母が答えてくれた。
 正直ここから早く逃げ出したい。恐怖と緊張で動悸が酷い。

「お友達ができたんですってね。昨日一緒にいた方かしら?」
「・・・。」

「エディーにあなたがトラウマを抱えていると聞いたわ。
 子供の頃の話とはいえ、あなたにはずいぶん酷いことをしたわ。ごめんなさい。
 散々罵っておいて、今更だけど、本心じゃなかったのよ。
 あなたの気を引きたくて言った言葉が、こんなにあなたを傷つけていたなんて知らなかったの。ごめんなさい。
 今日は、あなたに謝りたくて来たの。」
「・・・。」

 本心じゃなかった?まさかな。
 そんなことはないだろう。実際に私はダメな人間だしな。

 私が変な噂を流すのを恐れて謝罪に来たのかもしれないな。
 別に私はそんなことを言いふらしたりはしないし、私が情けないということを公言するような酔狂なことはしない。
 そして、もう話は済んだだろう。これ以上この空間にいるのは無理だ。退室しよう。

「話が終わったようなので私は失礼します。」

 さっと立ち上がり、部屋を出た。
 ふぅ・・・怖かった。ちゃんと退室することだけでも自分の口で伝えられたんだ。よく頑張った方だろう。自室に戻ると小刻みに指先が震えていた。

 怖い・・・。やっぱり怖い。
 目の前で、あの声を聞くと、やっぱり怖くて、膝を抱えてただ耐えるしかなかった。
 息も苦しい・・・。
 死んでしまうかもしれない。そうしたらもうノアに会えないのかな?


「あら、大変だわ。坊ちゃま、大丈夫ですか?」
「息、できな、苦し、、ノア・・・助けて、ノア・・・。」
「すぐにお呼びします。」

 リーナはすぐに部屋を出ていって、少し経つと戻ってきた。

「ノア様を呼びましたよ。大丈夫ですから、ゆっくり息を吐いて、ゆっくりですよ。」
「できない、、くるし、、ぅ、、」

 そしてずっと隣に付いて、背中を撫でてくれる。情けない、もう私は大人なのに。
 苦しくて苦しくて、どれだけの時間そうしていたのかは分からない。

 コンコン
「エリオ、入るよ。」
「ノア様がいらっしゃいましたよ。」

「どうした?何があった?」
「ノア様、坊ちゃまのこと、よろしくお願いします。」

 幻かもしれないがノアの声が聞こえて、そしてリーナが部屋を出ていく音が聞こえた。

「ノア、苦し、、たすけて、、」
「大丈夫。僕が側にいるから。」

 ノアがギュッと抱きしめてくれて、そして涙でぐちゃぐちゃな顔を上げられると唇が重なった。


「はぅ、、ぁ、、ぁ、、んん、、、」

 いつものように追いかけてくるノアの舌から逃げることができなくて、ノアに舌を絡められてジュッと吸われた。

 そうしたら、苦しいのが消えて、やっと息ができるようになった。
 やっぱりノアは私の安定剤で、ノアがいないとダメだと思った。


「ノア、ごめん。」

 気づくと、私の特等席となっているノアの膝の上に抱えられていて、やっと乱れた息を整えると私はノアに謝った。

「何で謝るの?エリオは何も悪いことしてないでしょ?」
「でも、呼び出したりして・・・。」
「気にしないで。エリオの役に立てるなら嬉しいから。」

 こんな私にそんな優しい言葉をかけてくれるのは、世界中にノアだけだ。
 今、言わなければならいと思った。謝罪よりも、もっと伝えたいことが私にはある。

「それと、私は・・・。」
「ん?」
「私は・・・」
「うん。」

「・・・・・た。」

 散々溜めた挙句、ハクハクと擦れて声にならないような言葉しか出なかった。

「ごめん、聞こえなかった。もう一回言って。」
「う、もう、一回・・・」
「うん。」

「ノアに、恋してしまいました。ごめん。」
「え?本当?嬉しい。僕たち両思いだね。恋人ってことでいいんだよね?」
「・・・え?」

 両思い?それはどういう意味だったか?
 恋人って?・・・それはどういう意味だったか?
 ノアは嬉しそうしているが、私は馬鹿みたいに口を開けて呆けていた。

 こんな時は辞書を引こう。そうすればきっと意味は載っている。
 サッと立ち上がると、私は書棚に向かった。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...