【完結】うちの子は可愛い弱虫

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21.救世主ノア

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「坊ちゃま、明日、来客がありますので、衣装を用意しておきますね。」
「うん。いつもありがとう。」

 来客か。父か母の友人だろうか。
 面倒だな。

 私は翌日になると、リーナに手伝ってもらって来客対応のための衣装に着替えた。

「ところでリーナ、誰が来るんだ?
 父上の知り合いか?それとも母上の知り合いか?」
「キャサリン様ですよ。」
「え・・・。」

 嘘だろ?会いたくない。怖い。逃げたい。

 着替えが終わると、逃げようとしたが無理だった。にこやかだが有無を言わせないリーナに、あいつがいるサロンに放り込まれた。

 母もいるが、さすがにこの歳で母の後ろに隠れるなんてできない。
 目を合わさないように、心を殺してソファの端に座った。

「格好良くなったわね。あの頃の泣き虫なあなたとは見違えるほどに。」
「・・・。」

「私とは話もしたくないということかしら。」
「ごめんなさいね。愛想が悪くて。」

 目も合わせられず、口も聞けない私の代わりに母が答えてくれた。
 正直ここから早く逃げ出したい。恐怖と緊張で動悸が酷い。

「お友達ができたんですってね。昨日一緒にいた方かしら?」
「・・・。」

「エディーにあなたがトラウマを抱えていると聞いたわ。
 子供の頃の話とはいえ、あなたにはずいぶん酷いことをしたわ。ごめんなさい。
 散々罵っておいて、今更だけど、本心じゃなかったのよ。
 あなたの気を引きたくて言った言葉が、こんなにあなたを傷つけていたなんて知らなかったの。ごめんなさい。
 今日は、あなたに謝りたくて来たの。」
「・・・。」

 本心じゃなかった?まさかな。
 そんなことはないだろう。実際に私はダメな人間だしな。

 私が変な噂を流すのを恐れて謝罪に来たのかもしれないな。
 別に私はそんなことを言いふらしたりはしないし、私が情けないということを公言するような酔狂なことはしない。
 そして、もう話は済んだだろう。これ以上この空間にいるのは無理だ。退室しよう。

「話が終わったようなので私は失礼します。」

 さっと立ち上がり、部屋を出た。
 ふぅ・・・怖かった。ちゃんと退室することだけでも自分の口で伝えられたんだ。よく頑張った方だろう。自室に戻ると小刻みに指先が震えていた。

 怖い・・・。やっぱり怖い。
 目の前で、あの声を聞くと、やっぱり怖くて、膝を抱えてただ耐えるしかなかった。
 息も苦しい・・・。
 死んでしまうかもしれない。そうしたらもうノアに会えないのかな?


「あら、大変だわ。坊ちゃま、大丈夫ですか?」
「息、できな、苦し、、ノア・・・助けて、ノア・・・。」
「すぐにお呼びします。」

 リーナはすぐに部屋を出ていって、少し経つと戻ってきた。

「ノア様を呼びましたよ。大丈夫ですから、ゆっくり息を吐いて、ゆっくりですよ。」
「できない、、くるし、、ぅ、、」

 そしてずっと隣に付いて、背中を撫でてくれる。情けない、もう私は大人なのに。
 苦しくて苦しくて、どれだけの時間そうしていたのかは分からない。

 コンコン
「エリオ、入るよ。」
「ノア様がいらっしゃいましたよ。」

「どうした?何があった?」
「ノア様、坊ちゃまのこと、よろしくお願いします。」

 幻かもしれないがノアの声が聞こえて、そしてリーナが部屋を出ていく音が聞こえた。

「ノア、苦し、、たすけて、、」
「大丈夫。僕が側にいるから。」

 ノアがギュッと抱きしめてくれて、そして涙でぐちゃぐちゃな顔を上げられると唇が重なった。


「はぅ、、ぁ、、ぁ、、んん、、、」

 いつものように追いかけてくるノアの舌から逃げることができなくて、ノアに舌を絡められてジュッと吸われた。

 そうしたら、苦しいのが消えて、やっと息ができるようになった。
 やっぱりノアは私の安定剤で、ノアがいないとダメだと思った。


「ノア、ごめん。」

 気づくと、私の特等席となっているノアの膝の上に抱えられていて、やっと乱れた息を整えると私はノアに謝った。

「何で謝るの?エリオは何も悪いことしてないでしょ?」
「でも、呼び出したりして・・・。」
「気にしないで。エリオの役に立てるなら嬉しいから。」

 こんな私にそんな優しい言葉をかけてくれるのは、世界中にノアだけだ。
 今、言わなければならいと思った。謝罪よりも、もっと伝えたいことが私にはある。

「それと、私は・・・。」
「ん?」
「私は・・・」
「うん。」

「・・・・・た。」

 散々溜めた挙句、ハクハクと擦れて声にならないような言葉しか出なかった。

「ごめん、聞こえなかった。もう一回言って。」
「う、もう、一回・・・」
「うん。」

「ノアに、恋してしまいました。ごめん。」
「え?本当?嬉しい。僕たち両思いだね。恋人ってことでいいんだよね?」
「・・・え?」

 両思い?それはどういう意味だったか?
 恋人って?・・・それはどういう意味だったか?
 ノアは嬉しそうしているが、私は馬鹿みたいに口を開けて呆けていた。

 こんな時は辞書を引こう。そうすればきっと意味は載っている。
 サッと立ち上がると、私は書棚に向かった。


 
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