【完結】うちの子は可愛い弱虫

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18.夜会の夜(ノア視点)

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 王家主催の夜会か・・・
 僕なんか行っても行かなくても変わらないのに、一応貴族の子息ということで行くことになった。
 でも今回はエリオに会えるから少し楽しみだった。高位貴族であるエリオと話すことはできないかもしれないけど、正装に身を包んだエリオは絶対美しい。それを見れるだけでも行く価値はあると思った。
 僕なんかは途中で抜けたとしても気付かれたりしないから、美しいエリオをじっくり眺めたら帰ろう。
 これで来週からも頑張れる。

 下位貴族から順に入場していくから、エリオは最後だ。
 入場してきたエリオを見ると、顔が強張ってかなり不機嫌に見える冷めた目をしていた。
 衣装はすっきりとシンプルで、エリオの美しさを際立たせるようなものだったが、あの表情のせいでまわりの空気まで冷えていくようだった。
 しかし、僕を見つけると、真っ直ぐに僕の元に歩いてきた。

「ノア、一緒にいてくれると嬉しいんだが。」
「ん?いいけど、僕は子爵家のしかも末っ子だよ?いいの?」
「いい。ノアがいい。」
「そっか。いいよ。」

 僕がいいよと言うと、少しだけエリオの顔が綻んだ。
 まだ不機嫌そうな顔ではあるが、冷え冷えした空気感は薄れた気がする。
 エリオは会場をチラッと見渡し、壁際に下がって視線を落とした。


「エリ、久しぶりね。」
「・・・。」

 女性が近付いてきていたのは知っていたが、エリオの知り合いだったのか。
 声をかけられた途端にエリオはまた凍るような冷たい空気を出し、顔も上げないし何も答えない。
 ふと手元を見ると、明らかに硬直しているのが分かって、僕はエリオの手に指を絡めて握り、後ろに隠した。

 するとエリオは驚いたように僕に視線を向けると、ギュッと手を握り返してそのまま会場を後にした。


 会場を出るとエリオの手が小刻みに震え、それに気付いたエリオは手を放そうとした。そんな状態で放せるわけないのに。
 ギュッと放さないよう握り返して控室へ向かった。

 控室に着く頃にはだいぶ表情も戻っていたけど、まだどこか不安そうな顔をしている。


「エリオ、話したくないなら無理に話さなくていい。辛い時は僕が側にいるから、僕には我慢せずに甘えて?」
「分かった。」
「膝の上においで。」

 エリオは一瞬躊躇ったけど、僕の膝を跨いで向かい合わせに座った。
 可愛い。
 抱きしめて髪を撫でていると、硬直していた体を、だんだんと僕に預けてくるのが分かった。
 本当に彼は可愛い。
 ただの友達がこんなことしないんだけどな。


 キスしたいと言うエリオに、触れるだけのキスをすると、なんだか困った顔をした。
 エリオのおねだりが聞きたい。
 僕をもっと求めてほしい。
 そんな欲望がどんどん強くなっていく。

 我慢できないのはエリオだけじゃない。
 泣きそうに潤んだ瞳で、この前のキスがいいなんて言われたら、もう降参するしかない。
 こうなったら、もう辛いことなど全て忘れるようにエリオをトロトロに蕩けさせるしかないな。


「可愛い。エリオは本当に可愛い。気持ちいい?」
「気持ちいい。もう一回して?」
「また甘えたになっちゃったの?エリオはおねだりが上手だね。」

 トロトロに蕩けているのに、相変わらずちゃんと舌は僕の舌から逃げ続ける。
 それが堪らなく愛おしい。
 舌を捕まえてジュッと吸うと、フルフル震えて甘い吐息を吐くから、もう余計に逃れられなくなる。


「ノアに甘えたい。」
「ふふ、甘えてるじゃん。いいよ、いっぱい甘えな。」
「今日はずっと側に居てほしい。」
「いいよ。」

 エリオにとって、それは他意のない本音なんだろうけど、他の人が聞いたら完全に僕のことをベッドに誘ってるみたいに聞こえるから困る。
 しないけど、したいとは思うよ。だって好きだもん。
 いつか「キスして」が「抱いて」に変わることがあるんだろうか?

 僕たちはそのままエリオの屋敷に戻った。


 衣装を着替えて、僕はソファーに座って、膝の上にエリオを乗せて抱きしめていると、エリオは小さな声で、少しずつ吐露しはじめた。

 エリオが無視したのは隣国へ嫁いだ元王女だった。それを聞いた瞬間、血の気が引いたけど、エリオはとても苦しそうに話していたから、そのまま話を聞いた。

 小さい頃のトラウマが、この自信を持てないと言って震えていたエリオを作っているのかと思ったら、あれは王女という名の悪魔に見えた。
 思い出しただけで不安になったのか、エリオは話し終わるとギュッと抱きついてきた。


「ノアがキスしてくれると癒される。好き。」
「エリオは本当に可愛いね。大好きだよ。」

 これが恋だといつ気づいてくれるんだろうか?
 私から見たら恋に見えるけど、そうではないのか?分からないな。
 何れにしても、好きだと言ってくれることが嬉しい。


「ノア、ノアの好きは、友情の好きなのか?それとも性的欲望の対象なのか・・・?」
「うーん、全部かな。友情の好きもあるし、恋の好きもある。好きだからエリオに触れたいし、抱き合いたいし、体を繋げたいとも思う。でも、それは絶対じゃない。エリオが嫌ならしたくない。」
「そうか。」

 言うか、本当は迷った。
 特に性的欲望の対象という言い方も少し気になった。この前のあれを気にしているのか?
 距離を置かれるのではないかと思うと、不安ではある。それでも、なぜかエリオなら拒絶せず、ちゃんと考えてくれる気がした。


「私は誰のものにもならない。誰かのものになるのなら、ノアがいい。ノアは私以外の誰かのものになるのか?」
「それは分からないな。」
「誰のものにもなってほしくない。
 ・・・ごめん。我が儘を言った。それはノアが決めることなのに。」
「ふふ、嫉妬しちゃった?」
「嫉妬・・・」

 エリオに捨てられたら、別の誰かを探す可能性はあるけど、今はそんな可能性はない。
 大丈夫だと言おうとして、僕の首元に滴が落ちた。
 ポロポロと涙を溢すエリオがいて、きっと僕が他の誰かのものになった想像でもしたんだろうことが分かった。

「エリオ、泣かないで。そんなに僕のこと好きなの?」
「好き。」

 エリオのその答えは即答だった。

「そっか。嬉しい。僕もエリオが好きだよ。」
「私はおかしいのかもしれない・・・。」

 僕が思っている以上にエリオは僕のことを好きでいてくれたんだと知った。
 バカだ。エリオを泣かせるなんて。
 こんな回りくどい駆け引きなんてエリオには必要なかった。


「エリオ、大丈夫だよ。僕はエリオのことが好きだから、どこにも行かない。」
「本当?」

 抱きしめて、背中を撫でて、頬や髪を撫でて、口だけではなく首や指にもキスをした。
 この僕とエリオを隔てる布が邪魔だな。
 もっと触れたいのに。
 上衣の裾から手を忍び込ませて、背中に直接触れた。

「、ゃぁ、、」

 何だその反応。可愛すぎるだろ。
 スベスベした背中には程よく筋肉がついていて、服を着ていると分かりにくいがちゃんと鍛えていることが分かる。

 僕の背中は・・・たぶん程よい筋肉ではなく程よい肉がついていると思う。残念なことだ・・・。


「ノア・・・、はぁぁ、、ノアの手は温かくて柔らかくて気持ちいい。」

 そんな風に言われて、僕の中心がムクムクと起き上がってしまったのは仕方ないことだと思う。
 エリオ、君の中心も反応しているが、それには気付いているのか?

 これ以上エリオの素肌に触れるのは危険だと思い、僕は追いかけっこのキスをたくさんしてエリオと遊んだあと、手を繋いで寝た。
 こんなことは何度も耐えられる気がしない。


 朝起きると、隣にいるはずのエリオがいなかった。
 え?なぜ?

「エリオ?」

 すると、気不味そうな顔をしたエリオが、風呂の方からこちらに歩いてきた。
 なんだ?

「ノア、ごめん。」
「何?」
「私は淫らな夢を・・・」
「あぁ、なるほど。気にするな。僕なんていつものことだ。」
「そうか。」

 昨日エリオの背中を撫でたり首元にキスをしたりしたせいかもしれない。きっと夢精して下穿きを汚したんだな。
 そんなこと隠せばいいのに。言わなきゃ僕が 気付くこともなかったのに。エリオは素直で可愛くて面白い。

 
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