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17.ノアを連れ帰る
しおりを挟む「エリオ、話したくないなら無理に話さなくていい。辛い時は僕が側にいるから、僕には我慢せずに甘えて?」
「分かった。」
「膝の上においで。」
「え?」
「嫌?」
「わ、かった。」
私がソファに座るノアの膝を跨いで向き合って座ると、ノアは何も言わずに抱きしめてくれた。
温かい。髪を撫でてくれるノアの手が優しくてさっきまでの緊張が溶けていく。本当にノアと一緒にいると癒される。
やはりノアは無意識に心を癒す魔法を放出している。しかもそれは私にしか効かない魔法。
「ノア、キスしていい?」
「いいよ。エリオはキスが好きだね。」
「ノアのとキスだけ。」
ノアとキスすると、幸せでとても癒される。
まださっきキャスに話しかけられた緊張がまだ残っている。できればノアとのキスで解消したい。そんな思いでキスしたいなど失礼だろうか・・・。
ノアは私の髪を撫でていた手を首の後ろに回して私の頭を引き寄せた。
「、、ん、、」
ノアの唇が私の唇に触れると、すぐに唇は離れた。
「え?」
「ん?何?」
ノアは悪戯っぽい顔で笑ってる。
足りない。そんなのじゃ、足りない。もっとノアを感じたい。
「ノア・・・。」
「足りなかった?」
「この前のキスがいい・・・。ダメ?」
「いいけど、エリオこんなところで蕩けちゃって大丈夫?」
「とろ・・・」
困った。ここは公爵家の控室として用意された部屋だから、父や母が戻ってくるかもしれない。
いや、ノアの膝の上に跨って抱きしめられている時点で、どうかと思うんだが。
私はいつもノアに甘えてばかりだ。弱みを見せられる唯一の存在ということが大きいのか、人に甘えるなどしてきたことがないから、ついついノアには甘えたくなる。ノア、付き合わせてごめん。
「やめておく?」
「キス、したい。この前の。」
「ふふ、エリオ可愛い。そんな泣きそうな顔しなくても大丈夫だから。」
「ぁ、、んん、、はぅ、、、ん、、」
私はすぐにノアの舌に捕まってジュッと吸われると力が抜けてノアにもたれ掛かった。
「可愛い。エリオは本当に可愛い。気持ちいい?」
「気持ちいい。もう一回して?」
「また甘えたになっちゃったの?エリオはおねだりが上手だね。」
数回キスをして舌の追いかけっこを楽しむと、ようやく緊張も体の強張りも取れてただただノアに甘えたくて堪らなくなった。
「ノアに甘えたい。」
「ふふ、甘えてるじゃん。いいよ、いっぱい甘えな。」
「今日はずっと側に居てほしい。」
1人で眠ったら、またあの昔の夢を見てしまうと思った。
いつもそうだ。きっかけは些細なことで、それにつられて芋蔓式に辛く苦しい過去を引き連れて這い上がってくる。
ノアがいてくれるなら、そんな予感がする今日だって、眠れる気がした。しかし、こんな我儘はさすがに嫌だろう。
「いいよ。」
やっぱりノアは優しい。私の希望を嫌がらずに聞いてくれる。
ノアが嫌だという限界が知りたいと思った。知らないまま突然距離を置かれたりしたら、私は耐えられなくなるかもしれない。
「もう帰ろう?」
「いいの?」
「まだ父も母も帰る時間じゃない。一度馬車で送ってもらって、馬車にはまた城に戻ってもらえばいい。」
「そっか。じゃあ帰ろう。」
私はノアから離れたくなくて、部屋から出る時も馬車でも、ずっとノアの手を握っていた。
屋敷に着くとメイドを呼んで正装から寝衣に着替えた。ソファーではまたノアの膝の上に跨って座って抱きしめてもらった。
そしてポツリポツリと話し始める。
「ノア、ありがとう。
さっきのあいつはエディーの3つ上の姉でキャサリン。13で隣国に嫁ぐまで私とエディーとキャスは一緒にいることが多かった。」
「うん。」
「私の要領が悪かったのがいけなかったんだが、ずっと罵倒されて役立たずだと言われ続けて、あいつが怖くなった。」
「うん。」
「もう10年以上会っていなかったから大丈夫だと思ったんだ。でもダメだった。」
「そう。」
「この前のあの日、ノアが来る少し前に、キャスが一時帰国するとエディーが知らせに来た。それであんな風になってしまって・・・。」
「そっか。」
「もう子供じゃないのに情けない。」
「そんなことないよ。」
思い出しただけで不安になってギュッとノアに抱きつくと、ノアは私の髪をそっと撫でてくれた。
「ノアがキスしてくれると癒される。好き。」
「エリオは本当に可愛いね。大好きだよ。」
大好き。ノアの私に向けるその好意の意味を知りたい。
「ノア、・・・ノアの好きは、友情の好きなのか?それとも性的欲望の対象、なのか?」
「うーん、全部かな。友情の好きもあるし、恋の好きもある。好きだからエリオに触れたいし、抱き合いたいし、体を繋げたいとも思う。でも、それは絶対じゃない。エリオが嫌ならしたくない。」
「そうか。」
恋・・・。本当?
気遣っているだけなのか?
ノアが嘘つきだとは思わないが、私に恋をする者がいるなど到底信じられない。友情というなら、魔法陣の件で好きと言っているのかもしれないと思えるが、恋は無い。
「今はエリオが僕のことを好きだと言って甘えてくれることが嬉しい。」
「そうなのか?」
「うん。エリオがいつか僕以外の誰かのものになるとしたら寂しいけど、未来は分からないし、今はこの関係で満足してる。」
満足。私もたぶん満足している。
しかしノアの気持ちを聞いておきながら私は、自分の気持ちを言えずにいるし、信じられずにいる。私は自分勝手すぎるのではないか?
『未来は分からない』ノアはそう言った。未来、私の未来。1年先、5年先、10年先、何が起きるか分からないけど、隣にはノアにいてほしい。
「私は誰のものにもならない。誰かのものになるのなら、ノアがいい。ノアは私以外の誰かのものになるのか?」
「それは分からないな。」
「誰のものにもなってほしくない。
・・・ごめん。我が儘を言った。それはノアが決めることなのに。」
「ふふ、嫉妬しちゃった?」
「嫉妬・・・」
ノアの隣に私ではない誰かが立つのだとしたら、ノアが別の誰かに好きだと言ってキスをするのだとしたら、別の誰かと体を・・・。
悲しい。苦しい。そんなのは嫌だ。
「エリオ、泣かないで。そんなに僕のこと好きなの?」
「好き。」
いつの間にか私の目からは涙が溢れていた。それは、ノアに言われて初めて気付いたんだが、情けないな。大の大人が人前で何度も泣くなど。
「そっか。嬉しい。僕もエリオが好きだよ。」
「私はおかしいのかもしれない・・・。」
ノアはその日、ずっと抱きしめてくれていたし、寝る前にはたくさんキスをして手を繋いで寝てくれた。幸せだと思うけど、それ以上に苦しいと思った。
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