【完結】うちの子は可愛い弱虫

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16.恐怖の夜会

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 ノアからもらった魔力回復ポーションを机に並べたりなんかして浮かれ、柄にも無く部屋に紫の花なんか飾って眺めていた。

 そんな浮かれ気分で毎日を過ごしていた私を絶望に突き落とすような知らせが母上からもたらされた。

「夜会・・・。」
「そうよ。キャスが帰国するからそのタイミングでね。」
「私は仕事があるので。」
「エリオット、王家主催の夜会はそう簡単に欠席できないわよ。」

 断れない・・・。
 母上の言葉に私は項垂れた。

「ノアを、呼んでもいいだろうか?」
「彼も貴族の子息なんだから呼ばなくても参加すると思うわ。」
「そうか。それなら何とか耐えられる、かもしれない・・・。」



 当日は感情を遮断して、心を無にして王城へ向かった。相手は隣国へ嫁いだと言っても王家の者なんだから私になど話しかけてくることはないかもしれない。
 できるだけ視界に入れないようにして早めに帰ろう。

 会場に入るとすぐにノアの姿を探した。何らかの事情で欠席していたら、私は誰に咎められてでもこの会場から立ち去っていたかもしれない。
 ノアのことはすぐに見つけられた。そしてノアの元へ一直線に向かっていく。

 正装のノアを見るのは初めてだ。体格がいいから私なんかよりずっと貴族らしい佇まいに見える。

「ノア、一緒にいてくれると嬉しいんだが。」
「ん?いいけど、僕は子爵家のしかも末っ子だよ?いいの?」
「いい。ノアがいい。」
「そっか。いいよ。」

 よかった。ノアももしかしたら誰かと話をしたかったかもしれないのに、申し訳ないな。
 今日だけは、甘えさせてほしい。

 あいつ、もう会場にいるんだろうか?なるべく遠くに位置どりたいから、見たくはないが場所は把握しておきたい。
 そっと周りを見渡すが、まだ会場入りしていないのか、見つけられなかった。
 ふぅ。


「エリ、久しぶりね。」
「・・・。」

 嘘だろ?いつの間にこんな近くに。
 エリと呼ぶのはあいつしかいない。突然元凶である声が聞こえて、血の気が引いた。

 『ーーあんた本当に役立たずね。ーー』

 この場で言われたわけではないが、私の脳裏にその言葉が響くと血の気が引いていく。

 私は視線を下げていたが、そのまま全身が固まって動けなくなった。ドレスの裾が見えるということは、目の前に立っているんだろう。
 まだ辛うじて震えてはいない。

 すると、私の異変に気付いたのか、ノアの指が私の指に触れた。周りに見えないように、私の指に指を絡めて、そっと背後に回してギュッと握ってくれた。
 すると、固まった体が徐々に動くようになって、ノアを見上げると、私の方を見て微笑んでいた。

 私はキャスの方を向くことなく、ノアの手を握ったまま足早に会場を後にした。


「エリオ、さっきの綺麗な人、無視していいの?」
「いい。エディーが対応するから大丈夫だ。」
「そうなの?あ、本当だ。エドワード様がお話しされてる。」

 会場を後にして廊下を進むと、やっとまともに息ができるようになった気がした。

「ごめん。私1人で抜ければよかったのに、ノアを連れてきてしまった。」
「気にすることないよ。むしろ僕としてはラッキー。夜会って苦手なんだよね。それよりエリオ大丈夫?手が・・・。」

 会場にいた時は何とか耐えていたが、会場を出て気を抜いたら途端に小刻みに震え出した私の手。私は恥ずかしくてノアと繋いでいた手を放そうとしたがノアが放してくれなかった。

「ノア・・・。」
「何があったか知らないけど、僕が付いてるから大丈夫。」
「情けなくてごめん。とりあえず控室に行こう。」
「そっか、エリオは公爵家だもんね。控室があるんだ。」
「そうか、伯爵以下は無いんだったか?」
「無いね。休みたい時は空いてる休憩室を使うんじゃない?」
「あぁ、あの部屋か。休憩室とは名ばかりの・・・。」

 そう言いかけたところで、先日、ノアが私の股間に触れたことを思い出してしまった。
 休憩室と呼ばれている部屋は、酔い潰れた者が休むこともあるにはあるが、そのほとんどは夜会で盛り上がった者たちが情事に耽る部屋だ。
 ノアと私がそのような行為を・・・と想像したら、途端に顔に熱が集まっていった。
 自分の思考が怖い。ノアへの好きが恋だと認識してから、私はおかしくなってしまったようだ。

「エリオ、どうした?」
「い、いや、な、な、何でもない。」
「嘘。そんな動揺してるのに、何でもないことないよね?言って。」
「ここでは言えない。」
「分かった。早く部屋に行こうエリオのその姿、他の人に見られたら良くないし。」

 確かに。指先が震え、顔を赤くしたり青くしたりしている姿など、見苦しくて他の者になど見せられたものではない。

 控室には、ティーセットや酒類、軽食の他に、チェスやカードゲームなども置いてある。高位貴族の控室にはさすがにベッドはない。
 その代わりゆったりとしたソファーが置いてあり、私たちはそのソファーに隣り合って腰を下ろした。

 
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