【完結】うちの子は可愛い弱虫

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12.突然の凶報

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 エリオside

 まさかノアの兄たちと一緒に帰ることになるとは思わなかった。討伐に参加した者の大半は昨日王都へ戻っている。
 今日から2日は休みなのだから、実家でゆっくりするのだと思っていた。
 ノアも、兄たちと明日帰るのかと。

 ノアは長時間の乗馬に慣れていないと言った。
 それなら明日、馬車で兄たちと帰ればいいのに今日帰ると言う。
 相乗りするかと聞くと、嬉しそうに相乗りしたいと言うから私の馬に乗せることにした。

 ノアを先に馬に乗せて、私が乗ると、大人の男が2人で乗るのだから馬への負担はかなりのものだ。私は浮遊魔法を薄くかけ、ノアが落ちたりしないように固定の魔法を重ねてかけた。
 これで普段通り走れるだろう。揺れも少ないから馬に乗りなれていないノアでも王都までであれば耐えられると思う。

「休憩を取ろう。」
「うん。分かった。」


 何度か休憩を挟むと、ノアの兄たちが近づいてきた。

「ホワイト副団長、俺たちはあなたのことを誤解していたのかもしれない。」
「そうか。」

 誤解?何の話だ?
 それよりやはりこの兄たちは怖くて苦手なんだ。ノアの兄だと分かっているが、それでも怖いものは怖い。ろくな返事もできず、顔も強張っていたと思う。
 震えたりしなかっただけまだマシか。
 しかし、私に歩み寄ろうとしてくれたんだろう。私が上手く対応できなくて申し訳ない。
 きっと、この2人も根はいい奴なんだろうな。

 緊張で胸がドキドキしていたが、再び馬に乗ってノアに包み込むように抱きしめられていると、落ち着いてきた。
 ノアは心を癒す魔法でも放出しているのか?

 王都のコックス子爵邸まで送ると、私はそのまま帰宅した。

 帰宅して自室に入ると、ドッと疲れが出て、部屋の隅で膝を抱えた。
 この体勢が1番落ち着く。
 この遠征での反省点はありすぎるが、魔物と魔力溜まりへの対処だけは上手くいったから良かった。

 剣を握ったりしないノアの手は大きかったけど柔らかかったな。自分の硬く厚みのある手を眺めた。
 手を繋ぐなど子供の頃以来だった。大人になっても友人となら手を繋ぐんだな。知らなかった。


 1週間ほどすると、ノアから手紙が届いた。私に渡したいものがあるから持っていきたいと。
 私はすぐに了承の返事をした。

「リーナ、友人が来るから服を選んでくれ。」
「畏まりました。」

 騎士団では制服があるからいいんだが、夜会へ行く時やどこかへ出掛ける時には大抵、侍女のリーナか母上に服を選んでもらっている。
 相手に失礼な服装などをしてもいけないから、幼い頃からずっとそうだった。
 だからクローゼットの中身は、私よりもリーナや母上の方がしっかりと把握している。たまに見たことのない服が出てくる時もあるが、きっと母上が私のために誂えたんだろう。


 コンコン
「エリオット、入りますよ。」
「母上、どうしたんですか?」

 突然の母上の訪問に慌てたが、別に何もおかしなことはしていないと気づいてすぐに招き入れた。

「コックス子爵から手紙がきたわ。」
「そうですか。」
「仲良くやっているようね。」
「えぇ、まぁ。」
「迷惑をかけて申し訳ないがよろしく頼むって内容だったわ。」

 いつも迷惑をかけているのは私の方なんだが。

「そうですか。」
「その服は?」
「ノアが来るから、リーナに選んでもらった。」
「まあまあまあ、母もノアさんに一度挨拶したいわ。」
「分かった。」

 母上はノアには会ったことがないのか。
 母上や父上は当然ノアに会っているのだと思っていたが、そうではなかったのか。
 友人候補として選んだのは母上たちなのだから、ノアの父であるコックス子爵には会っていそうだな。


 コンコン
「エドワード様がお越しですがいかがいたしますか?」
「は?なんでエディーが?」

 私の返事も聞かないうちに勝手にドアを開けて入ってきたエディーに私は呆れた。
 しかもこれからノアが来るというこんな時にわざわざ来なくてもいいのに。

「よぉ!エリオ、元気だったか?」
「あぁ。」
「どうした?そんな格好をして。」
「友人が来るんだ。」
「へ~、友人ね。エリオの友人なんて珍しいね~」

 私にだって友人の1人や2人・・・と思ったが、友人と呼べるのはノアと、エディーだけだった。確かに、こんな私の友人など珍しいよな。
 エディーは、友人だよな?
 そして私は疑問に思っていたことを聞いてみることにした。

「エディーは私の友人だよな?」
「は?何だ急に。数少ないエリオの友人だろ。」
「そうか。」

 不思議だ。エディーを目の前にしても、抱きしめたいとかキスしたいとか手に触れたいとかは全然思わない。
 好きと言えば好きだが、好きだと告げるほど好きというわけでもない気がする。
 大切だとは思うが、ノアに抱く感情とは少し違う気がした。
 幼い頃から一緒にいたからかもしれない。

「それでエディーは何しに来たんだ?」
「あぁ、そうそう。隣国に嫁いでた姉上が今度里帰りするんだとよ。」

 そのエディーの言葉を聞いて一気に血の気が引いて背中を冷たい汗が伝った・・・。細かく指も震えている。
 姉上・・・それはキャサリンだ。エディーが姉上と呼ぶ人物は2人しかいない。1人はエディーの兄である第一王子の奥方。そしてもう1人は隣国へ嫁いだキャサリン。
 里帰りということはキャサリン以外にはいない。幼い頃に冷たく当たられ、散々役立たずだと罵られ、そして悪夢として今でもたまに夢に登場するあの恐怖の塊のような人物。

「そ、そ、そ、そ、そうか。」
「エリオ、凄い動揺だな。まだ苦手か。」

 これからノアが来るのに、こんなに動揺して、どうしよう・・・。
 こんな情けない私は見せたくない。

「・・・み、皆、部屋から出て行ってくれ。頼む。」

 そう言った声も掠れて震えていた。

 1人になりたかった。早く冷静にならなければ。
 ノアが来る前に。



 -----


「エディー、あまりあの子を虐めないでね。それでキャスが帰ってくるというのは本当のことなの?」
「ええ。早めに知らせた方がエリオも心の準備ができると思ってたんですけど、タイミングが悪かったか。
 それにしても、まだあんなに苦手なんですね。」
「困ったわね。最近少しずつ優しい顔もできるようになっていたのに。」
「エリオが優しい顔?もしかして今日来るとかいう友人が関係しているとか?」
「そうね。彼と友人になってから少しずつ変わってきていると思うの。」
「彼?叔母上はその者とエリオを結婚させる気ですか?」
「それは分からないわ。エリオットがそうしたいなら、それでも構わないわ。」

「ホワイト家の世継ぎはどうするのです?」
「エディーのところの子供を養子にしてもいいし、他の親戚の子でもいいわね。
 別に世継ぎはいいのよ。それよりも私はエリオットの幸せを望むわ。」
「そうですか。
 あぁ、本当にあのタイミングでエリオに伝えたのは良くなかった・・・。」
「ここはノアさんに任せてみようかしら。エリオットがああなってしまうと私たちにできることなど何もないわ。」

「あの状態のエリオをどうにかできるほどの人物なのですか?そのノアという男は。」
「どうかしらね?それは分からないわ。でも、私は少し期待しているのよ。あのエリオが変わろうとしているのですもの。」
「確かに。」

 エリオに部屋を出され、サロンに移動した母と第二王子の間ではそのような会話があった。

  
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