【完結】うちの子は可愛い弱虫

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9.洞窟での出来事

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 日暮れを前に、騎士団の討伐隊は領都へ戻った。
 明日また朝から捜索と魔物の殲滅をする。副団長が戻っていないのが気になったが、あの人は大丈夫だと魔法騎士の面々が言うので、放置されることになった。


 朝になって目覚めると、ノアが隣で寝ていた。
 なぜだ?
 しかも洞窟のようなところで。
 記憶を辿るとようやく思い出した。ノアを助けた後、魔力切れで倒れたことを。ここまでノアが運んでくれたんだろう。

 ノアの寝顔を盗み見る。可愛いな。ノアは寒いのか、丸まって肩をすくめて少し震えている。もう一度抱きしめたい。私は寝ているノアをそっと抱きしめた。
 温かくて、柔らかくて、私はまたそのまま眠ってしまった。



 -----
 ノアside

 目が覚めると、エリオに抱きしめられて寝ていた。え?なんで?眠いのに寒くて寝れなかったはずだけど、エリオが抱きしめていてくれたからか、温かくていつの間にか寝てしまったようだ。

 どうしようかと悩みながらモゾモゾ動いていると、エリオの目が開いた。

「おはよう。眠れた?」

 この柔らかな口調と微笑みは何だろう?
 破壊力抜群なんですけど。もしかして寝ぼけてる?誰かと間違えてるとか?
 イケメンの微笑みと甘い声にドキドキしながらボーッしていると、その弧を描いた唇が次の言葉を紡いだ。

「ごめんね、魔力切れで倒れてしまって。ノアが運んでくれたの?ありがとう。」

 う、ヤバイ、その微笑み何なの?口調も甘く柔らかいし、破壊力がすごい微笑みをこんな至近距離で見せられたら、僕はどうしたらいいか分からない。

「ノアが無事でよかった。」と言って強く抱きしめられた。

 これでは勘違いしてしまう。恐れ多くも僕のことを好きなんじゃないかって。

 しかも彼は抱きしめていた手を少し緩めると、僕の額に口付けた。


 なっ!

 声も出せずにハクハクと口を動かしていると、とどめの一言が降りてきた。

「好きだよ。あぁ、夢の中ならこんなに素直に言えるのに。夢の中なら・・・」

 彼はそう呟くとそっと目を閉じた。
 何だったの?でも抱きしめてる手は離さないでいてくれる。
 もしや、誰かと間違えてる?実はエリオには好きな子がいて、僕のことをその子と間違えているのかも。
 それでも目の前で甘い声で好きなんて言われたら、僕は真っ赤になったまま、エリオの腕の中で動けずにいた。


 そしてしばらくすると彼は再び目を開けた。
 僕を抱きしめていることに驚いて、アワアワとしながら急いで離れていった。

「ノア、ご、ごめんなさい。」


 やっぱり僕じゃなかったのかな?
 そんな逃げることないのに。寝ぼけて間違えたって笑ってくれた方がいい。

 洞窟の奥の方に向かったまま、なかなか戻って来ないから仕方なく逃げたエリオを追いかけてみると、洞窟の1番奥で膝を抱えて蹲っていた。

 え?
 これこそが夢?
 僕は幻覚でも見たのかと思って目を擦って、更に頬を抓ってみたけど、痛かったし、そのエリオの姿は本物みたいだった。

 もしかしてエリオって・・・。
 いやいやいや、ただ寒くて丸まって眠っているだけかもしれないし。

 動揺しながら僕はそっとエリオに近づいた。



 -----
 エリオside


「ノア、ご、ごめんなさい。」

 ノアを抱きしめて寝ていた・・・最悪だ。あれは夢だと思ったのに、本当に抱きしめて寝ていた。絶対に嫌われた・・・。というか痴漢だ。
 私は動揺しながら洞窟の奥まで逃げて、膝を抱えた・・・。

 さすがにこれはない。もうだめだ。酔っているわけでもないのに。ノアは私の腕の中でジッと私を見ていた。
 きっと夢だと思って、雷を足に浴びせてみたら、とてつもなく痛かった。
 残念ながら現実だ・・・。
 もう、泣きそうだった。


「エリオ?」

 ノアが寄ってきた。あ、しかもノアがいる場所でこんな膝を抱えて、情けない姿をしているところを見られた。
 もうこのまま魔法で穴を掘って自分で生き埋めにして死のう。
 魔法を発動しようとしたら、ノアが言った。

「僕も好き。エリオのこと。」
「え?」

 僕も?も?ってなんだ?好き?私を?
 パニックだ。
 あたふたしていると、

「嬉しかった。好きだって言ってくれて。」
「えっと、何の話だ?」
「え?さっき、抱きしめて言ってくれたよね?やっぱり僕じゃなくて、寝ぼけて別の誰かと勘違いしてた?」

 エエェェェェェェ!!

 声にならない声が私の脳を震わせた。
 まさか、さっきの、夢かと・・・


「そっか。やっぱり好きなのは僕じゃなくて他の誰かだったか。」
「あ、いや、ノア以外に好きな奴なんかいないが。
 私は、もしかして、ノアを抱きしめて、額にき、き、キス、、した?」
「うん。したよ。」

 ノアは頬を染めて恥ずかしそうにモジモジしている。何だその反応。可愛いな。いや違うそうじゃない。
 私は自分の失態に、声にならない声をあげて頭を抱え込んだ。

「・・・。」
 しばらくしてそっとノアを盗み見る。

「ご、ご、ごめん。い、い、嫌じゃなかった?き、き、気持ち悪い、とか。」
「なんでだよ。僕たち一回キスしてるじゃん。僕は嬉しかった。」

「そ、そ、そう・・・。」
 動揺が酷すぎて、感情を押し殺すこともできず、受け答えもまともにできないし、自分でも分かるほどに声が震えている。


 深呼吸しよう。
 スーハースーハースーハースーハー

 ふぅ。やっと落ち着いてきた。
 ちゃんと顔を作って、私はスクッと立ち上がった。

「みんなが心配している。帰ろう。」
「あ、え?うん・・・。」


 無かったことにしよう。忘れよう。
 私は洞窟の入り口に向かってスタスタと歩き出した。


「エリオ。」

 そうはいかないようだ。
 ノアは私の腕を掴んで、私は歩みを止めざるを得なくなった。

「なんだ?」
「無かったことにするつもり?
 本当の気持ちを聞かせて。僕のこと、好きなの?違うの?」
「・・・。」

 これは、もう言わないとここを動けないんだろう。
 やはりあんなことまでして、しかも好きだと言って、このまま無かったことになんてできなかった。


「・・・だ。」
「え?聞こえない。」
「ノアのことが、好きだ。」

 私は腕を掴むノアに背を向けたまま小声で答えた。

「本当?嬉しい。僕もエリオのことが好きだよ。」
「そうか。」
「え?そうかって何?・・・あ、もしかして友人として好きってこと?恋じゃなくて。」
「恋?友人として好きだ。」
「あーもーなんだ。そういうことか。別にいいけどさ。
 でもキスは何で?」
「・・・したくなって。ごめん。」

「それって・・・、まぁいいや。僕は嬉しかったよ。謝らないで。」
「分かった。とにかく戻ろう。みんなが心配しているから。」
「そうだね。」

「飛んで帰るがいいか?」
「は?え?飛んで?今飛んでって言った?」
「あぁ言った。今から抱きあげるから、掴まっていてくれ。」

 私はノアを横抱きにすると、飛翔魔法で高く飛び上がり、空を飛んで領地を目指した。
 飛んできたから、歩いて帰る道なんか分からないしな。
 領都の門の前で降りて、帰還を伝え、ノアを横抱きにしたまま領主邸まで連れて行った。

  
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