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8.ノアの回想2/2

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 でもエリオが抱きついているから全然眠れなくて、寝返りを打った時に腕は離れていったからこれで眠れるかもと思ったら、エリオは寒かったのか小さく丸まって目を覚ましたようだった。

「ノアと飲みに行ったのは夢か?現実か?」
「現実だよ~」

 エリオが呟くのを聞いて、夢にしたくなかったから現実だと答えたら、エリオは恐る恐る僕の方を振り向いて息を呑んだ。
 寝てる間に運ばれて、しかも自分の部屋のベッドに友達の男が一緒に寝ているなど驚くよな。

「楽しくて飲ませすぎてごめんね~、僕も飲みすぎちゃった。僕がエリオにキスしたらエリオが寝ちゃったから、屋敷まで連れてきたんだけどね、エリオが離してくれなかったから一緒に寝ることにしたんだよ~
 ビックリした?」
「キス・・・」

 キスしたことも無かったことにしたくなくて、サラッと伝えたら、何か考えている感じだった。必死に記憶を辿っていたのかもしれない。

「まだ朝まで時間あるから寝よ?」
「あぁ。迷惑をかけてすまない。」
「そんなこと気にしなくていいのに。」

 酔い潰したりキスしたり同衾したり、僕の方が不敬だと言われてもおかしくないのに、エリオは僕を責めるどころか謝ってきた。
 硬い表情の下にはこんなに優しい人が隠されていたんだな。


「私はどうすればいい?ノアに迷惑をかけた。どうやって償えばいい?」
「償いなんて要らないよ。あーじゃあ、ずっと友達でいて?また一緒に飲みに行こうよ。」
「分かった。」

 償いなんて必要ないけど、僕はエリオとずっと友達でいたかったから、こんなことを要求した。

 エリオは落ち込んだ様子だった。
 確かにエリオが失態を犯したなんて聞いたことがない。しかも僕みたいな口が軽そうな奴に知られてしまったから、吹聴されると恐れているのかもしれない。
 そんなことしないよ。僕はエリオのことを大切だと思ってるから、エリオが不利になることなんてしないから安心して。


 友達でいてほしいと言ったものの、きっとエリオは僕には会いたくないだろう。
 ほとぼりが冷めたら、特製ポーショをエリオにプレゼントしてもう一度仲良くなれるよう努力しよう。
 そんな風に思っていたのに、2週間ほど経つとエリオから手紙が届いた。
 謝罪文と、魔法陣の資料を作ったことが書かれていた。まるで報告書のような内容に思わず笑ってしまった。

 翌日はちょうど休みだったため、手紙を届けてくれた男性に、明日伺いたいと告げた。会えるなら会いたい。会いに行ってもいいんだよな?
 僕は浮かれていたと思う。

 ウキウキしながら支度をして公爵邸へ向かうと、エリオの部屋に案内してくれて、お茶を飲みながら、エリオが作ってくれた魔法陣の資料の説明を聞いた。

 魔法陣の本は色々ある。それは知ってるけど、魔法薬に使う魔法陣に特化した本など見たことがない。
 エリオが作ってくれた資料は本当に分かりやすくて凄いと思った。それで研究所のみんなにも見せていいか聞くと、了承してもらえて、凄いと褒めちぎったら、凄く甘い顔で微笑んでくれた。


「エリオ酔ってなくてもそんな顔できるんだ?」
「え?」
「エリオが微笑んでる顔、凄く綺麗で可愛い。」
「恥ずかしい・・・。」

「あ、エリオのその顔ヤバイ。シラフなのに、すっごいキスしたい。酔ってるからそんな気になったのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。」
「え?」
「あー、ごめん。エリオはそんな気分じゃないよね。」
「・・・。」

 訝しげな顔で固まってしまったエリオを見て、しまったと思った。
 あの時は酔っ払いが調子に乗っただけだと流してくれたのかもしれないが、今のは完全に引いていた。
 あぁ、さっきの発言全てを取り消したい。残念ながらそんなことはできないが、失敗した。だからいつもちゃんと考えてから発言しろと怒られるんだ・・・。

 僕は居た堪れない気持ちになって、もっと一緒にいたいとも言えずに帰ることにした。
 しばらく領地で大人しくしておこう。エリオに特製ポーションを作るために、領地へ薬草を採りに行こうとは思っていたし、頭を冷やさないといけないと思った。

 項垂れながら帰宅して、さっさと領地へ旅立つ準備をしていたら、出発前にエリオが来た。
 なんで?

「ノア、ごめん。私が何も答えられなかったから傷つけたと思って、謝りに来た。領地までノアを送って行きたい。」
「いいの?嬉しい。」

 僕が変なこと言って、勝手に居た堪れなくなって逃げ帰ったのに、何でそんなに優しいの?
 ダメだよそんな風に優しくされたら好きになっちゃう。

 領地まで送ってくれた時のエリオは本当に格好良かった。すぐに魔物を見つけて、一瞬で討伐から処理まで完了してて、本当に瞬きしてたら終わってるくらいだった。
 さすが副団長。
 騎士団の中でも魔法の腕がトップだと聞いているだけのことはある。


 そんな彼に贈れるものがあるとしたら、ポーションくらいだよな。
 それ以外は自分で買えるだろうし。
 だから僕は早くポーションを完成させたくて、早く薬草を採りに行きたかった。


 それなのに魔物に囲まれて・・・。

 空からエリオが助けに来てくれたことも、抱きしめられたことも、倒れ込んできたことも。
 驚きしかなかった。

 エリオが僕に倒れ込んできた時は、エリオも僕のこと好きで押し倒されたのかと思ったが違った。それは無いか・・・。

 ライトを飛ばして洞窟へ彼を引きずって入った。僕も魔力がもう残り少ないから、身体強化を使って背負っていくことができなかった。
 もう日が暮れる。

 雨風凌げればいい。朝になったらきっと魔力も回復して、エリオも目を覚ますと思う。
 それにしても疲れたな。魔物と追いかけっこして、僕はもうクタクタだった。

 死ぬかもしれないと緊張した状態から、エリオに助けられて、そして洞窟に入ったら一気に疲れと眠気が襲ってきた。

  
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