8 / 49
8.ノアの回想2/2
しおりを挟むでもエリオが抱きついているから全然眠れなくて、寝返りを打った時に腕は離れていったからこれで眠れるかもと思ったら、エリオは寒かったのか小さく丸まって目を覚ましたようだった。
「ノアと飲みに行ったのは夢か?現実か?」
「現実だよ~」
エリオが呟くのを聞いて、夢にしたくなかったから現実だと答えたら、エリオは恐る恐る僕の方を振り向いて息を呑んだ。
寝てる間に運ばれて、しかも自分の部屋のベッドに友達の男が一緒に寝ているなど驚くよな。
「楽しくて飲ませすぎてごめんね~、僕も飲みすぎちゃった。僕がエリオにキスしたらエリオが寝ちゃったから、屋敷まで連れてきたんだけどね、エリオが離してくれなかったから一緒に寝ることにしたんだよ~
ビックリした?」
「キス・・・」
キスしたことも無かったことにしたくなくて、サラッと伝えたら、何か考えている感じだった。必死に記憶を辿っていたのかもしれない。
「まだ朝まで時間あるから寝よ?」
「あぁ。迷惑をかけてすまない。」
「そんなこと気にしなくていいのに。」
酔い潰したりキスしたり同衾したり、僕の方が不敬だと言われてもおかしくないのに、エリオは僕を責めるどころか謝ってきた。
硬い表情の下にはこんなに優しい人が隠されていたんだな。
「私はどうすればいい?ノアに迷惑をかけた。どうやって償えばいい?」
「償いなんて要らないよ。あーじゃあ、ずっと友達でいて?また一緒に飲みに行こうよ。」
「分かった。」
償いなんて必要ないけど、僕はエリオとずっと友達でいたかったから、こんなことを要求した。
エリオは落ち込んだ様子だった。
確かにエリオが失態を犯したなんて聞いたことがない。しかも僕みたいな口が軽そうな奴に知られてしまったから、吹聴されると恐れているのかもしれない。
そんなことしないよ。僕はエリオのことを大切だと思ってるから、エリオが不利になることなんてしないから安心して。
友達でいてほしいと言ったものの、きっとエリオは僕には会いたくないだろう。
ほとぼりが冷めたら、特製ポーショをエリオにプレゼントしてもう一度仲良くなれるよう努力しよう。
そんな風に思っていたのに、2週間ほど経つとエリオから手紙が届いた。
謝罪文と、魔法陣の資料を作ったことが書かれていた。まるで報告書のような内容に思わず笑ってしまった。
翌日はちょうど休みだったため、手紙を届けてくれた男性に、明日伺いたいと告げた。会えるなら会いたい。会いに行ってもいいんだよな?
僕は浮かれていたと思う。
ウキウキしながら支度をして公爵邸へ向かうと、エリオの部屋に案内してくれて、お茶を飲みながら、エリオが作ってくれた魔法陣の資料の説明を聞いた。
魔法陣の本は色々ある。それは知ってるけど、魔法薬に使う魔法陣に特化した本など見たことがない。
エリオが作ってくれた資料は本当に分かりやすくて凄いと思った。それで研究所のみんなにも見せていいか聞くと、了承してもらえて、凄いと褒めちぎったら、凄く甘い顔で微笑んでくれた。
「エリオ酔ってなくてもそんな顔できるんだ?」
「え?」
「エリオが微笑んでる顔、凄く綺麗で可愛い。」
「恥ずかしい・・・。」
「あ、エリオのその顔ヤバイ。シラフなのに、すっごいキスしたい。酔ってるからそんな気になったのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。」
「え?」
「あー、ごめん。エリオはそんな気分じゃないよね。」
「・・・。」
訝しげな顔で固まってしまったエリオを見て、しまったと思った。
あの時は酔っ払いが調子に乗っただけだと流してくれたのかもしれないが、今のは完全に引いていた。
あぁ、さっきの発言全てを取り消したい。残念ながらそんなことはできないが、失敗した。だからいつもちゃんと考えてから発言しろと怒られるんだ・・・。
僕は居た堪れない気持ちになって、もっと一緒にいたいとも言えずに帰ることにした。
しばらく領地で大人しくしておこう。エリオに特製ポーションを作るために、領地へ薬草を採りに行こうとは思っていたし、頭を冷やさないといけないと思った。
項垂れながら帰宅して、さっさと領地へ旅立つ準備をしていたら、出発前にエリオが来た。
なんで?
「ノア、ごめん。私が何も答えられなかったから傷つけたと思って、謝りに来た。領地までノアを送って行きたい。」
「いいの?嬉しい。」
僕が変なこと言って、勝手に居た堪れなくなって逃げ帰ったのに、何でそんなに優しいの?
ダメだよそんな風に優しくされたら好きになっちゃう。
領地まで送ってくれた時のエリオは本当に格好良かった。すぐに魔物を見つけて、一瞬で討伐から処理まで完了してて、本当に瞬きしてたら終わってるくらいだった。
さすが副団長。
騎士団の中でも魔法の腕がトップだと聞いているだけのことはある。
そんな彼に贈れるものがあるとしたら、ポーションくらいだよな。
それ以外は自分で買えるだろうし。
だから僕は早くポーションを完成させたくて、早く薬草を採りに行きたかった。
それなのに魔物に囲まれて・・・。
空からエリオが助けに来てくれたことも、抱きしめられたことも、倒れ込んできたことも。
驚きしかなかった。
エリオが僕に倒れ込んできた時は、エリオも僕のこと好きで押し倒されたのかと思ったが違った。それは無いか・・・。
ライトを飛ばして洞窟へ彼を引きずって入った。僕も魔力がもう残り少ないから、身体強化を使って背負っていくことができなかった。
もう日が暮れる。
雨風凌げればいい。朝になったらきっと魔力も回復して、エリオも目を覚ますと思う。
それにしても疲れたな。魔物と追いかけっこして、僕はもうクタクタだった。
死ぬかもしれないと緊張した状態から、エリオに助けられて、そして洞窟に入ったら一気に疲れと眠気が襲ってきた。
81
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる