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6.コックス子爵領
しおりを挟む「団長はいるか?」
「今日はお休みですよ。」
「そうか。では私が責任者でいい。緊急で調査隊を派遣したい。小隊4つくらいでいいか。
メインの方角は王都の南西でコックス子爵領へ続く街道並びにその周辺。その他の各方面も調査する。
団長には手紙で報告する。」
「畏まりました。」
調査は翌日から行われることになった。
数日はかかるだろう。
弱い魔物であればその場で倒し、高ランクの魔物や、魔物が湧き出る魔力溜まりが見つかれば、調査のみに留めて至急報告だけ上げてもらう。
ノアは大丈夫だろうか?
薬草を取りに行くということは森に入るということだ。魔物がいるかもしれない。
すぐにでもノアの元に駆けつけたいと思ったが、この調査の責任者としてここを離れることができない。
何と不便なことか。
ノアに何かあれば死んでしまう。私の大切なノア。
唯一の友達。
ずっと友達でいると約束した。会いたい。触れたい。もう一度キスしたい。
あぁ、なるほど。大切な友達となるとキスしたくなるものなんだな。そうか。ノアは今の私と同じ気持ちだったんだ。
仲のいい友人というのはキスをしたくなるものなのか。よかった、ノアがヒントをくれていたから、私はこの感情が大切な友人へ向けたものなのだと分かった。
嬉しい。ノアはとっくに私のことを友人だと認めてくれていたことが嬉しいと思った。
調査は数日間に渡り、やはり魔物は南西のコックス領の領都とその周辺で多く見られた。危険ランクの魔物も何体か確認されている。
そして、コックス領の領都から近い森に魔力溜まりが発見された。
ノア・・・
討伐隊には私も責任者として同行することになった。私は普段は魔力溜まり程度なら同行しないんだが、自ら行くと志願した。
災害級の魔物が複数出るような場合でないと同行しないが、災害級とまではいかないものの高ランクの魔物が複数確認されていることも気になった。
討伐隊に志願する者の中には、ノアの兄2人がいた。ノアの骨格は血筋か。兄はどちらも体格が良く、ノアの体格に筋肉を纏わせたような屈強な男という見た目だった。
一応挨拶をと思ったが、先日会った兄には睨まれ、初めて会う兄には、避けられて近付くこともできなかった。
私は嫌われているようだ。
どちらの兄も魔法騎士ではなく剣士部隊の所属だと思われる。だから接点が今まで無かったんだな。
挨拶もできないまま、討伐隊は出発することになった。
すると、先日会った兄が私の元に来た。
「副団長、うちの領地の周辺の異常に気付いて調査をしたのは副団長の指示だったと聞いた。感謝する。」
「当然のことをしただけた。」
「そうか。ノアのことは虐めてないだろうな?」
「大切な友人だと思っている。虐めたりしない。」
「そうか。」
それだけ言うと兄は去っていった。
威圧が凄かった。感情を押し殺して何とか保ったが、今になって手が震えている。
私の緊張が伝わってしまったのか、馬もどこか落ち着かない様子で首をしきりに動かしているし、仕方なく隊列から外れて馬を宥めた。
いや、馬のためだとか言って、結局は私の震えが止まらなかっただけなんだが。
「よしよし、大丈夫だ。
今までちゃんと出来ていた。何も心配ない。」
馬に言っているのか自分に言っているのか、もはや分からない内容だが、とにかく感情は押し殺して任務に集中しようと思った。
「なぁ、今日の副団長いつもに増して機嫌が悪くないか?」
「俺も思った。大したことない案件に引っ張り出されたのが気に食わないんじゃないか?」
「さっきも苛々して隊列から外れていたしな。」
そんな話を周りがしていたが、エリオットにとってはそれどころではないため聞こえていなかった。
ふぅ、もうそろそろか。
念のためと索敵を広げてみる。
ん?
危険ランクの魔獣は1体だと報告されていたのに、3体見つかった。
しかも1体は領都の近くで領都に向かっている。
「危険ランクの魔物が3体いる。そのうち1体は領都方面に向かっている。すぐに分かれて討伐を開始する!」
「俺たちは領都へ行かせてくれ!」
凄い気迫で迫ってくるノアの兄たちに、少し引き気味になりながら、自分たちの領地が危険に晒されているのだからそれは当然の主張だと思い了承した。
私は彼らに領都は任せて残りの2体と魔力溜まりの処理に向かった。
領都方面には、兄2人の他に剣士5名と魔法騎士を3名、森にいる危険ランクの魔物2体も同じように剣士7名と魔法騎士3名ずつ。魔力溜まりには、剣士15名と魔法騎士10名プラス私。残りは2人1組で森の中の魔物討伐に当たらせる。
危険ランクの魔物を倒したら、報告だけ寄越して2人か3人ずつで分かれて散り、森の魔物討伐に入るよう指示をした。
魔力溜まりからは続々と魔物が湧いて出てくる。
剣士全員と魔法騎士の半分に魔物討伐をさせて、残りの魔法騎士で魔力溜まりの淀んだ魔力を浄化していく。
聖女みたいな浄化を得意とするものが居ればいいが、聖女は神聖国の聖都にいるので、この程度の魔力溜まりくらいでは呼び寄せることはできない。
無理やり浄化を捻り出すため、魔力の消費も激しい。魔力回復ポーションや、体力回復ポーションをガブガブ飲みながら5時間ほどで魔力溜まりは消えた。
剣士も魔法騎士も、ポーションの飲み過ぎでお腹はタプタプだ。狼煙代わりに小さな光魔法を1発上げて、団員達を呼び戻す。
2人1組で森に散らばっていた者は戻ってきたが、危険ランクの魔物に向かった者たちがまだ戻ってこない。そういえば討伐の報告を聞いていないな。
慌てて探ると、2体は森におり、今いるメンバーを全て二手に分けて援軍として向かわせた。
そして私は領都方面の1体に向かった。
兄達が領民の避難を先にしてから、戦闘を開始したようで、領都は静かだったが被害は無いようだ。
戦って撤退してを繰り返して、徐々に魔物の体力を奪っているようだが、こちらも体力が奪われており、辺りにはポーションの瓶も大量に転がっている。
私が参戦すると、攻撃魔法は得意なのであっけなく終わった。森の2体も間も無く討伐報告がきた。これまでに魔物の体力を削っていたのも大きかったのだろう。
そして領都に入り、領主に魔物の討伐を報告した。
ところがノアがいないと兄たちが焦っている。
事情を聞いてみると、朝、薬草を取るために屋敷を出てから戻っていないのだと言う。魔物の討伐をすることを聞いていなかったのか?
どこへ行った?かなりの数の魔物を倒したと報告を受けているが、まだ全滅したわけではない。もしも森にいるなら危険だ。あと1時間もしたら日が暮れ始める。
私は魔力回復ポーションを飲み、索敵を開始する。大型の魔物なら見つけやすいが、人間は見つけにくい。小動物なども全て索敵に引っかかるため、よほど大きい魔力を持っている人間でない限り、そこから見つけるのは大変なんだ。
私は魔力を多く使う飛翔魔法を使いながら索敵も発動して森を探し回った。兄達も他の団員も駆けながら探した。団員には魔物は見つけ次第処理するよう通達している。
森の奥の洞窟近くで、魔物が複数群れているのが確認できた。その先には小動物のような反応もある。もしやと思って向かってみると、逃げるノアに今にも追いつきそうな魔物数体を見つけた。
私はすぐに魔物を処理すると、ノアの前に降りた。ノアは必死に逃げていたようで至る所に草や泥がついて、腕にも顔にも引っ掻き傷があった。そして、ノアは真っ青な顔でガクガクと細かく震えていた。
私は咄嗟にノアを抱きしめていた。
ノアの方が体格がいいから、包み込むというより抱きついている感じになってしまったが、それは仕方ない。ノアに浄化をかけて服を綺麗にし、治癒をかけて擦り傷を癒した。
そして、落ち着くように心を癒す魔法も重ねがけした。
その瞬間、あ、と思った。
ポーションをがぶ飲みしていたとはいえ、魔力を大量に使う飛翔や浄化や治癒、癒しを重ねてしまった。
あの魔力溜まりの浄化と戦闘の後だ。フワッと意識が傾いて、力が抜けていき、ノアに覆い被さるように倒れた。
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