【完結】うちの子は可愛い弱虫

cyan

文字の大きさ
上 下
5 / 49

5.ノアの訪問と護衛

しおりを挟む
  

「あらあらあら、またこんなところでお休みになられて。学生の頃はよく机で眠っていましたが、こんな姿を見るのは久しぶりですね。
 坊ちゃま、朝ですよ。起きてください。」
「ん?うん。あぁ、私は眠ってしまったのか。」
「そうですよ。今日はお休みですが来客がありますから早めに支度された方がよろしいかと。」
「来客?そんな予定あったか?」

「そうでした。昨夜ピエールが戻ってきた時にはもう坊ちゃまはお休みになられていたんでしたね。
 コックス子爵家のノア様がいらっしゃる予定ですよ。」
「え!?すぐに風呂に入る。」
「そう仰られると思いまして準備はできております。」
「服も、小綺麗なものを見繕ってくれ。」
「畏まりました。」

 私は走って風呂に向かい、念入りに体を洗っていい香りのオイルを塗って体をほぐしてもらった。
 資料を取りに来るだけだろうが、昨夜は寝ている間に嫌な汗をかいたし、机で寝て体も痛かった。ノアにそんな状態で会うなどとんでもない。


 嬉しい。わざわざうちに来てくれるなんて思わなかった。ドキドキと胸が高鳴り、顔に熱が集まるのを感じて、私は冷静にならなければと冷水で何度も顔を洗った。

「この髪、変じゃないか?この服で大丈夫か?」
「えぇ、とても素敵ですよ。」
「そうか。ならいいんだ。」

 リーナに何とも生温かい目線を送られて、自分が思った以上にはしゃいでいることに気付いて恥ずかしくなった。


 コンコン
「ノア様がいらっしゃいました。お部屋にお通ししますか?サロンにしますか?」
「部屋で。紅茶と菓子を用意してほしい。」
「畏まりました。」

「エリオ、手紙ありがとう。堅苦しい内容が騎士団って感じがして思わず笑っちゃったよ。」
「業務連絡や招待状の返事以外に手紙など書いたことがなかったから、すまない。
 来てくれてありがとう。」
「ううん、全然いいよ~
 エリオに会いたかったし。嬉しかったよ。」

 会いたかった?私に?手紙、嬉しかったんだ・・・。無駄じゃなかった。
 嬉しい。ノアはいつも私のガチガチに固まって凍り付きそうな心を温かく包んで溶かしてくれる。

「エリオ?」
「あぁ、すまない。資料だったな。すぐに用意する。」
「うん。そっか、僕は暇でもエリオも暇とは限らないよね。ごめん急に押しかけて。
 エリオと会えるから浮かれてたみたい。」
「私も、だ。」

 ノアは人を喜ばせるのが上手だな。そんなに気を使わなくてもいいのに。私が公爵家の人間だからだろうか?そうだとしたら申し訳ないな。

「気を使わせてしまってすまない。」
「え?何の話?むしろ気を使ってくれてるのはエリオでしょ?
 僕なんて結構適当に生きてるからさ~
 思ったことすぐに口にしちゃうし、だからよく怒られる。変なこと言ったらごめんね~」
「大丈夫だ。ノアに変なことを言われたことなどない。」

 一瞬、キスのことが頭を過ったが、あれは酔っていたのだし変な発言とは違う。
 いや、あれは忘れると決めたんだ。深く考えるな。

「そう?それならいいや。」

 コンコン
「お茶をお持ちしました。」
「入れ。」

 リーナがテーブルにティーセットと菓子を置くと部屋を出て行った。

「お茶を飲みながら簡単に説明する。これが資料で・・・」

 私はノアに資料を見せながらザックリと資料の説明をした。

「凄い!これ、あの後で書いてくれたんだよね?あの魔法陣のことも書かれてるし。こんなに短時間でこんな資料作れるものなの?エリオはやっぱり凄いな~」
「そうかな。」
「尊敬する。しかもこれ、既存の魔法陣を読み解くだけじゃなくて応用まで書いてくれて、凄い助かる。これ研究所の他の人にも見せていい?」
「あぁ、こんなのでよければ。」
「エリオありがとう。」

 そんなに喜んでくれると思わなかった。
 人に喜んで貰うって嬉しいものなんだな。
 もっとノアを喜ばせたいと思った。

「エリオ酔ってなくてもそんな顔できるんだ?」
「え?」
「エリオが微笑んでる顔、凄く綺麗で可愛い。」
「恥ずかしい・・・。」

 そんなこと初めて言われた。
 まぁ当たり前か。だいたい人前では緊張で顔が強張って、何度笑えと言われても笑えなかった。私が微笑むことができることにも驚いている。どんな顔をしているのか分からなくて恥ずかしい。ノアの前なのに顔に熱が集まるのを感じて思わず下を向いた。

「あ、エリオのその顔ヤバイ。シラフなのに、すっごいキスしたい。酔ってるからそんな気になったのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。」
「え?」
「あー、ごめん。エリオはそんな気分じゃないよね。」
「・・・。」

 分からない。キスしたいと言ったように聞こえたが、聞き間違いかもしれない。
 それとも私は欲情を煽るようなおかしな顔をしていたのか?
 何と答えたらいいのか分からなくて、迷っているうちに答えるタイミングを逃してしまった。

「ごめん、変なこと言って。僕、帰るね。」
「あ、あぁ。」

 何か言わなければと思いながらも何も言葉が出てこなかった。もう少し話したいと、一緒にいたいと思ったけど、全然何も言葉が浮かばない。
 引き留めていいのかも分からなくて、口が動かなかった。

「僕、次の研究で使う薬草を採りにいくから、これからしばらく子爵領に行くんだ。戻ったらまた会ってくれる?」
「あぁ、勿論。」
「そっか、よかった。変なこと言ったから嫌われたかと思った。」
「そんなことない。」
「そっか。じゃあまた。」

 ノアを見送ったが、なんだか元気がない様子だった。私のせいかもしれない。あの時、何も答えられなかったから。
 私が不甲斐ないばかりに、ごめん。



 ーーーーー


 コンコン
「エリオット、開けてちょうだい。」

 母上が珍しく部屋を訪ねてきた。

「エリオット、何を落ち込んでいるの?
 お友達が家に来るとかで嬉しそうだったと聞いていたのに、なぜすぐに帰してしまったの?何かあったのかしら?」
「いえ・・・私が不甲斐ないばかりにノアを傷つけてしまったのかも。」
「なら追いかけて謝りなさい。」
「もうノアは領地に旅立ったかもしれない。しばらく領地に薬草を取りに行くと、言っていたので。」
「大切な友達なら送っていってあげたらどうかしら?コックス子爵領は確か馬車で4時間ほどのところだったと思うわ。」
「しかし・・・。」
「人はね、他人の心の中なんて読めないのよ。ちゃんと言葉にして伝えないと伝わらないわ。行きなさい。」
「は、はい。」


 私は帯剣だけすると、馬に跨ってコックス子爵邸を目指した。

 屋敷の前には馬車が用意してあり、これから出発しようというところだった。


「ノア!」
「え?エリオどうしたの~?」

 こちらに向かってノアが駆け寄ってきたため、私は馬から降りた。

「ノア、ごめん。私が何も答えられなかったから傷つけたと思って、謝りに来た。領地までノアを送って行きたい。」
「いいの?嬉しい。」


「おい、うちの可愛い末っ子を誑かしているのはお前か?」
「え?」
「ちょっと兄貴やめてよね~、エリオは僕の友達だし。それに兄貴の上司なんじゃないの~?エリオは魔法騎士団の副団長だし。」

「関係ない。ノアを傷つけるような奴は上司であろうと容赦しない!」

 兄貴と呼んでいるということはこの男はノアの兄なのか。そして私が上司ということは、騎士団所属なんだな。
 体格からして剣士部隊の者か。
 それにしても凄く私のことを睨んでいる・・・
 怖い。初対面だと思うが、何かしてしまったんだろうか?
 震えそうになる手をギュッと握り、恐怖の感情を押し殺す。

「それで副団長がうちの末っ子に何の用だ?」
「兄貴は何でそんな偉そうなの?僕の友達だって言ったよね?
 エリオは僕のこと領地まで送ってくれるんだって~」
「そんなのは俺が付いていくから問題ない。」
「兄貴仕事じゃん。上司の前でよく堂々と仕事サボれるよね。サボりはよくないよ。僕はエリオに送ってもらうから兄貴は仕事に戻って!」
「くっ、仕方ない。うちの末っ子に酷いことしたら許さないからな。」
「・・・。」

 こ、怖い。ノアは朗らかで優しいのに、その兄はなぜこんなに怖いんだ・・・。
 私をひと睨みすると、兄は渋々仕事に戻っていった。

「ごめんね~
 兄貴たち、僕に対してかなり過保護なんだよね。」
「そうか。」
「エリオが送ってくれるなら心強いよ。ありがとう。」
「いや、いいんだ。」

 馬車で4時間ということは、王都からそれほど離れていない。
 それなら私が守らなくても大丈夫だったのでは?余計なことをしてしまったかもしれない。
 しかし、戦闘能力が無さそうなノアが危険にさらされることはあってはならないと私は気合を入れた。

 ノアが馬車に一緒に乗ってほしいと言うため、私が乗ってきた馬は護衛の1人に乗ってもらい、私はノアと共に馬車に乗ることになった。


「エリオとお出掛けできるの嬉しい。」
「そうか。」

 私は薄く索敵を広げ、安全には常に気を配った。
 ん?おかしいな。王都の近くにしては魔物がいる。しかも複数だ。
 私は馬車を止めてもらい、魔法でサッと片付けて燃やして灰にした。後処理が面倒だしな。灰ならサラサラとどこかへ飛んでいくだけだ。

「エリオってやっぱり凄いんだね。」
「これくらい誰でもできる。」
「絶対出来ないと思う~」

 領地に着くまでに実に4度も魔物の群れに遭遇した。これはおかしいな。1度なら、たまたまこちらに来てしまったのかと思うが、何度も出会うのはおかしい。
 調査が必要だな。


「エリオ、難しい顔してどうしたの?」
「魔物の遭遇率が高いと思ってな。」
「ん~確かに。いつもはこんなに出会わないかも~」
「戻ったら調査する。」
「なんか騎士団の副団長の顔になってた。エリオは格好いいな。」


 私は無事にノアを領地に届けると、そのまま王都へとんぼ返りして騎士団に向かった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

婚約破棄された俺の農業異世界生活

深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」 冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生! 庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。 そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。 皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。 (ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中) (第四回fujossy小説大賞エントリー中)

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...