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1.母の心配
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母は心配していた。世継ぎのこともそうだが、この息子の将来について。
最悪世継ぎは親戚から養子を取ればいい。しかしこの子の将来は、私たちがずっと側にいて守ってやることはできないのだし、幸せになってほしい。
この子は本当は心根の優しい子なのに、全く浮いた話がない。私の血を引いてとても美しいが、気が弱すぎるのだ。
周りの会話を聞く限り、モテないわけではない。公爵家の次期当主という肩書きと、魔法騎士団でも副団長を務める強さ、そして容姿の美しさ。どれをとってもモテないはずはないのだが、本人はどうもその気が無いらしい。
いや、勇気がないだけかもしれない。
22にもなるのだから、恋の一つや二つ経験していてもおかしくないのだけど、そんな気配はない。
「母上、何か悩み事ですか?」
「えぇ、そうね。エリオット、あなたお見合いしない?」
「え?お、お見合い、ですか?」
「それとも好きな人がいるのかしから?」
「いませんよ。私なんかと結婚してくれる人なんていないと思いますけど・・・」
「そんなことないわ。母が探してあげましょう。」
「気が強い方は苦手です。」
「分かっているわ。あなたの肩書きや容姿だけしか見ない子もダメね。」
「母上にお任せします。」
家ではたまに優しい顔もできるのに。
外ではいつも顰めっ面なのよね。
緊張して顔が強張っているだけなのに、周りは彼を冷酷と評し近付き難いと感じてしまう。
何人か、家令のピエールと旦那様と一緒に調査書類を眺めてみたけれど、なかなかエリオットに合いそうな令嬢はいないわね。
「奥様、令嬢はやはりエリオット様のことを顔や肩書きで見ている方が多いですね。」
「そうね。そんな令嬢とエリオットが上手くやっていけるのか不安だわ。あの子は他人と話すのが苦手だから。」
「それではまずは心置きなくお話しできるような令息の友人を作らせてみてはどうですか?」
「あら、それはいいわね。それならあの子の性格を知っても受け入れてくれる子がいるかもしれないわ。旦那様、どうかしら?」
「最悪結婚しなくても、エリオットが友人と仲良く過ごせるなら、ワシはそれでもいいと思う。」
こうして、母たちは息子の結婚相手よりも先に友人探しを始めた。
エリオットの肩書きを利用してのし上がってやろうというような野心が無い子がいい。令息がよくても親が要らぬことをするような家もダメとなると、友人選びも難航した。
「この際、伯爵や侯爵でなくてもいいわ。子爵や男爵の子息も調べてちょうだい。」
「畏まりました、奥様。」
息子のことが心配なあまり、私は調査書類だけでは不十分だと、直接当主の元へ話を聞きに行ったりもした。
そこで見つけたのはコックス子爵家の末っ子。3男であり、ノアという名前のエリオットより1歳年上の23歳。
家督争いからも外れ、爵位にも興味がなく魔法薬の研究所でのびのびと好きなことをして過ごしているらしい。
コックス子爵家からしたら、公爵家が訪ねてくるなど恐ろしくて仕方なかっただろうが、ノアの父である当主も奥方も、朗らかな方たちで話をよく聞いてくれた。
貴族特有の貼り付けたような笑顔もなく、必死に機嫌を取ろうとしてくるということもなかった。
権力に寄ってくる取り巻きではなく、友人を作ってあげたいと告げると、なるほどと一応は納得してくれた。
「友人関係については、親が口出しするべきではないと思っておりますので、息子に話はしてみますが、息子の意思を尊重したいと思います。何卒ご理解ください。」
世間では冷酷だとか言われているエリオットの友人になることが心配のようだ。あの子は冷酷なんかではないのに、そんな色眼鏡で見られていることが悲しかった。
領地での自然災害により財政が苦しいと聞いていたため、資金援助もチラつかせてみたが、乗ってこなかった。
当主や奥方からは、何が何でも公爵家と仲良くしておこうという野心が感じられないことも、金をチラつかせても態度を変えたりしないところも好印象だった。
あとは、本人同士が上手くいってくれればいいのだけど、エリオットの反応が気になるわね。
ーーーーー
「え?友人?子爵家の末の令息ですか?分かりました。母上たちが探してくれたのであれば一度は会ってみます。」
正直ホッとした。令嬢は苦手なんだ。
向こうも私なんかは嫌だろうが、私もあのギラギラした目や、他人を牽制している姿が怖くて苦手なんだ。
その点、男なら普段から騎士団で接しているしそれほど苦手意識はない。
けれど向こうは嫌だろうな・・・。
なぜか私は冷酷だと言われる。心も持っていないとか。そんな残忍なことをした記憶はないんだが、人前に出るとどうしても緊張で顔が強張ってしまうのが問題らしい。
数少ない友人というか従兄弟の第二王子が、私の外での顔が怖すぎると笑いながら言っていた。そして、あまり言葉を発しないのも怖さを際立たせているとか。
「はじめまして。エリオット・ホワイトです。」
「ノア・コックスです。」
母上たちが私の友人候補として見つけてきてくれた彼は、騎士団にはいないタイプの男だった。
顔が強張っている私を前に、何が楽しいのかニコニコと笑顔を向けてくる。
少し癖のある明るいブラウンの髪を肩まで伸ばし、深い緑の目で、私より背も高いし体格もいい。体格と言っても騎士団の戦士たちのような筋骨隆々という感じではなくふっくらと、太っているとまでは言わないが、大きなぬいぐるみみたいな男だった。
私は魔法で強化できるから、それほど筋骨隆々というわけではないし、騎士団では背が低く細い方だ。一般的に見れば小さいというほどではない。平均だと思う。騎士団の奴らがでかすぎるんだ。とくに剣士部隊の奴らは。
「あの~僕、実は敬語とか苦手で、やっぱり敬語ちゃんと使わなきゃダメですか?」
「好きに話してくれていい。」
「そっか。よかった~
エリオットさんって優しいんだね~
なんか噂では冷酷とか聞いてたけど、そんなことないみたい。怒ってるのかと思ったけど、そうでもない感じ?」
「怒ってはいない。」
「そっか。エリオットさんって魔法騎士団の副団長なんでしょ?凄いね。僕は魔法薬の研究してるんだ~」
「そうか。」
「エリオットさんって魔法陣とか詳しかったりする。」
「あぁ。魔法陣は得意だ。」
魔法陣の研究は学生の頃からの趣味みたいなもので、誰とも関わらずにひたすら研究に勤しんだ。皆が友人と遊んでいる時、恋人とデートをしている時、私は部屋にこもって魔法陣を眺めていた。
「ホント?凄い!今度僕の研究室に来てくれない?どうしても上手く作用しない魔法薬があって、古い魔法陣を使い回してるから、あんまり意味も理解できないまま使ってたんだけど、上手く作用しなくなっちゃったんだよね。」
「分かった。見てみよう。」
「ありがとう。ねぇ、エリオットさんって長いからエリオって呼んでもいい?僕のこともノアって呼び捨てでいいよ。」
「分かった。」
エリオなんて呼ぶのは第二王子のエディーくらいだがあだ名で呼ばれるなんて仲良しになったみたいで、少し嬉しい。
「え?エリオ可愛い~。何その顔。」
「顔・・・」
自分が今どんな表情をしているのか分からず緊張が走った。とんでもなく不細工で相手に不快を与える顔をしていたらどうしよう。
「あーあ、元の顔に戻っちゃった。さっきの顔、可愛かったのに。」
「かわ・・・」
可愛いなんて幼い頃に母に言われたくらいで、この歳になってそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
恥ずかしい。私は顔に熱を感じて、俯いたまま顔を上げられなくなってしまった。
「エリオ、次の休みはいつ?」
「しばらく日曜が休みだ。何も無ければ次の日曜が休みの予定だが、緊急案件が入ったら分からない。」
「そっか。エリオは仕事帰りに飲みに行ったりする?」
「・・・たまに。」
『たまに』などと言ったが、遠征明けや何か行事があった時に全員参加の慰労会に出席しているだけだ。年に2度か3度くらいで、友人や仲間と飲みになど行ったことはない。それを数に入れていいのか少し迷った。
もちろん1人で飲みに行くなどということも無い。酒が嫌いなわけではないが、我を忘れるほど酔ったこともないし、好きかと聞かれてもよく分からないとしか答えられない。
「そっか、じゃあ今度一緒に飲みに行こうね。」
「分かった。」
社交辞令だろうが、そう言ってくれたのが素直に嬉しかった。
顔合わせは、お茶をしてしばらくすると解散となった。
ノアは私とは全然違うタイプだけど、話しやすかったな。・・・話しやすかった?私はほとんど話していない気もするが。ノアが色々話してくれて、相槌を打っているだけで楽しいと思った。
返答を急かしてくるわけでもなく、ちゃんと私の意見も取り入れてくれる感じが心地いいと思った。
しかしその日、ほとんどノアに喋らせて自分は話しをろくにしていない情けなさが押し寄せてきて、家に帰ると部屋に篭って膝を抱えた。
「坊ちゃま、お相手の方は怒っていなかったのでしょう?」
「そうだが、私が公爵家の人間だから優しくしてくれただけで不快だったかもしれない。」
「そんなことありませんから、それなら相手の方のために何か贈り物をしたり、手紙を綴ってみたり、感謝の気持ちを伝えてみてはどうですか?」
「贈り物・・・彼が何を好きか、どんな趣味があるのか知らない・・・。
私はそんなことすら聞けなかった。」
「では次にお会いした時に聞いてみてはどうですか?今回は手紙にしましょう。」
「そうする・・・。リーナすまない。こんな私の世話役など嫌だろ?」
「そんなことありませんよ。」
私が生まれた時から世話をしてくれている侍女のリーナに吐露して宥めてもらうのはいつものことだ。この歳になってもこんな体たらくで情けない。
私はしばらく膝を抱えたままでいたが、ノロノロと立ち上がり机の上にペンと紙を用意して座った。
・・・なんて書けばいい?
報告書や招待状の返事は書いたことがあるが、友人や知人に手紙など書いたことがない。
ペン先にインクを付けたが一文字も書けないまま時間が過ぎていく。
まずToかDearかで迷った。Toだと素っ気ないか?でもDearを使うほど仲がいいわけでもない。馴れ馴れしいかもしれない。
そんなことを考えていると、何が正解か分からずに何も書けなかった。
そして私はまた、膝を抱えることになる。
やはり私はダメな人間だ。
最悪世継ぎは親戚から養子を取ればいい。しかしこの子の将来は、私たちがずっと側にいて守ってやることはできないのだし、幸せになってほしい。
この子は本当は心根の優しい子なのに、全く浮いた話がない。私の血を引いてとても美しいが、気が弱すぎるのだ。
周りの会話を聞く限り、モテないわけではない。公爵家の次期当主という肩書きと、魔法騎士団でも副団長を務める強さ、そして容姿の美しさ。どれをとってもモテないはずはないのだが、本人はどうもその気が無いらしい。
いや、勇気がないだけかもしれない。
22にもなるのだから、恋の一つや二つ経験していてもおかしくないのだけど、そんな気配はない。
「母上、何か悩み事ですか?」
「えぇ、そうね。エリオット、あなたお見合いしない?」
「え?お、お見合い、ですか?」
「それとも好きな人がいるのかしから?」
「いませんよ。私なんかと結婚してくれる人なんていないと思いますけど・・・」
「そんなことないわ。母が探してあげましょう。」
「気が強い方は苦手です。」
「分かっているわ。あなたの肩書きや容姿だけしか見ない子もダメね。」
「母上にお任せします。」
家ではたまに優しい顔もできるのに。
外ではいつも顰めっ面なのよね。
緊張して顔が強張っているだけなのに、周りは彼を冷酷と評し近付き難いと感じてしまう。
何人か、家令のピエールと旦那様と一緒に調査書類を眺めてみたけれど、なかなかエリオットに合いそうな令嬢はいないわね。
「奥様、令嬢はやはりエリオット様のことを顔や肩書きで見ている方が多いですね。」
「そうね。そんな令嬢とエリオットが上手くやっていけるのか不安だわ。あの子は他人と話すのが苦手だから。」
「それではまずは心置きなくお話しできるような令息の友人を作らせてみてはどうですか?」
「あら、それはいいわね。それならあの子の性格を知っても受け入れてくれる子がいるかもしれないわ。旦那様、どうかしら?」
「最悪結婚しなくても、エリオットが友人と仲良く過ごせるなら、ワシはそれでもいいと思う。」
こうして、母たちは息子の結婚相手よりも先に友人探しを始めた。
エリオットの肩書きを利用してのし上がってやろうというような野心が無い子がいい。令息がよくても親が要らぬことをするような家もダメとなると、友人選びも難航した。
「この際、伯爵や侯爵でなくてもいいわ。子爵や男爵の子息も調べてちょうだい。」
「畏まりました、奥様。」
息子のことが心配なあまり、私は調査書類だけでは不十分だと、直接当主の元へ話を聞きに行ったりもした。
そこで見つけたのはコックス子爵家の末っ子。3男であり、ノアという名前のエリオットより1歳年上の23歳。
家督争いからも外れ、爵位にも興味がなく魔法薬の研究所でのびのびと好きなことをして過ごしているらしい。
コックス子爵家からしたら、公爵家が訪ねてくるなど恐ろしくて仕方なかっただろうが、ノアの父である当主も奥方も、朗らかな方たちで話をよく聞いてくれた。
貴族特有の貼り付けたような笑顔もなく、必死に機嫌を取ろうとしてくるということもなかった。
権力に寄ってくる取り巻きではなく、友人を作ってあげたいと告げると、なるほどと一応は納得してくれた。
「友人関係については、親が口出しするべきではないと思っておりますので、息子に話はしてみますが、息子の意思を尊重したいと思います。何卒ご理解ください。」
世間では冷酷だとか言われているエリオットの友人になることが心配のようだ。あの子は冷酷なんかではないのに、そんな色眼鏡で見られていることが悲しかった。
領地での自然災害により財政が苦しいと聞いていたため、資金援助もチラつかせてみたが、乗ってこなかった。
当主や奥方からは、何が何でも公爵家と仲良くしておこうという野心が感じられないことも、金をチラつかせても態度を変えたりしないところも好印象だった。
あとは、本人同士が上手くいってくれればいいのだけど、エリオットの反応が気になるわね。
ーーーーー
「え?友人?子爵家の末の令息ですか?分かりました。母上たちが探してくれたのであれば一度は会ってみます。」
正直ホッとした。令嬢は苦手なんだ。
向こうも私なんかは嫌だろうが、私もあのギラギラした目や、他人を牽制している姿が怖くて苦手なんだ。
その点、男なら普段から騎士団で接しているしそれほど苦手意識はない。
けれど向こうは嫌だろうな・・・。
なぜか私は冷酷だと言われる。心も持っていないとか。そんな残忍なことをした記憶はないんだが、人前に出るとどうしても緊張で顔が強張ってしまうのが問題らしい。
数少ない友人というか従兄弟の第二王子が、私の外での顔が怖すぎると笑いながら言っていた。そして、あまり言葉を発しないのも怖さを際立たせているとか。
「はじめまして。エリオット・ホワイトです。」
「ノア・コックスです。」
母上たちが私の友人候補として見つけてきてくれた彼は、騎士団にはいないタイプの男だった。
顔が強張っている私を前に、何が楽しいのかニコニコと笑顔を向けてくる。
少し癖のある明るいブラウンの髪を肩まで伸ばし、深い緑の目で、私より背も高いし体格もいい。体格と言っても騎士団の戦士たちのような筋骨隆々という感じではなくふっくらと、太っているとまでは言わないが、大きなぬいぐるみみたいな男だった。
私は魔法で強化できるから、それほど筋骨隆々というわけではないし、騎士団では背が低く細い方だ。一般的に見れば小さいというほどではない。平均だと思う。騎士団の奴らがでかすぎるんだ。とくに剣士部隊の奴らは。
「あの~僕、実は敬語とか苦手で、やっぱり敬語ちゃんと使わなきゃダメですか?」
「好きに話してくれていい。」
「そっか。よかった~
エリオットさんって優しいんだね~
なんか噂では冷酷とか聞いてたけど、そんなことないみたい。怒ってるのかと思ったけど、そうでもない感じ?」
「怒ってはいない。」
「そっか。エリオットさんって魔法騎士団の副団長なんでしょ?凄いね。僕は魔法薬の研究してるんだ~」
「そうか。」
「エリオットさんって魔法陣とか詳しかったりする。」
「あぁ。魔法陣は得意だ。」
魔法陣の研究は学生の頃からの趣味みたいなもので、誰とも関わらずにひたすら研究に勤しんだ。皆が友人と遊んでいる時、恋人とデートをしている時、私は部屋にこもって魔法陣を眺めていた。
「ホント?凄い!今度僕の研究室に来てくれない?どうしても上手く作用しない魔法薬があって、古い魔法陣を使い回してるから、あんまり意味も理解できないまま使ってたんだけど、上手く作用しなくなっちゃったんだよね。」
「分かった。見てみよう。」
「ありがとう。ねぇ、エリオットさんって長いからエリオって呼んでもいい?僕のこともノアって呼び捨てでいいよ。」
「分かった。」
エリオなんて呼ぶのは第二王子のエディーくらいだがあだ名で呼ばれるなんて仲良しになったみたいで、少し嬉しい。
「え?エリオ可愛い~。何その顔。」
「顔・・・」
自分が今どんな表情をしているのか分からず緊張が走った。とんでもなく不細工で相手に不快を与える顔をしていたらどうしよう。
「あーあ、元の顔に戻っちゃった。さっきの顔、可愛かったのに。」
「かわ・・・」
可愛いなんて幼い頃に母に言われたくらいで、この歳になってそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
恥ずかしい。私は顔に熱を感じて、俯いたまま顔を上げられなくなってしまった。
「エリオ、次の休みはいつ?」
「しばらく日曜が休みだ。何も無ければ次の日曜が休みの予定だが、緊急案件が入ったら分からない。」
「そっか。エリオは仕事帰りに飲みに行ったりする?」
「・・・たまに。」
『たまに』などと言ったが、遠征明けや何か行事があった時に全員参加の慰労会に出席しているだけだ。年に2度か3度くらいで、友人や仲間と飲みになど行ったことはない。それを数に入れていいのか少し迷った。
もちろん1人で飲みに行くなどということも無い。酒が嫌いなわけではないが、我を忘れるほど酔ったこともないし、好きかと聞かれてもよく分からないとしか答えられない。
「そっか、じゃあ今度一緒に飲みに行こうね。」
「分かった。」
社交辞令だろうが、そう言ってくれたのが素直に嬉しかった。
顔合わせは、お茶をしてしばらくすると解散となった。
ノアは私とは全然違うタイプだけど、話しやすかったな。・・・話しやすかった?私はほとんど話していない気もするが。ノアが色々話してくれて、相槌を打っているだけで楽しいと思った。
返答を急かしてくるわけでもなく、ちゃんと私の意見も取り入れてくれる感じが心地いいと思った。
しかしその日、ほとんどノアに喋らせて自分は話しをろくにしていない情けなさが押し寄せてきて、家に帰ると部屋に篭って膝を抱えた。
「坊ちゃま、お相手の方は怒っていなかったのでしょう?」
「そうだが、私が公爵家の人間だから優しくしてくれただけで不快だったかもしれない。」
「そんなことありませんから、それなら相手の方のために何か贈り物をしたり、手紙を綴ってみたり、感謝の気持ちを伝えてみてはどうですか?」
「贈り物・・・彼が何を好きか、どんな趣味があるのか知らない・・・。
私はそんなことすら聞けなかった。」
「では次にお会いした時に聞いてみてはどうですか?今回は手紙にしましょう。」
「そうする・・・。リーナすまない。こんな私の世話役など嫌だろ?」
「そんなことありませんよ。」
私が生まれた時から世話をしてくれている侍女のリーナに吐露して宥めてもらうのはいつものことだ。この歳になってもこんな体たらくで情けない。
私はしばらく膝を抱えたままでいたが、ノロノロと立ち上がり机の上にペンと紙を用意して座った。
・・・なんて書けばいい?
報告書や招待状の返事は書いたことがあるが、友人や知人に手紙など書いたことがない。
ペン先にインクを付けたが一文字も書けないまま時間が過ぎていく。
まずToかDearかで迷った。Toだと素っ気ないか?でもDearを使うほど仲がいいわけでもない。馴れ馴れしいかもしれない。
そんなことを考えていると、何が正解か分からずに何も書けなかった。
そして私はまた、膝を抱えることになる。
やはり私はダメな人間だ。
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