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2.misakiとの邂逅(ユキ視点)

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 処方箋の処理が終わるのを待っていると、左右に40代くらいの黒い服の女性と緑の服の女性を連れたmisakiの姿を見つけた。
 え?misaki?病気なの?それともお見舞い?
 顔色は悪い。日に当たっていないような青白い顔だ。
 今でもmisakiへの中傷はたまに見かける。相手が復帰したことでほとんどなくなったし、難聴が誰かが故意に起こすなんてことはできないって言われてからは、かなり減った。
 でも、日々のイライラを有名人にぶつけたい人は多いらしい。
 きっと繊細な歌詞を書き綴るmisakiはそれに疲れてしまったんだろう。

 こっそり目で追っていると、二人の女性は事務所の人かなって感じに見えた。
 本当は駆け出して、ファンですって言いたいけど、迷惑がかかるだけだ。僕は走るなんてこともできないし、そっと見守るだけでいい。
 元気じゃないのは心配だけど、いつかまた歌を聞かせてほしいな。

 処方された薬を受け取ると、検査結果がよかったお祝いのために、一人でレストランに入った。
 レストランに入るのも僕には珍しくて、いつもは施設で健康に気を遣って作られた食事を食べている。
 今日は元気な姿ではなかったけど生のmisakiを見ることができたし、勇気を出してレストランに入ることにした。

 何にしようかとメニューをパラパラめくっていると、なんと隣の席にmisakiと事務所の人らしき女性2人が座ったんだ。
 近い。こんなに近くにmisakiが。どうしよう。ってどうするもなにもないけど、一人で緊張していると、misakiは席を立ち、女性二人は電話をしたり手帳を確認したりメールチェックをしていた。
 するとmisakiは死んだような目で店を出ていった。
 え?どういう状況?なんで席に着いてすぐに出ていったの?
 そう思っていたら黒い服の女性が慌てて店を出ていった。そして緑の服の女性も慌てて店を出ようとして、なぜか僕に話しかけてきた。

「ちょっとあなた、この席と荷物、見ておいて。それでさっきの男の子がもし戻ってきたら引き留めておいて。」

 そう言うと、僕の返事も聞かずにバタバタと店を出ていってしまった。
 仕方ないから隣の席に移動して、荷物を見張っておくことにした。もしmisakiのピンチなら、僕にできることはしたい。今までたくさん助けてもらったから。

 いつまで待てばいいのか分からず困っていると30分くらいでmisakiを連れた黒い服の人が戻ってきた。

「もう、驚かすのはやめてよね。線路で蹲るとか死のうとしてるのかと思って焦ったわよ。」
「………」

 線路で蹲ってた?misakiが?
 misakiは何も答えなかった。

「ん?で、あんた誰?」

 急に僕に話しかけられて、どうやって説明すればいいのかとあわあわしていると、息を切らせて緑の服の女性が戻ってきた。

「あーよかった、ありがとうね、この人に荷物見ててもらうようにmisakiが戻ってきたら引き止めるようにお願いしてたのよ。」

 そう説明してくれてホッとした。
 人と関わったのなんて病院の先生と看護師さんくらいだったから、どうしたらいいのか分からなくて、咄嗟に何も話せなかった。

「ふーん、そう。しょうがないからあなたも一緒に食事しなさい。ここは私が持つわ。」
「わかりました。」

 黒い服の女性は事務所の社長で、緑の服の女性はマネージャーだった。

 日替わり松花堂弁当というランチメニューをみんなが頼むから、僕もそれにした。
 憧れのmisakiがこんな近くにいて、緊張しすぎて料理はどれも味がしない。近すぎてその姿を見ることもできなかった。

「あなた、misakiのこと、見かけたとか余計なことSNSにあげないでね。」

 この食事は口止め料も兼ねてるのかな?
 事務所の社長にそんなことを言われてちょっとムッとした。僕がそんなことするわけない。

「そんな事しません。ずっとファンなんです。僕は病気でライブとか行けないけどCDは全部持ってるし配信のみの曲は全部DLしてます。僕はmisakiさんに救われてるから、恩があるから、そんなことできない。」
「え?」

 え?と言ったのは今日初めて口を聞いたmisakiだった。そんなの、俯いてて目を見て話せなくても分かる。今日もずっと聞いてた声だから。

「misaki、声が……
 あなた、misakiのどの曲が好きなの?」
「どういうところが好きなの?」

 二人の女性に、なぜかmisakiのどこが好きなのかと詰め寄られて、その圧が怖くて俯いたまま答えた。

 全部好きだけど、特に「未来へ」という曲はギターを弾きながら動画配信している時から見ていて、入院中や手術前に聞いて勇気をもらったこと、3ヶ月前に退院して今日は定期検診だったことも説明した。何度も入退院を繰り返して、いつも検査結果が怖かったけど、その時に気持ちを落ち着かせるために聞いているんだと、僕がこうして退院して安定して過ごせているのはmisakiさんのおかげなんだと、詰まりながらも感謝を伝えることができた。

「そっか。ありがとう。」

 misakiの声は掠れた声だったけど、確かに僕に向けてそう言ってくれた。
 そして握手のためにmisakiは手を差し出してきたけど、僕はその手を取れなかった。

 結局緑の服の女性に無理やり手を掴まれてmisakiと握手することになったんだけど、それで僕は分かってしまった。misakiがドラッグであると。
 体の重さがスッと軽くなって、驚いて顔を上げるとmisakiと目が合った。
 店から出ていく時の光を失ったような虚な目じゃなくて、気のせいかもしれないけど、光が戻ったように見えた。

 社長とマネージャーが何か分からないけど喜んでいて、やったわねとか言っていたけど、僕には何のことか分からなかった。

「奢ってもらって、なんかすみません。」

 ちゃんと自分で払うつもりだったのに社長が奢ってくれたから、なんだか恐縮して何度も頭を下げながら店の前で3人と別れた。

 僕の人生でこんな幸せなことがあるなんて。生きていてよかった。それに、misakiに治療されるなんて、絶対に死ねないな。

 難聴、もしかしたらあの事件の真相はそれかもしれない。misakiは相手の歌手と一緒に居すぎた。もしくは相手の病気を治療したら副作用が出たってことかもしれない。

  
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