【完結】おじさんの私に最強魔術師が結婚を迫ってくるんですが

cyan

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おじさん捕獲される

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「なぁ、あんた魔力無いの?」
「え?」

 仕事帰りに街を歩いていたら急にすれ違った男に腕を掴まれてそう聞かれた。
 誰だろうか? 知り合い、ではないよな?
 20代半ばくらいか? 私より20ほど若く見えた。赤い髪にアメジストのような目、体格は普通か。記憶を探ってみるも思い当たる人物はいない。だいたいこんな派手な見た目の若者と知り合えば記憶に残っているはず。やはり知らない者か。
 見ず知らずの者に突然そんなことを聞かれてまともに答える者などいないだろう。
 それにとても失礼なことだ。


「なぁ、どうなの?」
「失礼な方ですね。あなたの質問に答える理由がありません」
「え~ケチ。いいじゃん。あ、俺のこと怪しいとか思ってる?
 大丈夫大丈夫。俺はラウロ。宮廷魔術師のトップって言ったら分かる? 身分証出そうか?」
「はぁ、そんな偉い方がなぜ私のような者に関わるのですか?」
「初めて見たから。魔力少ない奴はよくいるけどさ~
 全然無いみたいな感じに見えたから、気になるじゃん」
「答えたらその手を離していただけますか?」
「ん~別にいいけど、俺の興味次第かな~」
「……」
「あ、そういうこと? ごめ~ん。
 こんな人の多いところでそんなこと明かしたくないよね? 俺の家でいい? 近いし行こ~」
「あ、いや、ちょっと……」

 私の言葉など全く聞く気がないのか、彼は私の腕を掴んだまま歩き出してしまい、引っ張られるようにして私は彼に付いていくしかなかった。
 それほど筋肉質にも見えないのに、力が強いようで、振り解こうとしても無理だった。

 魔力か……
 私は彼が指摘した通り魔力がない。
 その辺の人でも、底辺と言われるスラムに住む子供でも少しは魔力がある。そのせいで虐められたことも数えきれない。
 魔法なんかは別に使えなくてもいいんだが、水を出したり火をつけたり、ライトをつけるのもコピーを取るのも、様々な魔道具を発動するのには魔力が必要となるため、魔力がない私は本当に仕事を探すのが大変だった。
 私は現在、新聞や書類などの校正の仕事をしている。
 この仕事は魔道具を使わなくてもできるから、私でも雇ってもらえた。

 魔力に頼らなくても生活できるよう鍛えているから、私はその辺にいる奴より力が強いはずなんだが、この男が掴む手からは全く逃れることができなかった。
 きっと魔力で力を補っているんだろう。
 魔力がある者を羨む気持ちなど遠い昔に捨ててきた。願ったところで得られるものでもないし、他人を羨んでも仕方ないからな。

 ため息を吐きながらも仕方なく彼に付いていくと、それほど大きくない平民の家族が住むような家に着いた。


「座って」
「分かりました」

 彼は魔術を使って私にお茶を入れてくれた。
 私の正面に座り、鼻歌を歌いながら指をくるくると回すと、ティーポットやカップなどがフワフワと飛んできて、ティーポットに茶葉が入れられるとお湯まで空中からポットに入り、やがてカップに紅茶が注がれた。

 さすが宮廷魔術師のトップ。トップともなると魔道具すら必要ないらしい。
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