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 この国には年も取らず長年眠り続けているジルベルトという王子がいる。

 長年、老化もせず眠り続ける王子は、最初こそ手厚い待遇をされていたが、だんだん端に追いやられ、とうとう王城から離れた離宮に移送されることになった。
 複数いたメイドや従者もどんどん減らされ、離宮に渡る頃には面倒ごとを押し付けるように、引退の近い執事が10日に1度訪れるのと、身の回りの世話や掃除をするカリオという少年1名がつけられただけだった。
 しかしこの少年は大変優秀だった。掃除や王子の清潔のために清浄魔法を使い、離宮に至っては敷地ごと結界で覆ってしまった。

 初めてこの少年が王子の元に連れてこられたのは、魔法が上手いためだった。
 長年貼りっぱなしにされたために色褪せてボロボロになった『浄化で呪いを解ける者を求む』という文字がかろうじて読める、壁に貼られた紙を見た少年が、報酬欲しさに王城を訪れたところから話は始まる。

 その張り紙には、『成功報酬は金貨100枚』と書いてあった。
 平民なら一生遊んで暮らせる金額だ。
 その頃には王子が王都から馬車で3時間ほど離れた街にある離宮への移送が決まっていたし、王子が眠りについて、もう50年は経っていたため、「また平民が金欲しさに来たな」としか思われていなかった。
 誰が魔法をかけても無駄だが、一応貼り紙を出したままにしていたことから、拒むわけにはいかない。
 もう、眠り続ける王子のことは誰も起きるとは思っておらず、最悪この少年が失敗して王子が死んでしまったとしても、その時は少年を処刑すればいいだけ。
 さすがに王子を殺すことはできないため、事故死してくれればお荷物が片付くから、それはそれでいいと、王は少年を王子が眠る別棟へ通した。

 少年は王子を目の前にして、しばし固まっていたが、ハッとして王子に向けて解呪の魔法を使ったように見えた。
 淡い緑の光が王子を包んだが、光が収まった後にも王子は起きる気配はなかった。

 すると少年は王と近習に向けて平伏した。

「お願いします。必ずこの方の眠りの呪いを解いてみせます。どうかこの方の側に置いてください」
「ほう。今解けなかったのにか?」
「必ず解いてみせます。呪いを分析して、それに合う解呪の方法を研究したいのです」
「それで? 我々にその資金を出せと?」
「資金はいりません。お掃除でも、このお方の世話でも何でもします。どうか僕をこのお方の側にいさせてください」

 少年は必死に頭を下げた。

「世話か。なるほど。さすがに護衛はできんか?」
「できます。結界で何者からも守ってみせます」
「それは頼もしいな。よし、其方を王子の世話係とする。衣食住程度は用意してやろう。これから王子は離宮へ移ることになっている。其方1人で王子の世話をせよ。
 生活に必要なものは10日に一度城から使いを送る。追加で欲しいものがあればその者に伝えよ」
「僕1人に任せて良いのですか?」
「其方が望んだのだ。気に入らなければ帰ってくれていい」
「わ、分かりました。必ずやり遂げてみせます」

 王としては、別に叔父に当たるこの王子が死んでもいいと思っているし、ずっと寝たままの王子の世話など誰もしたがらないのが現状で、多数の人員を送るより、やると言っているこいつに全部背負わせておけばいいと思った。
 この少年がしっかり世話をして王子が生き延びたとしても、彼はまだ12歳と若いのだからあと50年は勤めるだろう。
 自分が王座を退くまで勤めてくれればそれでいい。

 世間には優秀な魔法使いが王子の世話係となったと広めておけばいい。平民が世話をするなど問題になるから、名誉子爵の地位も与えてやることにした。何かあれば剥奪すればいい。結界も使えるということは、それなりに魔法の腕がある者だろう。
 そんな思惑があったが、少年はそれを知ってか知らずか、嬉しそうにこの仕事を受けた。

 一応、形式として書類は作成した。
 王子の世話役として雇うことと、名誉子爵の地位を与えること、働いているうちの衣食住の保証、王子の呪いを解いた場合は金貨100枚というのも付けてやった。

「離宮への移送は2日後だ」
「それまでも、僕はここにいても良いですか?」
「ああ、ここの塔から出ないのであれば構わない」
「分かりました。移送の日まで僕はここから出ません」
「そうか。それでは今この時点から其方は王子の世話役とする」
「はい」

 王子が眠る塔の入り口には少年が外に出ないためか、それとも王子を守るためなのか分からないが、騎士が2名立っている。

「初めまして、ジルベルト様。僕はカリオです。これから貴方様のお世話をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします」

 眠っている王子からの反応は無いし、目を開けているわけでもないが、カリオはジルベルトに丁寧に頭を下げた。


「ジルベルト様はとても美しいですね。僕はこんなに美しい人は初めて見ました。この美しいシルバーブロンドの髪は、太陽の光が射すと光輝いているように見えます。
 お肌もあまり日に当たっていないのもあって、白く美しいですね。
 いつかその瞳の色も見せてもらえると嬉しいです」

 カリオはジルベルトに話しかける。
 眠ってからは何の反応もないと聞いていたけど、そんなことはないと思っているからだ。
 王や他の人には分からないのかもしれないが、カリオには眠っている王子の、魔力の波長の変化を感じることができた。
 波長が変化したことは分かったが、それがどのような感情を表しているのかは分からない。それはこの先、彼と向き合っていくことで、きっと分かるのだとカリオは信じた。

  
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