上 下
55 / 56

55.救国の女神(ヒューゴ視点)

しおりを挟む
 
 はあ……
「また溜め息ですか?」
「カルムは幸せそうでいいな」
「陛下は寂しそうですね」
「ああ、寂しい……」
「おー? 意外にも素直」
「揶揄うなら帰れ」

 たまに諜報部がフレイヤの情報を持ってきたり、ジョシュアからの文を持ってくるが、そんなことより俺はジョシュアに会いたいし抱きしめたい。
 もういっそ騎士団総動員して押しかけて、軍事支配してすぐに連れ帰りたいくらいだ。

 報告の内容としては上手くいっている。なんでも、王都にいたジョシュアの元主治医、教師、仕立て屋も味方について、そこからどんどん味方が広がっているらしい。
 ジョシュアが城で閉じ込められて育ったことが同情を誘い、そんな境遇でありながら、戦争を止めるために単身で帝国に行ったことが美談として語られた。
 その美しさと覚悟を決めた強い瞳に憧れる者も多いらしい。

 俺のジョシュアが遠くなってしまうようで寂しい。
 兵器として育てられた過去も、塔を破壊したことも隠さず伝えていると聞いて心配していたが、ジョシュアがいれば他国が簡単に攻め入ることもなく、逃げ出した元軍部や元王族や貴族が気軽に戻って来ることもなく、頼もしいと言われているらしい。

 もうそろそろ三年か? もうすぐ会えるのだろうか? とそわそわしながら待っていると、ジョシュアからの呼び出しがあった。
 可能であれば王城跡地まで来てほしいと。
 俺はジョシュアに会えるならと喜んで、少数の供を連れて騎馬で急いで向かった。

 王城跡地は確かに跡地と呼ばれるだけあって、城は無かった。城壁も無い。
 その代わりジョシュアの館の塔が修繕されて誰でも入れるようになっていた。
 庭園は畑に、軍部があった場所は牧場に、城が建っていた場所は公園になっていた。周りには屋台も並んでいる。

「ヒューゴ様!」

 畑で作業している者が俺を呼んだことに驚いたが、俺はその顔を見てさらに驚いた。

「ジョシュア?」
「お待ちしておりました」

 ジョシュアは清浄魔法で土などの汚れを綺麗にすると、駆け寄ってきて俺にギュッと抱きついた。

「ヒューゴ様、会いたかったです」
「うん。俺も会いたかった」
「一緒に塔からの景色を見ませんか?」
「見よう」

 ジョシュアは塔から王都の景色を眺めるのが好きだったと聞いている。
 その景色を見せてもらえるのか。

 ジョシュアに手を引かれて長い階段を上がっていくと、頂上に辿り着き、心地よい風が吹き抜けた。

 ピピ、ミンナタチアガロウ
 鳥が一羽飛んできて、ジョシュアの肩にとまった。なるほど、この綺麗な鳥がジョシュアの友達か。

『国民の皆さん、私はフェデーリ帝国皇帝のヒューゴ様と結婚します。これよりこの国は帝国となります。新しい出発を祝いましょう!』

「ヒューゴ様、お待たせしました。お城に帰りましょう」
「そうだな」
「あ、その前に」
「なんだ?」
「キスしてください」
「ははは、俺もちょうどジョシュアとキスしたいと思っていたところだ」

 重なる唇、柔らかい感触とジョシュアの温度と匂いが久しぶりすぎて俺はドキドキした。
 甘くて切なくて愛しくて思考が溶けていく。

「ジョシュア、愛してる」
「ヒューゴ様、私も愛しています」


 塔を下りていくと女神コールと、おめでとうの声、拍手が沸き起こっていた。

 ピピ、ジョシュアアイシテル
「それは俺のセリフだ。お前が言うな」

 ジョシュアの肩に乗った鳥が、ジョシュアアイシテルと何度も言うので腹が立ってきた。ちょっと怒ると、鳥は空に飛び立った。俺たちの頭上を旋回しながら、また何度もジョシュアアイシテルと言っている。

「ジョシュア、あの鳥、なんとかならないか? 俺のセリフをずっと真似ていて恥ずかしくなってきたんだが」
「ふふふ、ペルは真似をするのが好きなんですよ」

 ピピ、ジョシュアトキスシタイ
「こら、それはダメだ!」

 俺が鳥に向かって叫ぶと、どっと笑いが起きて、余計恥ずかしくなった。鳥はきっと意味なんて分からず言っているのだから放っておけばいいのに……

「大丈夫ですよ。私がキスするのはヒューゴ様だけです」

 そう言って微笑んだジョシュアはやっぱり女神で、兵器などではなく救国の女神となった。





(終)

こちらで本編は完結です。最後までお読みいただきありがとうございましたm(__)m

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】愛され属性のランディー

cyan
BL
みんなから愛されるランディーが最後に選ぶのは誰? 幼い頃のトラウマを克服すべく、隣国を挟んで更にその先の帝国の学園へ入学を決めたランディー。 純粋が故に騙されたり、簡単に攫われたり、丸め込まれたりするランディーを温かく見守ってほしい。 初期に道徳的に問題がありそうなシーンが出てきますので苦手な方はご注意ください。

【短編】農夫の僕が騎士様を救うために奇跡を起こす物語

cyan
BL
小さな村で農夫をしているシルフはある日、騎士のレグナーと出会う。 二人は仲良くなって恋人になったが、レグナーは戦争に行ってしまった。 初めてキスをして、その続きは帰ってからといったレグナー しかし戻ってきたのはレグナーのドッグタグとボロボロの剣。 絶望するシルフは奇跡を起こせるのか? 少しシリアスなシーンがありますがハッピーエンドです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ
BL
【完結済み】闇属性の兄を救うため、光属性のボクの魔力を全部上げた。魔力かなくなった事を知った父(陛下)に、王子の身分を剥奪され侯爵領に送られた。ボクは兄上を救えたから別にいいんだけど。 なぜか侯爵領まで一緒についてきた兄上に「一緒のベッドで寝たい」と言われ、人恋しいのかな? と思いベッドに招き入れたらベッドに組敷かれてしまって……。 元闇属性の溺愛執着系攻め×元光属性鈍感美少年受け。兄×弟ですが血のつながりはありません。 *→キス程度の描写有り、***→性的な描写有り。 「男性妊娠」タグを追加しました。このタグは後日談のみです。苦手な方は後日談は読まず、本編のみ読んでください。 ※ムーンライトノベルズとアルファポリスにも投稿してます。 ムーンライトノベルズ、日間ランキング1位、週間ランキング1位、月間ランキング2位になった作品です。 アルファポリスBLランキング1位になった作品です。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 ※表紙イラストは「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様がイラストを描いてくださいました。製作者の許可を得て表紙イラストとして使わせて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/08

ヒヨコの刷り込みなんて言わないで。魅了の俺と不器用なおっさん【完結】

tamura-k
BL
気づいたら知らない森の中に居た緑川颯太(みどりかわそうた)は、通りかかった30代前半のイケオジ冒険者のダグラスに運よく拾ってもらった。 何もわからない颯太に、ダグラスは一緒に町に行くことを提案した。 小遣い稼ぎに薬草を摘みながら町を目指して歩いていたが、どうやら颯太にはとんでもないスキルがあるらしいと判明。 ええ?魅了??なにそれ、俺、どうしたらいいんだよ? 一回りも違う気の良いイケオジ・ダグラスと年下・ツンデレなりそこない系のソウタ。 それはヒヨコの刷り込みと同じってバカにすんな! 俺の幸せは俺が決めるもんだろう? 年の差がお好きな方へ。 ※はRぽい描写あり ************ 本編完結し、番外編も一応完結。 ソウタとダグラスの物語にお付き合いいただきありがとうございました。 好きな話なのでまた何か思いついたら書くかもwww

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...