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54.ジョシュアの決断(ヒューゴ視点)
しおりを挟む「陛下、急ぎお伝えしたいことが」
「聞こう」
「ジョシュア様は?」
「今は同席は難しい」
「分かりました」
報告は、フレイヤの国家転覆。軍部は崩壊、上層部は王族と共に他国へ逃亡、貴族たちも散り散りになった。
今は各地の貴族の屋敷や王都の貴族街への破壊行為が続いているとか。止める者がおらず、指揮した人物も現れていない。このままでは混乱が続き危険だと。そのため、一旦全員引き上げることにしたとの報告だった。
どうしたものか、帝国に出国する者たちは受け入れているが、帝国皇帝の俺が出ていくのも違うしな。戻ってくるまでに諜報部なら四日程度か。民を立ち上がらせた者がすぐに出てきて、民をまとめ上げたら良いんだが、出てこなければ隣接する国としてどう対応するか迷うところだ。ジョシュアたちにも意見を聞きたい。
翌日の昼過ぎ、何かを決断したような表情のジョシュアと、困った顔の三名が俺の部屋を訪ねてきた。
久しぶりに見るジョシュアが、思い詰めたような苦しい表情でないことに安堵した。
「ジョシュア様、ご自分でお話しできますか? 私が代わりに話しましょうか?」
「大丈夫だ。私が話す」
フレイヤに様子を見に行きたいとか、王家と話をしたいとか、その指揮を取るものと話したいとか、何か支援したいとか、そのようなことだろうと思っていたのだが、ジョシュアの話す内容は想像を遥かに超えるものだった。
まず、民が国家に不信感を持つきっかけになった、「兵が自国を破壊している」「帝国の復興支援金を軍部が横取りしている」「任務に失敗した兵が多数処刑された」という噂は少し内容が変わっているものの、ジョシュアが帝国への悪感情を払拭させるために風魔法で街に広げたものだった。
「兵になったら人柱に」という噂は流していないが、塔を破壊したことで、いつジョシュアに殺されるかと恐れて、兵が続々と辞めていったのは知っていると。
そこまでは驚きはするものの、そうなのか、という程度の感想だった。
問題はその後だ。
民が旗に掲げている言葉。
【さよならフレイヤ、私はこの国を捨てる。みんな立ちあがろう】
これは俺たちがジョシュアを救出して王都を離れる時にジョシュアが呟いた言葉だった。
幸せな夢だったから、気分が高揚して風に乗せて呟いたと。
意味はそのままで、フレイヤを捨てて帝国に行くという意味だ。国家を滅ぼし新しい国をという意味ではない。
なるほど。ということは全てジョシュアの行動が上手く噛み合ってしまい、民が奮起してしてしまったんだな。指揮した者が出てこないわけだ。見つからないわけだ。ここにいたんだからな。謎の鳥も、ジョシュアの友達かもしれないとのことだった。
「なるほど。ジョシュア、経緯は分かった。何か決意を固めているようだが、その前に聞いてほしいことがある」
「それは今すぐに聞く必要がありますか?」
「ある」
「分かりました。聞きます」
俺は昨夜諜報担当からもたらされた、フレイヤの国家転覆を伝えた。
「という現状だ。俺はジョシュアの意見を後押しする気でいる。今すぐに決めなくてもいいが、あまり猶予がない。一緒に考えるか?」
「はい」
と言っても、俺も今ジョシュアからの話を聞いたばかりですぐにいい案は浮かばない。
ジョシュアを表舞台に出すか? それは怖い。ジョシュアが傷つく可能性がある。それに俺との結婚は?
では代理の者を立たせるか? 国を背負えるような者が思い当たらない。
最悪、形だけ誰かに立ってもらい、後ろで俺たちが動かしていくか?
「ヒューゴ様、私がフレイヤに行きます」
「分かった。それは反対しない。行ってどうする?」
「みんなが納得するかは分かりませんが、私が先頭に立ちまとめ上げます」
「そうか」
「それで、帝国に下ります」
「ん?」
「帝国の傘下に入ります。ヒューゴ様ならきっとできると思うので」
俺への信頼度すごいな。嬉しいが、すごい重圧だ。
それが一番だと理解はできる。そんなに上手くいくだろうか?
国家を転覆させるほど奮起した者たちをまとめ上げることは簡単ではないと思う。
しかし、ジョシュアがやると言ったのだから、やってやろうじゃないか。
「よし、やろう」
「ではすぐに支度をします。明朝発ちます」
「早くないか? どのような計画だ?」
「私がフレイヤの館の塔に登り、風魔法で王都に声を届けます。演説です。各地を回って説得します」
「時間がかかるぞ?」
「それでも、話をしなければなりません。私に国を預けてもらい、三年猶予をもらいます。その間に建て直しを図り、そこで民に判断してもらう。そういった方法を取ろうと思います」
「分かった。建て直しは都度話し合おう」
「ありがとうございます」
「私共も協力いたします」
フレイヤ出身の三名もジョシュアを支持することを決めたようだ。
「騎士も何名か付けよう」
「いえ、国境からはこの四人で行きます。帝国に協力を頼むこともあるかもしれませんが、その時は手紙を書きます」
「では諜報部を数名連れていけ。連絡要員として使えばいい」
「分かりました。ありがとうございます」
ジョシュアって強いよな。自ら攫われて敵国に単身で来るくらいだもんな。強く気高く美しい。これは惚れない方が無理だ。
「私共も準備を進めますので失礼します」
そう言うとジェイコブ、ルイス、ノースの三人は部屋を出ていった。
「ヒューゴ様、抱きしめてください」
「ん? いいぞ」
久しぶりに抱きしめたな。ジョシュアは俺の背中に腕を回すと、締め付けるようにギュッと力を込めた。
「頑張ってきます。待っていて下さい」
「分かった」
「今日は一緒に寝て下さい」
「もちろんだ」
「嬉しいです。ヒューゴ様、大好きです」
「うん。俺もジョシュアが大好きだ」
離れるのが寂しくて、俺はジョシュアを何度も抱いた。明朝出立するというのに。
「あっ、ひゅ、ご、さま……愛しています……」
「ジョシュア、俺も愛してるよ」
その夜は、愛していると二人で何度も確認するように言い合って、未来を約束した。
名残惜しくて、離れるのが寂しくて、俺は国境までジョシュアを送っていった。離れるギリギリまで手を繋いで、しっかりジョシュアの体温と感触を体に覚え込む。
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