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53.女神不在のフレイヤ(ヒューゴ視点)

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 ジョシュアを膝の上に乗せてティータイムを楽しんでいると、諜報担当が報告を持ってきた。

「ヒューゴ様、フレイヤの様子ですが……」

 彼はジョシュアをチラリと見て、俺に続けて話してもいいのかと目線を送ってきた。
 あまりよくない報告なんだろう。

「ジョシュアは聞きたくなければ席を外してもいいんだぞ」
「いいえ、私も聞きます」
「そうか。話してくれ」

 高い税による貧困と、兵による自作自演の破壊により家を無くした者たちが、各地で暴動を起こしているらしい。
「自国の兵が自国を破壊している」「帝国が出した復興支援金を軍部が横取りしている」「任務に失敗した兵が多数処刑された」「兵になったら人柱にされる」などの噂が流れ、兵が大量に辞め、暴動を抑えられないとか。
 他の国に出国する者も多数出ているらしい。帝国に向かっている者もいるため、受け入れ準備が必要になりそうとのことだった。

 急に何があったんだろうか? 一体誰が何のためにそんな噂を流したんだろうか?

「それと、民たちの間で旗が掲げられています。
【さよならフレイヤ、私はこの国を捨てる。みんな立ちあがろう】という内容です。
 恐らく、今のフレイヤを壊し皆で立ち上がって、新しい民たちのための国を作ろうということだと思うのですが、誰の言葉で誰がその指揮を取っているのかが、まだ突き止められていません。
 何羽かはわかりませんが、この言葉を喋る鳥もいるらしいので、もしかしたら大きな組織かもしれません」
「その中心人物を見つけたら是非話を聞きたい。どのような意図があるのか、もしそれがフレイヤ国民のために一番良い方法であるのなら、俺はその者に協力してもいい」

「王都から広がっていることは分かっているのですが、国内全土に広がりを見せており、個人なのか組織なのかも……引き続き調査は続けます。
 それと……」
「なんだ?」

 言いにくそうにしている男に先を促す。

「城の塔を女神が破壊したとの噂が広がっており、この国には女神が降臨されたと。きっと女神が我らをお救い下さると、例の立ち上がった民たちの士気を高めております」
「……そうか」

 女神は女神だが、それはジョシュアで神が降臨したわけではない。塔を吹き飛ばしたのがジョシュアだと知られれば、ジョシュアが恐れられることになってしまうのではないかと心配になった。

 そして、一言も話さず大人しい様子のジョシュアも気になった。

「ジョシュア、やはり次からは俺だけで報告を聞こう。生まれ育った国とはいえ、荒れていると聞くのは辛いだろう?」
「……」

 ジョシュアは何か言いたげに俺を見上げて口を開いたが、言葉を発する前に目を逸らして口を閉じてしまった。

「大丈夫だ。俺がついているからジョシュアは何も心配することはない」
「私は大変なことを……」
「気にするな」

 塔を吹き飛ばしたことが女神降臨と騒がれているのだから無理もない。
 そんなこと、気に病むことはないのにな。

「ヒューゴ様、少し一人で考えさせてください」
「分かった」

 俺は了承し、ジョシュアもしばらく一人で頭の中を整理すれば、すぐに戻ってくると思っていた。
 しかしジョシュアは正妃の部屋に鍵をかけて閉じこもってしまい、五日も出てこなかった。

 何度か俺が声をかけたが返事はない。
 従者の件の時はマックには話していた。悔しいがマックに頼んでみると、マックが何度か訪ねても返事はなかったらしい。
 ポールやミールはどうだ? と思ったがポールもミールでもダメだった。
 やはりフレイヤのことなのだから、フレイヤ出身の者がいいのかもしれないと、一番歳が近そうな庭師のルイスにこうなった経緯と話を持っていくと、ルイスは料理人のノースと共にジョシュアを訪ねた。

「陛下、ジョシュア様から返答はありました。話は聞けておりませんが、ジェイコブも含め相談したいと仰られましたので、明日ジェイコブと私共ニ人で訪ねるつもりです」
「分かった。よろしく頼む」

 やはりフレイヤの者の方が話がしやすいのか。俺ももっとジョシュアに頼ってもらえるよう頑張らなければ。
 ジョシュアが苦しんでいなければいいんだが。
 そんなことを思いながら待っていると、諜報担当が報告を持って戻ってきた。

 
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