53 / 56
53.女神不在のフレイヤ(ヒューゴ視点)
しおりを挟むジョシュアを膝の上に乗せてティータイムを楽しんでいると、諜報担当が報告を持ってきた。
「ヒューゴ様、フレイヤの様子ですが……」
彼はジョシュアをチラリと見て、俺に続けて話してもいいのかと目線を送ってきた。
あまりよくない報告なんだろう。
「ジョシュアは聞きたくなければ席を外してもいいんだぞ」
「いいえ、私も聞きます」
「そうか。話してくれ」
高い税による貧困と、兵による自作自演の破壊により家を無くした者たちが、各地で暴動を起こしているらしい。
「自国の兵が自国を破壊している」「帝国が出した復興支援金を軍部が横取りしている」「任務に失敗した兵が多数処刑された」「兵になったら人柱にされる」などの噂が流れ、兵が大量に辞め、暴動を抑えられないとか。
他の国に出国する者も多数出ているらしい。帝国に向かっている者もいるため、受け入れ準備が必要になりそうとのことだった。
急に何があったんだろうか? 一体誰が何のためにそんな噂を流したんだろうか?
「それと、民たちの間で旗が掲げられています。
【さよならフレイヤ、私はこの国を捨てる。みんな立ちあがろう】という内容です。
恐らく、今のフレイヤを壊し皆で立ち上がって、新しい民たちのための国を作ろうということだと思うのですが、誰の言葉で誰がその指揮を取っているのかが、まだ突き止められていません。
何羽かはわかりませんが、この言葉を喋る鳥もいるらしいので、もしかしたら大きな組織かもしれません」
「その中心人物を見つけたら是非話を聞きたい。どのような意図があるのか、もしそれがフレイヤ国民のために一番良い方法であるのなら、俺はその者に協力してもいい」
「王都から広がっていることは分かっているのですが、国内全土に広がりを見せており、個人なのか組織なのかも……引き続き調査は続けます。
それと……」
「なんだ?」
言いにくそうにしている男に先を促す。
「城の塔を女神が破壊したとの噂が広がっており、この国には女神が降臨されたと。きっと女神が我らをお救い下さると、例の立ち上がった民たちの士気を高めております」
「……そうか」
女神は女神だが、それはジョシュアで神が降臨したわけではない。塔を吹き飛ばしたのがジョシュアだと知られれば、ジョシュアが恐れられることになってしまうのではないかと心配になった。
そして、一言も話さず大人しい様子のジョシュアも気になった。
「ジョシュア、やはり次からは俺だけで報告を聞こう。生まれ育った国とはいえ、荒れていると聞くのは辛いだろう?」
「……」
ジョシュアは何か言いたげに俺を見上げて口を開いたが、言葉を発する前に目を逸らして口を閉じてしまった。
「大丈夫だ。俺がついているからジョシュアは何も心配することはない」
「私は大変なことを……」
「気にするな」
塔を吹き飛ばしたことが女神降臨と騒がれているのだから無理もない。
そんなこと、気に病むことはないのにな。
「ヒューゴ様、少し一人で考えさせてください」
「分かった」
俺は了承し、ジョシュアもしばらく一人で頭の中を整理すれば、すぐに戻ってくると思っていた。
しかしジョシュアは正妃の部屋に鍵をかけて閉じこもってしまい、五日も出てこなかった。
何度か俺が声をかけたが返事はない。
従者の件の時はマックには話していた。悔しいがマックに頼んでみると、マックが何度か訪ねても返事はなかったらしい。
ポールやミールはどうだ? と思ったがポールもミールでもダメだった。
やはりフレイヤのことなのだから、フレイヤ出身の者がいいのかもしれないと、一番歳が近そうな庭師のルイスにこうなった経緯と話を持っていくと、ルイスは料理人のノースと共にジョシュアを訪ねた。
「陛下、ジョシュア様から返答はありました。話は聞けておりませんが、ジェイコブも含め相談したいと仰られましたので、明日ジェイコブと私共ニ人で訪ねるつもりです」
「分かった。よろしく頼む」
やはりフレイヤの者の方が話がしやすいのか。俺ももっとジョシュアに頼ってもらえるよう頑張らなければ。
ジョシュアが苦しんでいなければいいんだが。
そんなことを思いながら待っていると、諜報担当が報告を持って戻ってきた。
289
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる