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52. 伝えなければならないこと
しおりを挟む「俺はジョシュアと結婚する」
「「「おめでとうございます」」」
誰も反対するものはいなかった。私がヒューゴ様の結婚相手でいいんですか?
執事のジェイコブとメイドのメリーとミア、庭師のルイスと料理人のノースにも会った。
「ジョシュア様、本当によかったです。帝国に来てよかったですね」
「ジョシュア、彼らはジョシュアが帝国に一人で来るときに、こっそり手助けをしてくれていたんだ」
「そうなのですか? みなさんありがとう」
「それで、彼らが希望するのであればこの城で、ジョシュアの近くで働いてもらおうと思うんだがどうだろう?」
「え? 私共はフレイヤの者ですよ?」
「そうだな。だがジョシュアもそうだ。姫が他国に嫁ぐ際には近習を大勢引き連れてくる。それと同じだろ?」
みんなは顔を見合わせていたが、みんなで頷いた。なんだろう?
「ジョシュア様並びにヒューゴ様いえ皇帝陛下に忠誠を誓い、帝国のために身命を賭して仕えます。よろしくお願いいたします」
「「「「よろしくお願いいたします」」」」
嬉しい。みんなが側にいてくれるんだ。
それより私はフレイヤのことでヒューゴ様に話さなければならないことがある。
「ヒューゴ様、フレイヤのことでお話しがあります」
「うん? 分かった。ソファーに座って話そう」
「はい」
ヒューゴ様は私を膝の上に抱えてソファーに座った。
え?
「あの、ヒューゴ様、私は一人で座れますよ」
「馬車の中ではずっとこうして座っていただろ?」
あれは夢だと思っていたから……
夢ではなかったのだと思うととても恥ずかしい。ベッタリと甘えて、好き好き言っていた気がしないでもない。
しかも、みんなの目の前で……
うぅ……恥ずかしい。
でも恥ずかしがってばかりはいられない。大切なことだから。
私はヒューゴ様の膝の上に抱えられたまま話した。
フレイヤは帝国が戦争を仕掛けたことに乗じて自国を破壊し、全て帝国のせいにしたこと、復興支援をしてくれている傍でわざと破壊を続けていること。だからもう復興援助はしないでほしいと。
「そうか。攻撃を仕掛けた際だけではなく、ずっと続けていたのか。でも大丈夫だ。ジョシュアを迎えに行く時に全て引き上げて援助も止め、国境の警備を固めている」
「そうですか」
「それと、フレイヤは豊かな帝国の国土を狙っています。そのために、自国を破壊しようとしました。私を出動させるとか言って」
私が戦争に兵器として使われる怖い存在であることを知っても、ヒューゴ様は私を手放さないでいてくれるだろうか?
「出動……ジョシュア、フレイヤでどんな扱いをされていたか知っていたのか?」
「私は風魔法が使えるので、たった一人館に閉じ込められても各所の声を拾うことができます。だから、父上までもが私を兵器として恐れていたことも知っています」
「そうか。辛かったな。もう大丈夫だからな」
「はい」
「ジョシュア様、塔が吹き飛んでいたのは、フレイヤに何かされてお怒りになったのですか?」
「少し怒ったかもしれない。フレイヤは帝国に近い街を破壊しようとしたんだ。塔によく登っていたから私なら気づくと、私の反応を見るとか言っていた。だから、塔を吹き飛ばせば見えなくなるから、そんな馬鹿なことはやめるだろうと思ってやった。それで街の破壊は中止された。
兵器らしいやり方をしたんです」
そうなんです。私は兵器と呼ばれるに相応しいやり方でやったんだ。引くだろ? 私が怖いか?
「はははっ、格好いいな。ジョシュアらしい。誰も傷つけない方法で中止させるとは。さすが俺のジョシュアだ」
そう言ってヒューゴ様はギュッと抱きしめてくれた。私が怖くないのか?
「塔を吹き飛ばすような魔法を使う私が怖くないんですか?」
「怖くないだろ。殺戮を繰り返すような奴なら怖いが、ジョシュアはそんなことをしないと知っているからな。ジョシュアは人を守ることに魔法を使った。怖いことなど何もない」
そうなんだ……
私は少しだけ溢れてしまった涙を隠すように、ヒューゴ様にギュッと抱きついた。
ヒューゴ様に抱えられたまま話すなんて恥ずかしいと思っていたけど、抱えられていてよかった。
温かくて大きな手が私の髪を撫でる。
こんなに温かくて素晴らしい人に愛されているなんて、私はとても幸せだ。
そして私は正妃の部屋を使い、ヤーネが来る前の生活に戻った。
ヤーネがみんなに迷惑をかけたから、初めは謝って回ったんだが、みんな気にすることはないと言って許してくれた。
迷惑をかけた分もしっかり働きます。
「ポール、ルイス、さっきキッチンでクッキーをもらったんだ。一緒に食べよう」
私たちは3人並んで花壇に腰掛けるとクッキーを食べた。
「ルイス、ここの庭はあの館の庭より広いから大変か?」
「いいえ、ポールに色々教えてもらって楽しいですよ。城で使う野菜やハーブを育てるという試みも、とても面白いです」
「そうか。それはよかった。ノースも料理人のミールと仲良くやっているよ。フレイヤと帝国では料理の方法が違うものもあって、お互いに教え合って楽しいと言っていた」
「そうですか。この国はいい国ですね」
「私もそう思う。みんな温かくて、優しい」
「ジョシュア様、陛下が迎えに来ましたよ」
「本当だ。私は戻るとしよう」
手を振りながらこちらへ向かってくるヒューゴ様の元に駆け寄り、手を繋いで部屋に戻る。
「あの二人、1時間と離れていられないんですかね?」
「そのようですね。このクッキーより甘い」
「確かに」
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