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50.ジョシュア奪還作戦2(ヒューゴ視点)
しおりを挟むノースの案内で館に入る、森から続く地下道を抜け、館の地下にある食物保管庫の一番奥の棚を退けてそこに入ると、中は棚が並んでいるだけで食材は何もなかった。
「食材がない? ジョシュア様の食事は?」
「そんなことよりジョシュアを探そう」
「あ、はい。お部屋にご案内します」
一階はカーテンがきっちり閉まっており、本当に人がいるのかと思うほどに使われた形跡がなかった。
階段を上がってそっとドアを開けると、窓が半分ほど開けられた部屋でベッドに横になるジョシュアを見つけた。
「ジョシュア」
小声で呼びかけると、寝ぼけたままジョシュアは答えた。
「どうか、私をここから連れ出して。悪魔でも構いませんから」
「分かった」
「ありがとう」
連れ出してくれとジョシュアが望むのなら、もう迷うことはない。俺はジョシュアを抱えて闇に溶け込むような色のローブを着せると、静かに部屋を後にした。そのまま来た道を引き返すように森まで戻る。
見張をしていた諜報担当とルイスと合流し、すぐに森から王都を抜ける。
ーーさよならフレイヤーーーー
「ん? ジョシュアが何か言ったようだ」
「陛下、そんなことより早く!」
王都を抜ける際に何かジョシュアが言った気がして止まろうとしたが、早くと周りに急かされた。後で聞こう。
そう思いながら王都を抜け、馬に乗って更に森を駆ける。
ジョシュアが途中でモゾモゾと動いていたが、今は止まっていられないと、そのまま駆け抜けた。
「休憩しましょう」
馬も長時間全力で走らせることはできない。途中で休憩をとると、膝の上に抱えたジョシュアが寝ぼけ眼で抱きついてきた。
「ヒューゴ様、会いたかったです。夢の中に出てきてくれてありがとうございます」
起きているのか、寝ぼけているのか分からないが、会いたいと思ってくれたことが嬉しかった。
やっとこの腕に抱き締めることができた。愛しい人。起きたらちゃんと言うから。
そう思っていたのに、ジョシュアはいつまで経っても寝ぼけたようにふにゃふにゃとしていて、国境を越えて馬車に乗る頃には起きるかと思ったがそうでもなかった。
フレイヤの様子をしばらく監視するよう諜報担当はフレイヤに残し、騎士とジェイコブ、メリー、ミアと合流して馬車で城に向かう。
「ヒューゴ様、ずっと側にいてください。好きなんです。大好きなんです」
「ずっと側にいるからな。俺も大好きだ」
向かいの席にはジェイコブとメリーとミアが座っているのに、寝ぼけ眼のジョシュアは俺にべったりくっ付いて、好きだ好きだと砂糖のように甘い言葉ばかり吐いてくるから、俺は少し恥ずかしい。
「一人は寂しい……
みんな酷いことを言うんです。フレイヤは酷い国でした。帝国に帰りたい」
「もう大丈夫だから、俺が付いている。一緒に帰ろうな」
たまに少し震えながらそんなことも言う。
やはり寝惚けているのか?
「あ、ヒューゴ様、もう復興援助はしないで下さい。フレイヤは、帝国からお金と人を減らすために兵を向けて自国を破壊してるんです。戦争の被害も、ほとんどがフレイヤの兵たちが自ら破壊したものです」
「分かった。もう心配しなくていいからな」
「はい。やっと言えた。この夢がちゃんとヒューゴ様に伝わったらいいのに……私は無力です」
「そんなことない。ジョシュアは一人で頑張った。偉いな」
「ヒューゴ様、大好きです」
「うん。俺もジョシュアが大好きだ」
起きたら言おうと思っていた言葉は全部ジョシュアに言われてしまった。
馬車から降りる時もずっと抱きついているから抱き抱えて運ぶしかなくて、ジョシュアの帰還を喜んで迎えた周りの者たちに生暖かい目で見られて、なんとも居心地悪く俺はジョシュアを連れて部屋に戻った。
「ジョシュア、まだ寝ているつもりか?」
「起きたらこの幸せな夢が覚めてしまいますから。どうかずっと眠ったままでいさせてください」
どうしたものか。
薬を飲まされたということではないんだよな?
医師に見せたが、薬物中毒ではないと、痩せてはいるが健康に問題はないとのことだった。
抱きついているから抱きしめているが、キスしてもいいんだろうか? きっとジョシュアはいいかと聞けば「はい」と答えるだろう。
「どうか起きてほしい。ここは帝国だ。ジョシュアが恐れるものは何もない。起きて俺を愛してくれないか?」
「ヒューゴ様、愛してますよ」
「ジョシュアと愛し合いたいんだ」
「私もです」
「そんなことを言うと今すぐ抱くぞ?」
「いいですよ」
俺は迷いながらジョシュアの頬に触れて軽く唇を重ねた。
「俺とのキスまで夢で終わらせないでくれ。俺はジョシュアの柔らかさもしなやかさも、温度も匂いもちゃんと感じている。ジョシュアは感じていないのか?」
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