【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

cyan

文字の大きさ
上 下
48 / 56

48.兵器と夢うつつ

しおりを挟む
 
「手始めにここから見える位置をちょっと破壊しておくか。街から人を追い出したら第一弾いってみよう」
「女神のお気に召すかな?」
「やるだけやってみよう。女神はよく塔に登っていると聞くからな」
「自国が攻撃された場合の女神の反応を見よう」

 ピピ、ハカイ
「ペルにもそう聞こえた? 破壊って言ったよね?」

 自国を破壊するのか? 嘘だろ?
 塔から見える位置。塔がなくなれば破壊などやめるか?
 私は塔から見る景色が好きだったが、民たちが住む街を破壊するなど許せなかった。私は迷わず塔を吹き飛ばした。誰もいない森の方向に向かって。

 ドゴォォォーーーーン!

 突然吹き飛ばされた塔に、辺りは騒然となっている。声を拾ったりしなくても、外の兵たちが逃げ惑う声が聞こえてくる。
 実に兵器と呼ばれるに相応しい所業だと、自嘲した。

 私の思惑通り、塔から見える街を破壊という計画は中止となった。
 しかし、軍部の声は私の心を抉った。

 さすが破壊兵器だとか、人間ではないとか、散々な言われようだった。
 ヒューゴ様も、私が兵器として育てられたと知ったらきっと嫌いになるんだろうな。
 悲しいな。
 館には誰も入れたくなくて、玄関に鍵をかけた。窓も一階は全て鍵をかけカーテンも閉めた。

 館の周囲に配置される兵は、誰もがその役目を嫌がった。兵を辞める者も出て、兵はかなり減ったようだ。
 私を刺激しないようにと、館周辺に兵を配置するのはやめることになった。遠くからオペラグラスというものを使って監視するらしい。

 今なら玄関から出ても槍を向けられることはなさそうだ。しかしそんなことをする意味もないからしない。出たところで、恐れられて逃げられるだけだ。いく場所も無い。

 退屈だが、嫌な感情ばかり向けられると、動いていないのに疲れてしまう。
 軍部の動きがないと、私は街の声を拾ってみた。
 街は相変わらず貧困に喘いで、お腹を空かせている。たまに帝国の悪口も聞こえるが、悪口を言う気力もない人が多いようだ。

 民の意識だけでも変えたいな。
 そう思った私は、街の各所に向かって声で噂を流していった。

「フレイヤは自国の兵に自国を破壊させ帝国のせいにしている」
「帝国はフレイヤのために復興援助しているが、その資金は国が軍部に回している」
「フレイヤでは任務に失敗するだけで処刑される」

 そんなことをやってみたが効果はあるか分からないな。
 暇つぶしだ。
 数日続けると、また私は軍部の声を拾いながら惰眠を貪る日々を送った。

 ピピ、フレイヤ
「ペル、私はいつまでこんな生活を続けていればいいんだろう?」


 月明かりのない新月の夜になると思い出す。帝国から迎えがきたことを。
 懐かしいな。溜め息と共に私は眠りについた。

「ジョシュア」

 誰かが私を呼んだ気がした。

「どうか、私をここから連れ出して。悪魔でも構いませんから」
「分かった」
「ありがとう」

 私は夢を見た。誰かが新月の夜に私をここから連れ出してくれる夢を。
 なんだか懐かしい匂いがする。幸せで、泣きたくなる匂い。
 ピピ

 ーーさよならフレイヤ、私はこの国を捨てる。みんな立ちあがろうーー

 なんてね、すごく気持ちがいい。
 今ならなんだってできる。そんな気がしたんだ。
 ピピってペルの声も聞こえた

 何かよく分からない振動に私は目を覚ました。
 すると、あの闇に溶け込むローブを着せられて誰かの背中に背負われており、まだ夢の続きなのだと思った。
 久々にいい夢だな。これなら苦しくない。
 もう少しこの夢を見ていたい。

 あの日と違うのは、抱えられて人力で走るのではなく、途中から馬に乗ったということだ。
 夢は見ているうちにだんだん現実から逸脱して進化していく。きっと今もそんな夢なんだ。

「休憩しましょう」

 あの時は休憩する時に私が結界を張って……
 あれ? ヒューゴ様だ。

「ヒューゴ様、会いたかったです。夢の中に出てきてくれてありがとうございます」

 私はギュッとその幻に抱きついた。ヒューゴ様の匂いも感じられるのだから不思議だ。
 こんな夢が見られるなら、私は永遠に眠り続けたい。

 ありがとう神様。私はもう死ぬのかな? 起きているような寝ているような、ずっとふわふわした感覚のまま、森を抜けて国境を越えて馬車に乗る。あの日、帝国へ向かった時の少し進化した夢を見続けている。
 だって目の前には、ここにいるはずのないジェイコブと、メリーとミアがいて、隣にはヒューゴ様がいるんだから。
 休憩の時にはノースとルイスも、マックも出てくる。

 私はヒューゴ様の幻にベタベタと甘えていて、それをみんながニコニコ微笑みながら見てるんだ。
 そんなの夢以外ありえないだろ?

 夢だから全部言える。

「ヒューゴ様、ずっと側にいてください。好きなんです。大好きなんです」
「ずっと側にいるからな。俺も大好きだ」

 ほら、夢だからヒューゴ様も私がほしい言葉を言ってくれる。

「一人は寂しい……
 みんな酷いことを言うんです。フレイヤは酷い国でした。帝国に帰りたい」
「もう大丈夫だから、俺が付いている。一緒に帰ろうな」

「あ、ヒューゴ様、もう復興援助はしないで下さい。フレイヤは、帝国からお金と人を減らすために兵を向けて自国を破壊してるんです。戦争の被害も、ほとんどがフレイヤの兵たちが自ら破壊したものです」
「分かった。もう心配しなくていいからな」
「はい。やっと言えた。この夢がちゃんとヒューゴ様に伝わったらいいのに……私は無力です」
「そんなことない。ジョシュアは一人で頑張った。偉いな」

「ヒューゴ様、大好きです」
「うん。俺もジョシュアが大好きだ」

 本当に幸せな夢だ。そして、とても残酷な夢。
 目覚めれば消えてしまう夢。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...