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48.兵器と夢うつつ

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「手始めにここから見える位置をちょっと破壊しておくか。街から人を追い出したら第一弾いってみよう」
「女神のお気に召すかな?」
「やるだけやってみよう。女神はよく塔に登っていると聞くからな」
「自国が攻撃された場合の女神の反応を見よう」

 ピピ、ハカイ
「ペルにもそう聞こえた? 破壊って言ったよね?」

 自国を破壊するのか? 嘘だろ?
 塔から見える位置。塔がなくなれば破壊などやめるか?
 私は塔から見る景色が好きだったが、民たちが住む街を破壊するなど許せなかった。私は迷わず塔を吹き飛ばした。誰もいない森の方向に向かって。

 ドゴォォォーーーーン!

 突然吹き飛ばされた塔に、辺りは騒然となっている。声を拾ったりしなくても、外の兵たちが逃げ惑う声が聞こえてくる。
 実に兵器と呼ばれるに相応しい所業だと、自嘲した。

 私の思惑通り、塔から見える街を破壊という計画は中止となった。
 しかし、軍部の声は私の心を抉った。

 さすが破壊兵器だとか、人間ではないとか、散々な言われようだった。
 ヒューゴ様も、私が兵器として育てられたと知ったらきっと嫌いになるんだろうな。
 悲しいな。
 館には誰も入れたくなくて、玄関に鍵をかけた。窓も一階は全て鍵をかけカーテンも閉めた。

 館の周囲に配置される兵は、誰もがその役目を嫌がった。兵を辞める者も出て、兵はかなり減ったようだ。
 私を刺激しないようにと、館周辺に兵を配置するのはやめることになった。遠くからオペラグラスというものを使って監視するらしい。

 今なら玄関から出ても槍を向けられることはなさそうだ。しかしそんなことをする意味もないからしない。出たところで、恐れられて逃げられるだけだ。いく場所も無い。

 退屈だが、嫌な感情ばかり向けられると、動いていないのに疲れてしまう。
 軍部の動きがないと、私は街の声を拾ってみた。
 街は相変わらず貧困に喘いで、お腹を空かせている。たまに帝国の悪口も聞こえるが、悪口を言う気力もない人が多いようだ。

 民の意識だけでも変えたいな。
 そう思った私は、街の各所に向かって声で噂を流していった。

「フレイヤは自国の兵に自国を破壊させ帝国のせいにしている」
「帝国はフレイヤのために復興援助しているが、その資金は国が軍部に回している」
「フレイヤでは任務に失敗するだけで処刑される」

 そんなことをやってみたが効果はあるか分からないな。
 暇つぶしだ。
 数日続けると、また私は軍部の声を拾いながら惰眠を貪る日々を送った。

 ピピ、フレイヤ
「ペル、私はいつまでこんな生活を続けていればいいんだろう?」


 月明かりのない新月の夜になると思い出す。帝国から迎えがきたことを。
 懐かしいな。溜め息と共に私は眠りについた。

「ジョシュア」

 誰かが私を呼んだ気がした。

「どうか、私をここから連れ出して。悪魔でも構いませんから」
「分かった」
「ありがとう」

 私は夢を見た。誰かが新月の夜に私をここから連れ出してくれる夢を。
 なんだか懐かしい匂いがする。幸せで、泣きたくなる匂い。
 ピピ

 ーーさよならフレイヤ、私はこの国を捨てる。みんな立ちあがろうーー

 なんてね、すごく気持ちがいい。
 今ならなんだってできる。そんな気がしたんだ。
 ピピってペルの声も聞こえた

 何かよく分からない振動に私は目を覚ました。
 すると、あの闇に溶け込むローブを着せられて誰かの背中に背負われており、まだ夢の続きなのだと思った。
 久々にいい夢だな。これなら苦しくない。
 もう少しこの夢を見ていたい。

 あの日と違うのは、抱えられて人力で走るのではなく、途中から馬に乗ったということだ。
 夢は見ているうちにだんだん現実から逸脱して進化していく。きっと今もそんな夢なんだ。

「休憩しましょう」

 あの時は休憩する時に私が結界を張って……
 あれ? ヒューゴ様だ。

「ヒューゴ様、会いたかったです。夢の中に出てきてくれてありがとうございます」

 私はギュッとその幻に抱きついた。ヒューゴ様の匂いも感じられるのだから不思議だ。
 こんな夢が見られるなら、私は永遠に眠り続けたい。

 ありがとう神様。私はもう死ぬのかな? 起きているような寝ているような、ずっとふわふわした感覚のまま、森を抜けて国境を越えて馬車に乗る。あの日、帝国へ向かった時の少し進化した夢を見続けている。
 だって目の前には、ここにいるはずのないジェイコブと、メリーとミアがいて、隣にはヒューゴ様がいるんだから。
 休憩の時にはノースとルイスも、マックも出てくる。

 私はヒューゴ様の幻にベタベタと甘えていて、それをみんながニコニコ微笑みながら見てるんだ。
 そんなの夢以外ありえないだろ?

 夢だから全部言える。

「ヒューゴ様、ずっと側にいてください。好きなんです。大好きなんです」
「ずっと側にいるからな。俺も大好きだ」

 ほら、夢だからヒューゴ様も私がほしい言葉を言ってくれる。

「一人は寂しい……
 みんな酷いことを言うんです。フレイヤは酷い国でした。帝国に帰りたい」
「もう大丈夫だから、俺が付いている。一緒に帰ろうな」

「あ、ヒューゴ様、もう復興援助はしないで下さい。フレイヤは、帝国からお金と人を減らすために兵を向けて自国を破壊してるんです。戦争の被害も、ほとんどがフレイヤの兵たちが自ら破壊したものです」
「分かった。もう心配しなくていいからな」
「はい。やっと言えた。この夢がちゃんとヒューゴ様に伝わったらいいのに……私は無力です」
「そんなことない。ジョシュアは一人で頑張った。偉いな」

「ヒューゴ様、大好きです」
「うん。俺もジョシュアが大好きだ」

 本当に幸せな夢だ。そして、とても残酷な夢。
 目覚めれば消えてしまう夢。

 
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