【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

cyan

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47.懐かしい友

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 痛っ……塔の上の石の床で寝てしまった私は、明け方に寒さで目が覚めた。
 体も痛いし寒い。
 私は階段を下りて、私が使っていた部屋に入った。
 清浄魔法をサッとかけると、窓を開けて布団に潜り込んで惰眠を貪る。

 用意された食事は手を付ける気になれず、横になったまま行儀悪く水魔法で水を飲み、近くの山まで風を飛ばして熟した柿をとってきて齧り付いた。

 ピピ、タダイマ
「もしかしてペル? ただいまは私のセリフだ。そういう時はおかえりだぞ」

 ピピ、オカエリダゾ
「ありがとう。久しぶりだな。行儀が悪いって? 何もすることがないのだから仕方ないだろう?」

 ペルは窓枠でピピと鳴いて、しばらく窓枠のところで遊んでいたが、それに飽きると飛んでいってしまった。ペルがいなくなると、私は街まで風を飛ばしたり、城に風を飛ばして声を聞いて暇な時間を潰していた。

 街はやっぱりお腹を空かせている人が多い。
 城は戦争を気にしてる人が多い。帝国との戦争だと言っている声をよく聞くし、女神を出すとかいう話も聞く。女神とは私のことだよな?
 私を出すというのは、私はこの国には必要ないから、国から出て行けということなんだろうか?

 兵もメイドも、私が怖いと怯えていたしな……
 必要とされていない場所で、私は一人ぼっちで隔離されて何ができるんだろう?

 ん?
 耳を澄ませて拾った声に集中してみる。
 帝国が復興の援助をしていると話している者がいたからだ。
 そうなんだよ。攻め入ったけど、ヒューゴ様はちゃんと支援してくれているんだ。優しい人なんだ。と胸を張る思いだったが全く違う、予期せぬ内容だった。

「帝国は馬鹿みたいにまた人員と金を増やしたらしいぜ」
「あっちは裕福だな。早くフレイヤの領土にしたいな」
「資金を使わせて人手を引きずってくるために、またうちの軍部は破壊工作してるんだって?」
「そうらしい。壊すフレイヤ、知らずに延々と金を出す帝国。笑い話じゃねーか」
「まあ最初からそうだったろ?」
「だなー、帝国なんか大した攻撃してねーだろ。軍部を継ぎ足して自作自演。うちは酷い被害受けてますってアピールはなかなか上手かったよな。うちの軍部は演技派だなー」

 ピピ、ウソツキ
「ペル……」

 そんな……
 なぜそんなことを。
 ヒューゴ様にすぐに復興援助を中止するよう伝えなければ。って、どうやって? ここから風魔法を使って帝国まで声を届けるなんてできない。手紙も届けられない。ペルのように空が飛べたらいいのに……
 一人でどうやって立ち向かえばいい?
 どうやって帝国を救えばいい?

 ヒューゴ様、私が育った国はあなたが思うような国ではなかったようです。
 ヒューゴ様がいくら歩み寄っても、この国に歩み寄る気はないみたいです。
 本当にごめんなさい。

 愛していると言ってくれた。結婚したいと言ってくれた。だから私はヤーネを国に送り、父上に事情を聞いて、そして帝国に帰ろうと思っていた。
 もう、戻れません。この国はあなたに迷惑をかけすぎた。合わせる顔がありません。

 きっとここで私はみんなから恐れられて、一人ぼっちのまま死んでいくんだ。
 そんな人生、生きている価値はありますか?

 ピピ、メガミ
「そうだね。自分にできることはしないとね」

 帝国に迷惑をかけないよう、見張ることだけはしておこう。それだけが私の生きる理由です。

 軍部を中心に声を拾う。

「女神はどうやって引き摺り出す?」
「精神を弱らせて判断を鈍らせる必要があるよな」
「館を襲撃して帝国のせいにしてみるか?」
「それもいいが、まだ足りないな。女神の館にいた執事を帝国が殺したことにするか?」
「あれは国外追放したんだろ? 探すの難しいぞ?」
「適当な爺さんの遺体でも引き取って着替えさせれば大丈夫だろ」

 ……そんなに私に国から出て行ってほしいなら、出ていきます。

「女神はどこに配置する?」
「帝都までこっそり近付いて帝城を一気に更地にしてもらいたい」
「それは見ものだな」

 は? この者たちは何を言っている?
 配置とはなんだ?

「陛下もビビってほとんど会話できなかったとか。兵器を目の前にしたらビビるよな」
「おい、兵器と言うな。兵器だが女神と呼べ」
「女神さえ上手く使いこなせば世界が手に入るんじゃないか?」
「そのために大事に育てたんだろ」
「今回は前みたいに出動直前で逃すなよ」

 兵器……
 そうだったのか。兵器だと思われているから恐れられているのか。
 だからヤーネを使って私を取り戻そうとしたのか?
 私は生きていていいのか?
 分からない。
 もう考えるのをやめたい。何も聞きたくない。怖い。

 ボーッとした頭で、軍部の声だけ拾いながら、ベッドに横になったまま過ごした。
 何日も特に進展はなかったが、一つだけ嬉しいことがあった。

「女神を送ってきた帝国の奴らに逃げられました」
「は? なぜだ? すぐに襲撃しろと言ったはずだ!」
「奴らは森の中を騎馬で駆けて、いつの間にか国境を越えていた。もう手出しはできない」
「あんな少数にすら逃げられるとは! 無能め!」

 ピピ、ニゲタ
「そっか。マックたちは無事に国境を抜けたんだな。よかった。ね、よかったね、ペル」

 何が含まれているか分からないから、メイドが持ってくる食事には手をつけなかった。
 別にそんなもの要らない。
 腹も減らない。果物を山から何度か風で取って運んで、たまに食べたくらいだ。

 もう何日経ったかな? ベッドから一歩も動かず、メイドが料理を持ってくる以外、誰も館には訪ねてこない。
 軍部も私の扱いをどうするか決めかねているみたいだ。

 
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