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41.お別れ
しおりを挟む翌日、私を心配したみんなが続々とやってきた。
まず初めはヒューゴ様。しかし私はヒューゴ様に合わせる顔がないから、会わずに帰ってもらった。
次に来たのは料理人のミール。ミールは私にパンプディングを持ってきてくれた。
「ミール、私は国に帰る」
「なぜです?」
「これ以上この国に迷惑はかけられません。他国から来た私に優しくしてくれて、ありがとうございました。前に手紙で書いたこと、私とヤーネが城を出て、安全が確認されるまでは必ず続けて下さい」
「分かりました」
庭師のポールも来てくれた。綺麗な水色の花を持って。
「ポール、私は国に帰る」
「そうですか。俺は嬉しかった。ジョシュア様が声をかけてくれて、一緒に仕事をしたり、差し入れをくれたり、楽しかったです。また戻ってきますよね?」
私は静かに首を振った。
経理の人、薬師の人、馬番のルイ、宰相、各種大臣、メイドも入れ替わり立ち替わり、騎士も何人も。
あんなにも迷惑をかけたのに、こんな私なんかを心配してくれるなんて。
夕方にマックが来た。
ヤーネの持ち物を調べたが、毒はなかったと。しかし暗器や手紙は何枚か持っていて、一部は確認中だが、帝国の中に入って調べてくる内容などが書かれていたそうだ。
やっぱり……
諜報部にも探らせているが、外部と連絡を取ったような様子はなく、彼がメモをした内容が全てなのではないかとのことだった。
「ジョシュア様がフレイヤに帰るつもりだと聞きました」
「うん。そうですよ」
「陛下のこと、嫌いになってしまわれたんですか?」
「え?」
嫌いになってしまったって、それは逆だ。私がヒューゴ様に嫌われることをしたんだ。
「お二人は仲が良く、結婚するのだと思っていました」
「ええー??」
私のこの憂鬱な気分を吹き飛ばすには十分すぎるマックの壮大な勘違い。
「え? 二人は相思相愛に見えたので、てっきりそうだと」
「まさか。でも、マックは鋭いですね。誰にも言っていないのに、なんで分かったんですか? 私がヒューゴ様のことを好きだって。一方通行ですけどね」
「え? 一方通行? そんなわけないです。陛下がジョシュア様のことを大切にしているのは、誰が見てもすぐに分かると思いますが」
私を元気付けるために、そんなこと言ってくれるのかもしれない。ヒューゴ様が私を大切にしてくれていたのは友好国の王族だからだ。私を愛しているわけじゃない。
「でももうダメなんです。たくさん迷惑をかけたし、ヤーネを連れて国に帰るしかない」
「何があったんですか?」
「マックと初めて会った時と同じことです。でも違うのは、ヒューゴ様と約束をした後だったってこと……」
私の目からはポロリと一筋の涙が溢れた。
「ああ、気にすることないと思いますが。一つだけ聞いてもいいですか?」
「うん」
「なぜヤーネといつも手を繋いでいたんですか?」
「ヤーネを拘束しておくためですよ。勝手なことばかりするので。花壇を荒らしたり料理を台無しにしたり。勝手に書類を読んだり。本当に皆さんには迷惑をかけました」
「そうだったんですね」
「もう檻に入っているから、手を繋がなくていいのでホッとしています」
本当にホッとしている。もうあんな男の手には二度と触れたくない。
「そのことを陛下には伝えたのですか?」
「ヒューゴ様には言ってなかったかな?」
「言わないのですか?」
「うん。もうお別れだからいいんです」
「そうですか。また何か分かったら伝えに来ます」
「ありがとう」
仕事のこと、迷惑かけてしまうな……
経理の人には明日伝えに行こう。
翌日には経理に行って仕事のことを頼んだ。
「ジョシュア様、本当に国に帰ってしまうのですか?」
「うん。みんなには迷惑をかけてしまうから、本当にすみません」
「そんなことはいいんですが、寂しいです。でもまた帰ってきますよね?」
「残念ですが、もう戻っては来れないと思います」
「そんな……陛下のことはどうするんですか?」
「え? どうするって?」
「もう好きではないのですか?」
「え?」
私はそんなに分かりやすかったんだろうか? 周りに分かるくらい、ヒューゴ様への好きが溢れていたのか? そうだとしたらとても恥ずかしいんだが……
「好きですが、ダメなんです……」
「そうですか。寂しいですね」
私も寂しい。帰らなくていいなら帰りたくはないが、そういうわけにはいかない。
私にはやるべきことがあるから。
ヒューゴ様は毎日私に会いに来たけど、私は出なかった。
城を出る日、ヒューゴ様が用意してくれた馬車の荷台に、ヤーネが収監された檻を乗せる。うるさいからこの男の口を閉じた。
そして私は檻を監視する役だ。
同じ空間にいたくはないが仕方ない。これもフレイヤの王族としての責任。こいつを連れて帰らなければならない。
マックと、他に数名の騎士と御者も付けてくれた。
これで本当にお別れ。
「ヒューゴ様、ありがとうございました。私は帝国に来てよかった。幸せでした。さようなら」
「ジョシュア、行くな」
そう言って私の手を取ったヒューゴ様の大きな手は温かかった。握り返したい気持ちをグッと堪えて、私はそっとその手を解いた。
「ヒューゴ様、私はフレイヤでやらなければならないことがあります。どうかご理解ください」
「ジョシュア……」
笑顔、ちゃんと作れていたかな?
最後にヒューゴ様に触れられてよかった。
何か言いたげなヒューゴ様に背を向け、私はすぐに馬車に乗り出発の合図を送った。
「ジョシュア! ----! ----! 俺と------!!」
ヒューゴ様の叫ぶ声が聞こえた。そんなこと言われたら……
私は馬車の中で少し泣いて、この先の未来を見据えた。
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