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35.俺のジョシュア(ヒューゴ視点)

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 とうとうジョシュアを抱いてしまった。
 今までの俺なら、快楽だけを貪って、後宮に与えた部屋で事に及んだ場合は、出したらすぐに自分の部屋に戻ったり、俺の部屋の時はすぐに追い出したりしていたが、ジョシュアにそんなことはできなかった。

 ジョシュアが俺の名を呼ぶだけで震えるほど愛しくて、優しくしたくて、労りながらゆっくりと繋がっていく。
 ガツガツ貪ったら壊れてしまいそうに華奢なジョシュアを抱きしめて、俺の背中にその細い腕を回してくれるだけで幸せを感じる。

 言葉に出してはくれないが、俺のことを愛しているのかと勘違いしそうなくらい、熱の籠った目で見つめられると、心臓が痛いくらいにドクドクと跳ねた。愛してくれていると思っていいのか?


 昼間は本当に焦った。キッチンに行くだけだと聞いていたのに、やけに遅いと思って迎えにいくと、ジョシュアはいなかった。
 しかもキッチンに来たのは一瞬で、書類の数値の確認だけですぐに立ち去ったのだという。

 庭師と会って花の話でもしているのかと、庭園に入ってあの庭師の男を探し出したが、今日は来ていないと言われた。

 どこに行った?
 後宮によく行っているから、俺一人で行くのは気が進まなかったんだが後宮にも行ってみた。しかし今日は来ていないと言われ、美しいジョシュアが攫われたのかもしれないと思った。
 ジョシュアはフレイヤで女神と呼ばれていたが、それを知らないはずのこの城の者たちにも女神と呼ばれている。
 面と向かって女神と呼ばれているわけではないから、ジョシュアはきっと気づいていなんだろうが、その美しい容姿と慈愛に満ちた優しい性格から、女神だと表現されているんだ。

 しかしみんなの女神ではない。俺だけの女神だ。
 俺の女神を誰が攫った?
 俺が大切に守ってきたジョシュアを誰が……
 どこを探しても見つからず、メイドに聞いても廊下で見たとかその程度の情報しかない。
 誰かと共に歩いていたとか、担がれていったなどの情報はなかった。
 厩舎か? 馬番の男ともよく話している気がすると向かってみると、だいぶ前に騎士団に行ったが、戻ってくる姿を見ていないから騎士団にいるのでは? とのことだった。

 また騎士団か。俺のものだと分かっていて手を出した奴がいるのか?
 ジョシュアに手を出すなど絶対に許さない!
 怒りに支配されながら向かうと、休憩室にいると言われ、ドアを勢いよく開けると、ジョシュアは騎士の中心で突っ立って驚いた顔をしていた。

 着衣は乱れている様子はないが、一刻も早くこの中から救出しなければ。ジョシュアをすぐに肩に担いで部屋まで戻った。

 何もされていないし、話を聞いていたのだと言い、ジョシュアは俺に深く頭を下げた。

 わざと黙って行ったのではないと、薬師のところに行って騎士団に行ったのだと一生懸命説明してくれた。
 別にそんなことは疑っていないし、ジョシュアに対して怒ってはいない。ただ心配だっただけだ。
 またジョシュアが傷つくようなことがあってはならないと、心配でたまらなかっただけ。

 本当はどこに行くにも付いて行きたいが、束縛しすぎて嫌われたくもないと自由にさせている。
 ジョシュアは俺のことをどう思っているんだろう? 聞きたいけど聞けない。
 相手がどう思っているかなんて考えたこともなかった。俺は皇帝で万人から敬われ好かれていると思って、疑うこともなかったが、ジョシュアは分からない。

「ヒューゴ様、夜にお話があります」
「ん? 今でなく夜? 今聞かせろ」
「はい」

 なぜ勿体ぶって夜になどと言ったのかが分からなくて、嫌な話でもいい話でも今すぐに聞きたいと思った。

 すると、耳を貸して欲しいと言う。今は部屋に二人しかいないんだから、誰にも聞かれることはないのに何なんだ? とは思ったが少し屈んで耳を貸した。
 耳にジョシュアの温かい吐息がかかり、ドキドキする。

「淫らなことのその先をしたいのです」

 は? ジョシュアの発言に、俺は自分の体温が急激に上がったように感じた。幻聴ではないよな? ジョシュアからそんなことを言ってくるなんて思ってもみなかった。
 その先はしたかったが、挿れなくても裸で抱き合うだけで幸せだし、この華奢なジョシュアにそんなことをしていいのか迷いもあって、先に進めずにいた。

「いいのか?」
「あ、でもヒューゴ様が望まないならしません」
「したいに決まっているだろ?」
「そうなんですか」

 俺が望まないなんてあるわけないのに、城の中ではジョシュアは俺のお気に入りだと知れ渡っているし、カルムには会う度に「いつ結婚するんですか?」なんて揶揄われている。

 さすが親子と言うべきか、宰相にも「今日も仲睦まじいですね」なんて言われるし、ジョシュアに付いて行くだけで周りから生暖かい目で見られる。
 それは当然で、正妃の部屋をジョシュアに使わせているんだからな。

 結婚しないのか? と何人かに聞かれたが、フレイヤの復興が終わるまではしないと俺の中で決めている。復興が完了したら、ちゃんとフレイヤの王も招いて式をしたいと思っているんだが、ジョシュアの気持ちがいまいち分からない。
 俺のものだと言うくせに、今の発言のように俺が望まないならしないとか言うし。
 そんなことを考えていると、ジョシュアも同じように難しい顔をして考え込んでいた。

「ジョシュア、難しい顔をして何を考えているんだ?」
「私の立場のことを考えていました」

 立場。やはり早く結婚したいということだろうか? それとも、俺の愛が重くて戸惑っているのか? 復興が終わる目処が立ったら婚約書類をフレイヤに送るつもりだ。ジョシュアが了承してくれるなら。

「立場? 俺の隣の部屋を与えた。そう言えば分かるか?」
「はい」

 俺がジョシュアと結婚したいと思っているのは分かってくれていたようだ。婚約する時にはちゃんと結婚しようと口にするつもりだが、少し恥ずかしくて、少しの不安があったから、そんな言い方になってしまった。ジョシュア、いいのか? いいんだよな? 了承してくれたと思っていいのか?

「いいのか?」
「え?」

「え?」とはなんだ? 了承したわけではないのか? 俺の勘違いなのか?

「ジョシュアは、俺の側にずっといてくれるのか?」
「はい」
「ありがとう。大切にする」
「はい」

 よかった。了承してくれた。
 ジョシュア、待っていてくれ。人員も予算も増やしてフレイヤの復興を進めるから。
 そうしたら、結婚しような。


 そんな話をした日の夜に、とうとうジョシュアと体を繋げたのだから、感動しないはずがないんだ。
 ジョシュアはずっと可愛くて、愛しくて、でも終わるとすぐに眠ってしまった。
 俺はずっと余韻に浸ってジョシュアを抱きしめていたんだが、ジョシュアは途中で一度目を覚まして、俺の胸に擦り寄って、頬を擦り付けてスンスンと匂いを嗅いでいた。
 可愛い。何だこの甘い空間は。
 幸せすぎる。

 俺は幸せな気持ちを噛み締めながら眠りについた。

 
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