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32.マックと治癒魔法
しおりを挟むある日、私は騎士団に向かった。そしたら救護室にバタバタと駆け込む人たちがいたから気になった。誰かが怪我をしたんだろうか?
「ジョシュア様、ここはあなた様のような方が来てはいけません」
そう言って部屋の入り口から中に入れてもらえなかった。でも私は見てしまったんだ。マックが血だらけで横たわっている姿を。
だから私は入り口を塞いだ人を退けて無理やり中に入った。
「マック、何があったのですか?」
「お前のせいだ! お前がいるから……
キスしたくらいで騒いで、お前のせいだ。無茶な行軍で魔物討伐に行くことになった」
「そんな……」
マックは私のことを許してはいなかった。もしかして、風で攻撃をしてしまったことが、今回の怪我に影響したのか? 厩舎で会った時にちゃんと確認して治癒をかけておくべきだった。
これは本当に私のせいかもしれない。
「嬉しいか? 俺の足はもうダメだ。俺が騎士を続けられなくなって嬉しいか? 無様な俺を笑いに来たんだろ? 笑えばいいだろ!」
「治癒魔法はーー」
「かけたに決まってんだろ! ぬくぬく守られて育ってきた奴に、泥水啜ってでも這い上がってきた俺の気持ちが分かるかよ! もうおしまいだ。死んだ方がマシだ……」
治癒魔法でもダメだったのか……
なんで無茶な行軍なんてさせたんだろう? この国を守る騎士にそんなことさせたらダメだと思う。
「ごめんなさい。私があの時にちゃんと治癒をかけていたらよかった。私が治癒魔法をかけますから、少しだけ怪我に触らせてください。」
死んだ方がマシだと泣き崩れたマックの、ダメになったという足に触れると、太ももの肉が抉れて骨が砕けていた。
治癒魔法をかけたと言っていたけど、本当にかけたんだろうか? 止血くらいしかされていないのが気になった。治癒を使える人の魔力が無くなってしまったのかもしれない。
私は迷わずマックの足に上級の治癒魔法をかけた。他の傷だらけの場所にも治癒をかけていく。
「マック、あなたは騎士を続けられます。足はちゃんと治りました。あなたを無茶な行軍で向かわせた団長にもヒューゴ様にも私が抗議しておきます」
「は? え? な、なんで……」
「風の魔法を当ててごめんなさい。人を魔法で攻撃するなんて、許してもらえなくて当然でした。私のことは許さなくていいので、どうかヒューゴ様とこの国を守ることはやめないで下さい」
「ご、ごめんなさい、俺、俺……俺が弱いだけなのに、怪我したのはジョシュア様のせいじゃないのに、あなたに当たった……
俺、まだ騎士続けられるのか?」
「はい。続けられますよ。立って歩いて確認してみて下さい」
マックは私のことなど嫌いだろうと思って、マックから離れると、ほかの怪我人も診て回った。マックほど酷い怪我の人はいなくて、軽い治癒魔法でみんな治った。
人に嫌われるって、悲しいことだな。自分がやったことだけど、謝っても許してもらえないことがあるのだと知った。謝れば何をしても許されるなんてことはない。だから償いって言葉があって、ヒューゴ様はフレイヤの復興に手を貸しているのはまさにそれだ。
私もマックに償いをすれば、いつか許してもらえるんだろうか?
「ジョシュア様、ありがとうございました」
深く思考の中に沈み込んでいると、急に声をかけられた。驚いて振り向くと、誰かが私がここにいることを知らせたのか、団長と救護室の人たちが頭を下げていた。
「気にしないで。私にできることをしただけだから。それよりーー」
私はマックが無茶な行軍をさせられたことで、騎士生命を失うことになりかねない怪我をしたことを抗議した。
「ジョシュア様のお手を煩わせることとなり、申し訳ございませんでした」
「違います。私の手を煩わせるとかはいい、騎士を大事にして下さいと言いたかったのです」
分かってくれただろうか? 私の説明の仕方が悪いんだろうか。情けない。
私は誰かのためになることをしたいけれど、何も出来ないのかもしれない。無力だな。
もう戻ろう。
そう思って歩みを進めようとしたら、マックが私の足元に平伏していた。なぜそんなことを?
「マック、どうしたのですか? もしかして、まだ痛みがあったり、おかしなところがありますか?」
「ありません。ジョシュア様、ありがとうございました。俺は、あなたに酷いことをしたし、酷い態度で酷いことを言ったのに、あなたは俺を救ってくれた。生涯このご恩は忘れません」
マックは怪我が痛むわけではないのに、騎士も続けられるのに、まだ涙を溢れさせていた。
「大袈裟ですよ。私は少し治癒魔法を使っただけです。償いはしますので、いつか許していただけると嬉しいです」
「償いなど、それは俺がすることです。ジョシュア様のことを許さないなどあり得ません」
「そうですか。今度こそ仲直りできたと思っていいんでしょうか? マックは寛大ですね」
「寛大なのはジョシュア様です。俺は帝国の騎士ですが、あなた様にも忠誠を誓い、今後も騎士としての努力を惜しまないことをお約束します」
「うん。ありがとう、私に忠誠なんて誓わなくていいんですよ。この国のためにいい騎士でいて下さい。それが私の望みです」
そう言うと、救護室にいた騎士全員が敬礼をしてくれた。人質の私にそんなことしなくてもいいのに。
ここにいる必要があるのかどうかも分からないのに、そんなことをされると、優しい人たちに甘えてしまいそうになる。
みんなが、私に治癒魔法など使わせてヒューゴ様に怒られるかもしれないと言っていたから、内緒ってことにしてもらって部屋に戻った。
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