【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

cyan

文字の大きさ
上 下
32 / 56

32.マックと治癒魔法

しおりを挟む
 
 ある日、私は騎士団に向かった。そしたら救護室にバタバタと駆け込む人たちがいたから気になった。誰かが怪我をしたんだろうか?

「ジョシュア様、ここはあなた様のような方が来てはいけません」
 そう言って部屋の入り口から中に入れてもらえなかった。でも私は見てしまったんだ。マックが血だらけで横たわっている姿を。
 だから私は入り口を塞いだ人を退けて無理やり中に入った。

「マック、何があったのですか?」
「お前のせいだ! お前がいるから……
キスしたくらいで騒いで、お前のせいだ。無茶な行軍で魔物討伐に行くことになった」
「そんな……」
 マックは私のことを許してはいなかった。もしかして、風で攻撃をしてしまったことが、今回の怪我に影響したのか? 厩舎で会った時にちゃんと確認して治癒をかけておくべきだった。
 これは本当に私のせいかもしれない。

「嬉しいか? 俺の足はもうダメだ。俺が騎士を続けられなくなって嬉しいか? 無様な俺を笑いに来たんだろ? 笑えばいいだろ!」
「治癒魔法はーー」
「かけたに決まってんだろ! ぬくぬく守られて育ってきた奴に、泥水啜ってでも這い上がってきた俺の気持ちが分かるかよ! もうおしまいだ。死んだ方がマシだ……」

 治癒魔法でもダメだったのか……
 なんで無茶な行軍なんてさせたんだろう? この国を守る騎士にそんなことさせたらダメだと思う。

「ごめんなさい。私があの時にちゃんと治癒をかけていたらよかった。私が治癒魔法をかけますから、少しだけ怪我に触らせてください。」

 死んだ方がマシだと泣き崩れたマックの、ダメになったという足に触れると、太ももの肉が抉れて骨が砕けていた。
 治癒魔法をかけたと言っていたけど、本当にかけたんだろうか? 止血くらいしかされていないのが気になった。治癒を使える人の魔力が無くなってしまったのかもしれない。
 私は迷わずマックの足に上級の治癒魔法をかけた。他の傷だらけの場所にも治癒をかけていく。

「マック、あなたは騎士を続けられます。足はちゃんと治りました。あなたを無茶な行軍で向かわせた団長にもヒューゴ様にも私が抗議しておきます」
「は? え? な、なんで……」

「風の魔法を当ててごめんなさい。人を魔法で攻撃するなんて、許してもらえなくて当然でした。私のことは許さなくていいので、どうかヒューゴ様とこの国を守ることはやめないで下さい」
「ご、ごめんなさい、俺、俺……俺が弱いだけなのに、怪我したのはジョシュア様のせいじゃないのに、あなたに当たった……
 俺、まだ騎士続けられるのか?」
「はい。続けられますよ。立って歩いて確認してみて下さい」

 マックは私のことなど嫌いだろうと思って、マックから離れると、ほかの怪我人も診て回った。マックほど酷い怪我の人はいなくて、軽い治癒魔法でみんな治った。

 人に嫌われるって、悲しいことだな。自分がやったことだけど、謝っても許してもらえないことがあるのだと知った。謝れば何をしても許されるなんてことはない。だから償いって言葉があって、ヒューゴ様はフレイヤの復興に手を貸しているのはまさにそれだ。
 私もマックに償いをすれば、いつか許してもらえるんだろうか?

「ジョシュア様、ありがとうございました」
 深く思考の中に沈み込んでいると、急に声をかけられた。驚いて振り向くと、誰かが私がここにいることを知らせたのか、団長と救護室の人たちが頭を下げていた。

「気にしないで。私にできることをしただけだから。それよりーー」
 私はマックが無茶な行軍をさせられたことで、騎士生命を失うことになりかねない怪我をしたことを抗議した。

「ジョシュア様のお手を煩わせることとなり、申し訳ございませんでした」
「違います。私の手を煩わせるとかはいい、騎士を大事にして下さいと言いたかったのです」
 分かってくれただろうか? 私の説明の仕方が悪いんだろうか。情けない。
 私は誰かのためになることをしたいけれど、何も出来ないのかもしれない。無力だな。

 もう戻ろう。
 そう思って歩みを進めようとしたら、マックが私の足元に平伏していた。なぜそんなことを?

「マック、どうしたのですか? もしかして、まだ痛みがあったり、おかしなところがありますか?」
「ありません。ジョシュア様、ありがとうございました。俺は、あなたに酷いことをしたし、酷い態度で酷いことを言ったのに、あなたは俺を救ってくれた。生涯このご恩は忘れません」
 マックは怪我が痛むわけではないのに、騎士も続けられるのに、まだ涙を溢れさせていた。

「大袈裟ですよ。私は少し治癒魔法を使っただけです。償いはしますので、いつか許していただけると嬉しいです」
「償いなど、それは俺がすることです。ジョシュア様のことを許さないなどあり得ません」
「そうですか。今度こそ仲直りできたと思っていいんでしょうか? マックは寛大ですね」
「寛大なのはジョシュア様です。俺は帝国の騎士ですが、あなた様にも忠誠を誓い、今後も騎士としての努力を惜しまないことをお約束します」
「うん。ありがとう、私に忠誠なんて誓わなくていいんですよ。この国のためにいい騎士でいて下さい。それが私の望みです」

 そう言うと、救護室にいた騎士全員が敬礼をしてくれた。人質の私にそんなことしなくてもいいのに。
 ここにいる必要があるのかどうかも分からないのに、そんなことをされると、優しい人たちに甘えてしまいそうになる。

 みんなが、私に治癒魔法など使わせてヒューゴ様に怒られるかもしれないと言っていたから、内緒ってことにしてもらって部屋に戻った。

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

運命を知っているオメガ

riiko
BL
初めてのヒートで運命の番を知ってしまった正樹。相手は気が付かないどころか、オメガ嫌いで有名なアルファだった。 自分だけが運命の相手を知っている。 オメガ嫌いのアルファに、自分が運命の番だとバレたら大変なことになる!? 幻滅されたくないけど近くにいたい。 運命を悟られないために、斜め上の努力をする鈍感オメガの物語。 オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω 『運命を知っているアルファ』というアルファ側のお話もあります、アルファ側の思考を見たい時はそちらも合わせてお楽しみくださいませ。 どちらかを先に読むことでお話は全てネタバレになりますので、先にお好みの視点(オメガ側orアルファ側)をお選びくださいませ。片方だけでも物語は分かるようになっております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。 コメント欄ネタバレ全解除につき、物語の展開を知りたくない方はご注意くださいませ。 表紙のイラストはデビュー同期の「派遣Ωは社長の抱き枕~エリートαを寝かしつけるお仕事~」著者grottaさんに描いていただきました!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

置き去りにされたら、真実の愛が待っていました

夜乃すてら
BL
 トリーシャ・ラスヘルグは大の魔法使い嫌いである。  というのも、元婚約者の蛮行で、転移門から寒地スノーホワイトへ置き去りにされて死にかけたせいだった。  王城の司書としてひっそり暮らしているトリーシャは、ヴィタリ・ノイマンという青年と知り合いになる。心穏やかな付き合いに、次第に友人として親しくできることを喜び始める。    一方、ヴィタリ・ノイマンは焦っていた。  新任の魔法師団団長として王城に異動し、図書室でトリーシャと出会って、一目ぼれをしたのだ。問題は赴任したてで制服を着ておらず、〈枝〉も持っていなかったせいで、トリーシャがヴィタリを政務官と勘違いしたことだ。  まさかトリーシャが大の魔法使い嫌いだとは知らず、ばれてはならないと偽る覚悟を決める。    そして関係を重ねていたのに、元婚約者が現れて……?  若手の大魔法使い×トラウマ持ちの魔法使い嫌いの恋愛の行方は?

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

処理中です...