【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

cyan

文字の大きさ
上 下
22 / 56

22.却下された提案

しおりを挟む
 
 ヒューゴ様は毎日一緒に寝てくれる。
 後宮に行かなくても仕事が捗るようになると、後宮には五日に一度くらいの頻度で行くようになった。
 騎士団には怖くて行けないが、そこは宰相が代わりに行ってくれている。

「ミール、宰相が好きなお菓子を作ってくれないか?」
「宰相様に渡すんですか?」
「うん。私の代わりに仕事をしてくれているから、お礼がしたい」
「畏まりました」

 他の用事を終えてキッチンを訪ねるとミールは用意して待っていてくれた。

「これでいかがでしょうか?」
「すごく綺麗。宰相は飴が好きなのか?」

 料理人のミールは綺麗な飴細工を作ってくれていた。鳥とか小動物を模った素敵なものだ。

「宰相様はお孫さんを溺愛していますから、本人よりお孫さんが喜ぶものがいいかと」
「確かに。ミールありがとう。また今度、後宮に届ける飴細工もお願いする」
「畏まりました」

 私は箱に入れられた飴細工を持って事務室にいる宰相を尋ねた。
「私の代わりに騎士団に行っていただきありがとうございます。これはほんのお礼の気持ちです」
「ジョシュア様から贈り物など光栄ですね。ありがたくいただきます」

 宰相に飴細工を受け取ってもらうと、私は庭園に出た。

「ポール、一緒にこれを食べよう」

 さっきミールに「飴が余ったので」ともらった、木の棒の先に飴細工がついているものをポールに差し出した。
 花の形だったから、きっとポールが喜んでくれると思ったんだ。

「いいのですか?」
「これは棒の先に飴が付いているから、汚れた手でも食べられる」
「確かに。便利ですね」

 花壇の端に並んで座ると、私たちは飴を食べながら、目の前で満開になっている白い花の話をした。
 初めポールは、隣に座るなど畏れ多いと言って遠慮していたが、私は人質でこの国では身分なんて無いみたいなものだと、何度か説明してからは、隣に座ってくれるようになった。友だちってこんな感じなのかな? 友だちというものがいた経験がないから分からないが、人と仲良くなれるのは嬉しい。

「この花、何本か切ってもらえないか? 部屋に飾りたい」
「いいですよ」

 飴を食べ終わると、ポールは花を切って紐で茎を縛って渡してくれた。
 ヒューゴ様の部屋に飾ろう。香りが苦手ならメイドの休憩室にでも飾ってもらおうかな。
 この花は可愛いし、きっと彼女たちは気に入ってくれると思う。

 ヒューゴ様の部屋に持ち帰ったら、ヒューゴ様が喜んでくれたから、そのままお部屋に飾ることになった。

「そういえば庭師と仲良くしていたな」
「はい。ポールとはたまに話をしたりします」
「そうか」

 ヒューゴ様はなぜかまた少しムッとした。
 何か失敗しただろうか? 実は花が気に入らなかったとか? 分からない……

「ジョシュア、キスしよう」
「はい」

 今日のキスは、ムッとしていたからか、初めは少し荒っぽかった。でもだんだん優しくなっていって、ふわふわした気持ちで終わった。
 そしてギュッと抱きしめられた。ふわふわした気持ちのまま抱きしめられるのはとても幸せだ。出来立てのパンケーキに蜂蜜をかけて、更にフルーツのジャムも追加してくれたような、甘くて温かい幸せ。

「ジョシュア、俺の側にいろ」
「はい。ずっと側にいますよ」

 宰相は一日に何度か確認のために訪れたり、仕事を持ってきたりする。たまに来ない日もあるんだが、きっとどこかに出かけているんだろう。

「ジョシュア様、先日は飴細工をいただきありがとうございました。孫が大変喜んでいました」
「それはよかったです」

 よかった、喜んでくれたんだ。さすがミールだ。
 可愛かったもんな。あの飴細工。
 朗らかな笑顔の宰相と話をしていると、急に後ろからヒューゴ様に抱きしめられて引き離された。

「宰相、ジョシュアからプレゼントをもらったのか?」
「は? ええ、まあそうですね」
「そうか。もう用事が済んだら出て行け」
「はいはい。私はジョシュア様を取ったりしませんからご安心ください」

 謎の言葉を残して宰相は部屋を出ていった。
 確かに私はヒューゴ様のものだ。取るとか取られるとか、そんなことヒューゴ様が気にするわけないのに。


 私は気づいたことがある。匂いだ。
 本当に不思議なんだが、ヒューゴ様に抱きしめられて眠ると、怖い夢を見ないんだ。
 記憶と匂いとは密接に関係しているのだという文献を読んだことがある。
 そのせいだろうか? ヒューゴ様の匂いがあれば、私は怖い夢を見ずに安心して眠れるのかもしれない。

 それなら、ヒューゴ様の着衣を貸してもらえばいいのではないか? わざわざヒューゴ様の睡眠を妨げるようなことをしなくても、その匂いさえあれば大丈夫なのかもしれない。

 私は夜にヒューゴ様のお部屋を訪れると、その話をすることにした。

「ヒューゴ様、私はこれからは一人で寝ようと思います。ヒューゴ様のお召し物を貸していただけませんか? きっとヒューゴ様の匂いが感じられれば、一人でも悪夢を見ずに眠れると思うのです」

 我ながらいいことを思いついたと自信を持って告げたのだが、ヒューゴ様はムッとしたまま黙り込んでいる。

「私に着衣を貸すなど嫌ですか?」
「嫌だな」
「そうですか……」

 断られてしまった。
 私はヒューゴ様に嫌なことを提案してしまったのだと思って自分の浅慮を恥じた。

「ジョシュア、俺と寝るのが嫌なのか?」
「そんなわけありません」
「じゃあ一緒に寝ろ」
「はい」

 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...