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19.思い通りにいかない(ヒューゴ視点)
しおりを挟む寂しくジョシュアを見送ると、湯浴みをして着替える。
いつものように朝食の席に着いたが、ジョシュアが遠い。
クッキーを「美味しい」と嬉しそうに食べていた、ジョシュアのあの顔が見たかったのに、遠くて表情がよく見えない。
このテーブルはなぜこんなに長いのか? なんの意味があるのか?
今までそんなことを疑問に思ったことはなかったのに、このテーブルの長さが気にくわない。
この部屋で食事をとるのはやめよう。もっと小さく短いテーブルで、ジョシュアの顔を眺めながら食事をしようと思った。
食事が終わるとジョシュアと一緒に部屋に向かう。
食事をとるより仕事をする時の方が距離が近い、というのは本当に意味が分からないな。
「ジョシュア、キスしよう」
「はい」
「俺の膝の上に乗れ」
「え? そんなことをしたら不敬罪になりませんか?」
「ならない」
「分かりました。失礼します」
そういうと、靴を脱いで椅子に座る俺の腿に足を乗せようとした。
「ちょっと待て、それは違う」
「ごめんなさい」
これからキスしようというのに、俺の腿の上に立つとかおかしいだろ。
俺はジョシュアを膝の上に乗せて抱きしめたかっただけだ。
「俺の言い方が悪かった。俺の膝の上に座れ」
「はい」
ジョシュアは横向きにちょこんと遠慮がちに座った。
可愛いな、もう。
そのまま横から抱き締めて、上体をこっちに向かせる。
「ジョシュア、お前からキスしてみろ」
「はい」
戸惑うように揺れた青い目が綺麗だ。高価な宝石に窓辺の月明かりを映し、ゆらゆらと揺らめくような美しさがある。俺はジョシュアの美しい目に釘付けになって目を逸らせなくなった。
両手で俺の頬を包むと、俺の唇の位置を確かめるように親指で唇をなぞった。その指の感触だけでドキドキしてしまう俺は、本当にジョシュアに恋をしてしまったんだと思った。
「目、閉じて下さい」
目を閉じると、ジョシュアの唇が触れてすぐに離れていった。
「ジョシュア、足りない」
仕方ないから少し口を開けて待っていてやると、唇が重なってジョシュアの舌が遠慮がちに入ってくる。ジョシュアの舌は優しく俺の口内を撫でて、ヌルリと俺の舌に触れると、そっと絡めてきた。
キスさえ知らなかったジョシュアが、俺が教えたキスを一生懸命にする姿が愛しいと思った。
甘い。相手を労るような優しいキス。蜂蜜を注がれているようで、頭の中が溶けそうだった。
やがて離れていくその唇が寂しくて、でもこのキスの余韻だけでしばらくは過ごせそうだとも思った。
「ジョシュア、よかったよ」
「そうですか。ヒューゴ様を喜ばせられるよう、もっと頑張ります」
「なぁ、ジョシュアは普段俺とキスしたいとか思うのか?」
「思いません」
「は? なんでだよ」
一気に甘いキスの余韻が冷めた。
ジョシュアは俺とキスしたいと思わないのか。ショックだった。俺だけなのか……
「なんでと言われても、ヒューゴ様にそんな思いを持つなど畏れ多いですし」
畏れ多い? なんだよそれ。俺がキスしようと言うから仕方なく応えているのか? 気持ちいいと言ったじゃないか。
悔しい。「キスして下さい」と言われるほど、ジョシュアを翻弄してやりたいと思った。
ジョシュアのうなじに手を回すと、グイッと引き寄せて唇を奪う。でも一方的に自分勝手に動いたりはしない。優しくしてやるよ。俺がこんなことをするのはお前だけだからな。
口内を優しく撫でて、ジョシュアの好きなところを擽るようになぞる。フルフルと震えてしまうジョシュアの腰を抱き寄せて、ヌルヌルと舌を絡めてジュルッと吸う。
「ああ……」
俺とのキスが好きだと言え。俺とキスしたいと、俺に抱いてくれと言え。
溶けそうな頭の中で、ジョシュアへの想いだけが俺の胸を焦がし続けた。
「ジョシュア、俺とのキスは好きか?」
「はい」
「気持ちよかったか?」
「はい」
クッタリと俺にもたれかかるジョシュアに、俺の自己満のような質問を投げ掛けると、ジョシュアは俺が望む答えを出してくる。
でも違うんだ。俺が聞きたいのは肯定の「はい」という返事ではない。
その口から「好き」という言葉が聞きたいんだ。
今はいい。今だけは肯定してくれるだけで満足しておいてやる。
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