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17.キスと欲(ヒューゴ視点)
しおりを挟むジョシュアを抱きしめたまま、しばらく横になっていたが、起き上がると触れるだけのキスをした。
団長を見て震えていたし、キスまでトラウマになっているのではないかと思って確認したんだが、大丈夫そうでホッとした。
小腹も空いたしお茶にでもするか。
ベルを鳴らすとメイドがお茶を運んできた。
ジョシュアとソファーに移り、菓子も持って来させると、一緒にお茶を飲んだんだが、ジョシュアはあのメイドの名前を知っていた。
俺でも知らないのに。
関わるメイドの名前は覚えているらしい。
いつだ? いつメイドたちとそんな話をしているんだ? 俺に隠れてメイドに手を? それは無いな。
いつの間に仲良くなったのかと、少し腹立たしい気持ちになって、ジョシュアに触れるだけでないキスをしたら、舌を滑り込ませた瞬間にビクッとして押し返された。
嫌がられた? 拒否されたのか? この俺が。
「ごめんなさい。あの、びっくりして、キスするのだと思ったから」
「ジョシュアすまん。急ぎすぎた。キスは色んな種類があるんだ。これもキスの一つだ」
そうだった。ジョシュアは知らないだけだ。ビックリしたのは本当なんだろうし、いきなりした俺が悪かった。怖がられるのは嫌だしな。
「そうなんですね。知りませんでした。教えてもらったのでもう大丈夫です。もう一度お願いします」
そう言ってジョシュアは目を閉じて待っている。
急がない。大切にゆっくり育てていけばいい。彼のガラスの心を壊すようなことはしてはいけない。
俺は触れるだけのキスをした。
「え?」
「何だ?」
「いつものじゃないキス、してほしいです」
「ジョシュア、俺は心配だ。そんなこと俺以外に言うなよ?」
危なっかしい奴だ。俺は嬉しいが、他の奴にも同じことをしそうな危うさがある。
しっかり言い含めておかないといけないと思った。
再びキスをして逃げないように頬ではなく、その細いうなじに手を添えた。舌を滑り込ませるが、ジョシュアの舌が無い。口の中を探ってもやはり無い。おかしいな、無いわけないよな?
はぁ、とジョシュアから吐息が漏れた。
舌が見つからないんだから仕方ないと、口内を怖くないようにそっと撫でていると、ジョシュアは俺の胸に手を当てて押し返してきた。
はあ、はあ、と苦しそうに息を乱しながら、もたれかかってきたジョシュアに、息を止めていたのだと分かった。
初めてなら仕方ない。可愛いし、少し上気した顔が俺の欲情を煽ってくる。
「舌は、どうすればよかったんですか? ヒューゴ様の舌を邪魔をしないように引っ込めていたんですが、合ってますか?」
なぜ舌が見つからないのかと思ったら、そういうことだったのか。俺が初めての時はそんなことしただろうか? 記憶にないな。
「可愛いな。舌は俺の舌に絡めてこい」
「分かりました。もう一回お願いします」
もう一回? 次回ではなく今すぐに?
「ジョシュア、とうとう俺とのキスが気に入ったか?」
「違います。ちゃんとできるように練習したいんです」
俺のキスを求めているのか? 可愛いやつめ。
そんな気持ちで浮かれながら聞いたのに、違うとバッサリ切り捨てられてショックを受けた。
何がガラスの心だ。ジョシュアは鋼鉄の心じゃないか。フンッ!
「何だよ。気持ちよくないのか?」
「気持ちいいですよ」
不貞腐れたまま気持ちよくないのかと聞いてみたら、即答で気持ちいいと言う。気持ちいいのかよ。なら俺のキスを気に入れよ。
腹立たしい思いと、嬉しさとが混ざり合って、眉間に皺が寄ってしまうのに口角は上がるという奇妙な筋肉の動き。俺は今気持ち悪い顔をしているような気がする。コホンと一つ咳払いをして顔面の筋肉を落ち着かせた。
「そうか。じゃあするか」
「はい」
唇を重ね、舌を滑り込ませたが、やっぱり舌が見つからない。また引っ込めているのか?
口内を舌でなぞっていると、俺の舌にちょんと僅かにジョシュアの舌が触れた。しかしすぐにまたいなくなる。そしてまたちょんと触れてジョシュアの舌は逃げていく。そんなことを何度もして……
ジョシュア、お前は可愛すぎる。
お前のせいだからな。次に舌が触れるタイミングを見計らって、俺はジョシュアの舌を捕まえてジュルッと吸った。
「あぁ……」
ジョシュアの口から漏れた、色香を纏った吐息と、このキスの甘さに頭がクラクラした。
やっと捕まえたジョシュアの舌に、ヌルヌルと絡めていると、俺の方が翻弄されて夢中になっていることに気付いた。
こんなに甘いキスは初めてかもしれない。
もう息を止めたりはしていないと思うが、ジョシュアは力が抜けたように俺にもたれかかってきた。
名残惜しいが唇を離す。
「ジョシュア、そんなに気持ちよかったのか?」
「はい」
ジョシュアの顔を覗き込むと、フニャリと蕩けた表情をしていて、襲いかかりたくなる気持ちを必死に抑えて抱きしめた。
ジョシュアを落としてやろうと思っていたのに、どうやら俺の方が先に落ちてしまったらしい。
ジョシュアをこのまま組み敷いたりはできない。
そんなことをしたら怖がられてしまうだけだ。
しかしどうにも収まりそうにない欲を持て余した俺は、仕方なく夜になってジョシュアを部屋に返すと娼婦を呼んだ。
キスはジョシュアの感触を忘れたくないからしなかった。
服を脱がせて豊満な胸に手を伸ばすと、女が艶っぽい声を上げた。
「あぁ、陛下、愛してます……」
違う。感触は悪くないんだが違う。女が喘ぐ声がなんとも態とらしく聞こえて、吹けば飛ぶような、俺が一番嫌いなセリフを口にしたことで一気に萎えた。
「陛下、どうされたんですか?」
「いいからもう帰れ。すぐに出ていけ」
俺は仕方なく強い酒を煽って眠りについた。
翌日から、仕事の合間にジョシュアとキスをするようになった。
「ジョシュア、キスしていいか?」
「はい」
ジョシュアを驚かせないようにと、毎回伺いを立ててからキスをしている自分も、本当にどうかしていると思う。
ジョシュアが断ることはないんだが、不意打ちをして怖がられることを恐れる自分がいるんだ。
夜になると、色香を纏うジョシュアに欲情した気持ちを抑えるために、仕方なく自分で処理をした。
なんとも虚しい行為だ……
本当に俺はどうかしている。
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