【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

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16.強さと弱さ(ヒューゴ視点)

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 収支報告書と来季の予算の件で、ジョシュアを騎士団に行かせたんだが、俺はジョシュアを1人で行かせたことを後悔した。

『ヒューゴ様、騎士団は怖いです。助けてください』
 いつも通り執務をこなしていると、ジョシュアの震える声が聞こえた。
 あいつは風魔法を使うから、きっと魔法で飛ばしてきたんだろう。

 騎士団のような野蛮な奴らの集まる場所に、美しく華奢なジョシュアが1人で行けば、何があるかなんて少し考えたら分かることだった。
 俺はすぐに騎士団に向かうと、入り口からそれほど遠くない廊下に人だかりができていた。傍には1人倒れている奴がいる。

 恐らくこの中心はジョシュアだろう。
「退け!」と騎士たちを掻き分けていくと、やはりジョシュアだった。

 蹲るジョシュアがいるんだが、何か膜のようなものに包まれている、これは結界? だよな? 魔道具で結界を張るものはあるが、たぶんこれはジョシュアが自分で作り出した結界魔法だろう。
 ジョシュアが使えるのは風だけじゃないのか?

「ジョシュア!」
 結界があっては俺も近づけない。ジョシュアに呼びかけると、やっと結界を解いた。
 抱き起こして抱きしめると、ジョシュアは小刻みに震えていた。

 何があったのか聞くと、キスをされて怖くて、相手を風で吹き飛ばしたのだとか。
 なるほど。ジョシュアは華奢で力は無いが、結界を含め自分の身は自分で守ることができるということだ。

 倒れた奴を縛り上げ、団長を呼びに行かせると、他の者は訓練に戻した。

 俺のものに手を出した輩など、この国には要らん。先に騎士団にはジョシュアのことを紹介しておくべきだったか。
 襲われそうになって怖かったんだろうと思ったが、「キスは誰とでもしていいのか?」と聞いてきた。

「キスは俺以外とするな」

 そこから説明しなければならないとは思わなかった。この件がなければ、ジョシュアは親しい者とキスをしたかもしれないと思うとゾッとする。

 相手が「誰とでもするものだ」とか、「知り合い同士でもする」と言ったら、それを信じてしてしまいそうだと思った。ジョシュアを1人で出歩かせるのは危険だ。

「ジョシュア、泣いたのか?」
「泣いてしまいました」
「そうか。ちゃんと処分するから安心しろ」
「処分? 私はとうとう殺されるのですか!? フレイヤはどうなりますか!!」

 例の騎士を処分すると言ったら、なぜかジョシュアは自分を処分すると思ったようで、自分が死んだらフレイヤはどうなるかと慌てていた。
 ジョシュアは色々なことを知らないが、それでも王族として、生まれ育った国を守るために、自分の意思で我が国に来たんだ。だからあの「私はヒューゴ様のもの」いう発言か。健気だな。

 自分が来ることで母国を守ることができると、たった一人で国を出たんだ。
 よく考えたら、普通の嫁入りや、外交の訪問だとしても、たった一人で来ることはない。
 王族なら尚更だ。護衛や従者などの近習を伴ってやってくる。

 無理やりキスをされただけで泣いてしまうほど弱く、体も触れたら壊れてしまいそうに華奢だが、しっかり自分の意思を持っているんだな。

 ジョシュアのガラスの心の奥に、弱いだけでない燃える意思を見た気がした。
 それでもどうしようもなくて俺を頼ったんだな。
 他の誰でもなく俺を頼るということろが本当に可愛い。勝ち誇ったような気分になる自分に少し呆れるが、とても気分がいい。

 団長と話していると、ジョシュアがまた震え出したため、俺はすぐにジョシュアを部屋に連れ帰った。
 騎士が苦手になってしまったか?

 ソファーでジョシュアを抱きしめていると、震えが止まったと思ったら眠っていた。
 無防備すぎる……

 美しいとはいえ、俺が男を抱きしめてヨシヨシしているなんて、我ながら気持ち悪いことをしている。しかし、震えるジョシュアのことを守るのは、俺でありたいと思ってしまったんだ。

 まさか俺はジョシュアのことが好きなのか?
 いやいやいや、こいつは男だぞ? 俺は女が好きなはずだ。
 眠ってしまったジョシュアを抱えてベッドに移動すると、そのまま抱きしめて自分もいつの間にか寝てしまっていた。

 目が覚めると、俺の胸に縋って、また俺の匂いをスンスン嗅いでいるジョシュアがいた。またそんな可愛いことをして……

「明日からちゃんと仕事します。今日だけ、このままでいてもらえませんか?」
「いいぞ」
 ジョシュアが仕事以外で、俺に何か要求をしてくるなんて初めてだった。服の一着すら欲しがったことはない。


「陛下、ジョシュア様が持参されたお召し物は無いのですか?」
「無いな。身一つで攫ってきたようなものだからな」
「では購入してもよろしいですか? 着替えがございません」
「好きにすればいい。あいつが欲しいと思うものを買っていい」
「畏まりました」
 そんな会話をジョシュア付きのメイドとしたこともあった。
 王族なんだし高価なものを買うんだろうと、あの美しい男がどんな服を選ぶのかが気になって、買ったものを報告するよう伝えた。

「宝飾品は買わなかったのか?」
「はい。自分には必要ないと言われて。服も、『布切れがあればそれでいい』と言われたので、メイド数人で選ばせていただきました」
「それでいい」

 布切れ? 確かに一枚の長い布を体に巻き付けるように纏ったものが正装とされる国もあるが、フレイヤは我が国と同じような服装だったと思う。到着した日は白い正装だったしな。
『靴もいらない裸足でいい』という発言もあったようだ。
「見窄らしい格好で我が城の中を歩くのは許さんと言っておけ」
「畏まりました」

 今になって思えば、あの発言の数々、ジョシュアがおかしな奴というわけではなく、遠慮だったのかもしれない。
 俺の役に立ちたいという発言も、国のためか。


 初めてジョシュアが出した要求。俺を頼ったり縋ったりすることを考えると、それなりに俺を慕っていることが分かる。
 こいつを甘やかしたら、大切に育てたら、俺のことを愛してくれたりするんだろうか?
 国を守るために俺に尽くすのではなく、俺を愛しているから俺に尽くすと言わせたいと思った。

 
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