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15.違うキス

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 気がつくと、私はどこかのベッドで寝ていた。
 いつの間に寝てしまったんだろう? そして、身動き取れないのはヒューゴ様が私を抱きしめたままでいるからだ。

「ヒューゴ様、ありがとう」
 私はヒューゴ様の胸に縋りついた。柔らかくて温かくてヒューゴ様の匂いがする。

「ん? ジョシュア起きたか? 可愛いな。俺に甘えてるのか?」
「明日からちゃんと仕事します。今日だけ、このままでいてもらえませんか?」
「いいぞ」

 心細くて弱音を吐いてしまったのに、ヒューゴ様はいいと言ってくれた。
 明日からは、今日の遅れを取り戻すためにたくさん働こう。ヒューゴ様と帝国のために。

 お昼くらいになると、ヒューゴ様は私を抱きしめたまま体を起こした。

「一緒にお茶にしよう。喉が渇いただろ? 美味しい菓子も持ってこさせよう」
「いいのですか?」

 ヒューゴ様にお茶に誘われたのは初めてだった。
 迷惑をかけてしまったのに、なんでこんなに優しくしてくれるんだろう?

「ジョシュア、俺のことは怖くないか?」
「ヒューゴ様はとても優しくて温かくて、怖くないです」
「そうか。キスするのは怖いか?」
「怖くないです」

 ヒューゴ様の手が私の頬に触れた。
 私は目を閉じてヒューゴ様のキスを待つ。目を閉じていても、ヒューゴ様の匂いがするから怖くない。唇がフニッと触れて、そして離れていった。
 やっぱり全然違う。ヒューゴ様のキスは優しくて好きだ。

「ジョシュアは可愛いな」
「ヒューゴ様は格好いいです」
「そうか?」
「はい」

 ヒューゴ様がベッドの脇にあるベルを鳴らすと、しばらくしてメイドのマリーがお茶を運んできた。

「菓子も頼む。とびきり美味いやつを」
「畏まりました」

 マリーがお菓子を持ってくると、ヒューゴ様は私を抱えたまま移動して、ソファーに並んで座った。

「あれ? このお茶、カモミールが入っていますか?」
「ん? そうなのか? ジョシュアはよく分かったな。俺は全然分からなかった」
「カモミールはリラックス効果があるんです。マリーが気を遣ってくれたのかも」
「マリー?」
「さっきお茶を持ってきたメイドですよ」
「ジョシュアはメイドの名前を覚えているのか?」
「全員は無理ですが、関わりのある人は覚えています」

 後でマリーにお礼を言っておこう。騎士は怖かったけど、他の人は優しい人ばかりだ。
 優しさに触れて少し元気になった。

「ジョシュア、キスしていいか?」
「はい」

 ヒューゴ様の手が頬に触れたから、私は目を閉じた。
 唇がフニッと触れて、すぐに離れるのかと思ったら、舌が私の唇の間に入ってきて、驚きすぎて私はヒューゴ様を押し返した。

 するとヒューゴ様の表情が悲しそうに歪んだ。

 あ……やってしまった……

「ごめんなさい。あの、びっくりして、キスするのだと思ったから」
「ジョシュアすまん。急ぎすぎた。キスは色んな種類があるんだ。これもキスの一つだ」

「そうなんですね。知りませんでした。教えてもらったのでもう大丈夫です。もう一度お願いします」
 私は目を閉じた。
 ドキドキしながら待っていると、唇にフニッと触れて離れていく、いつものキスをされた。

「え?」
「何だ?」
「いつものじゃないキス、してほしいです」
「ジョシュア、俺は心配だ。そんなこと俺以外に言うなよ?」

 私が頷いて再び目を閉じると、いつも頬に触れているヒューゴ様の手は私のうなじに回された。
 そして唇が触れると、舌が唇の隙間から入ってくる。私はどうすればいいんだろうか? 舌は必死に引っ込めていた。
 ヒューゴ様の舌が私の口の中を優しく撫でて、そのヌルっとした温かさが気持ちよくて、力が抜けていく。

「はあ……」

 でも、だんだん息が苦しくなってきた。
 もう限界です。ごめんなさい。そんな思いで私はヒューゴ様を押し返した。

 はあ、はあ、はあ、はあ……
 苦しくて、でも力も入らなくて、私はヒューゴ様の胸にもたれかかった。

「ん? 息を止めていたのか? そうか、初めてだもんな」
「ごめんなさい。苦しくて」
「息は止めなくていいんだぞ」
「そうなんですか?」

 息止めなくていいんだ。だからヒューゴ様は苦しそうじゃないんだ。そうだったのか。先に教えてほしかった。
 じゃあ舌はどうすればよかったんだろう?

「舌は、どうすればよかったんですか? ヒューゴ様の舌を邪魔をしないように、引っ込めていたんですが、合ってますか?」
「可愛いな。舌は俺の舌に絡めてこい」
「分かりました。もう一回お願いします」

「ジョシュア、とうとう俺とのキスが気に入ったか?」
「違います。ちゃんとできるように練習したいんです」
「何だよ。気持ちよくないのか?」
「気持ちいいですよ」
「そうか。じゃあするか」

 ヒューゴ様はたまに情緒不安定みたいだ。急にムッとしたり、次の瞬間にはニヤッとしたり、私にはヒューゴ様の怒るポイントも、喜ぶポイントも分からない。

 目を閉じて待っていると、またヒューゴ様の手は私のうなじに触れて、唇が触れると舌が入ってきた。絡める? それはどうやるんだろう?
 ヒューゴ様の舌にちょんと触れて、ヌルッとして、これでいいのか分からずに慌てて引っ込めた。
 それでまた恐る恐るちょんと触れて、とそんなことを何度か繰り返すと、私の舌は捕まってジュルッと吸われた。

「あぁ……」

 変な声が出て恥ずかしくなったけど、ヒューゴ様は私のうなじを掴んで、離れることを許してくれなかった。
 気持ちいい。力が抜けて頭が痺れたみたいに思考が回らなくなる。背中もゾクゾクして、体がおかしくなったみたいだ。

 ヒューゴ様のシャツを掴んでしがみついていたけど、もう無理かもしれないと思ってヒューゴ様にもたれかかった。

「ジョシュア、そんなに気持ちよかったのか?」
「はい」

 私はこんなにふわふわして力が入らないのに、ヒューゴ様は全然平気みたい。体力の差なんだろうか?

 やはり私ももっと鍛えた方がいいのかもしれない。騎士団に行くのは怖いから無理だけど、もっとたくさん城の中を歩こうと思う。塔の上に毎日登るみたいに、階段をたくさん登ればいいのかもしれない。

 
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