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13.暴力みたい
しおりを挟むヒューゴ様にキスは唇を重ねることなのだと教えてもらった。そして抱きしめてくれた。
ヒューゴ様の筋肉質な体に包まれると、守られている感じがして、とても格好いいと思って感動した。
その後、一緒に食事をとると言ってくれた。
1人で食事をとるのは寂しかったんだ。だから嬉しい。人質の私と一緒に食事をとってくれるなんて、ヒューゴ様はいい人なんだな。
でも、私が女神なんて呼ばれていたから、私を女性だと思ったらしい。男の私が側にいていいんだろうか? 役に立っているうちは、きっと側においてくださる。頑張ろう。
その後、ヒューゴ様とは一緒に食事をとることになって、しかし残念ながら席が遠すぎて話すことはできなかった。
大きな声で「おーい」と呼ばなければ声が届かないほどの遠くの席で食事をしたんだ。
なぜ2人きりなのに、こんなに長いテーブルの端と端で食事をしたのかが分からない。執務机のような大きさのテーブルであれば、もっと話をできたかもしれないのに。
確かに一緒のテーブルではあったが、こんなに遠い席で食事をしたのは、私が他国の人間だからだろうか? まだ警戒されているのか? 私はヒューゴ様に害意など持っていないのに。
とても残念な気持ちになりながら部屋に帰って、今日のことを思い返した。
ヒューゴ様は今日初めて、私のことを「お前」ではなく「ジョシュア」と名前で呼んでくれた。
食事の席は遠かったけれど、少しだけヒューゴ様に近づけた気がして嬉しくなって、私は嬉しさを抱きしめながら眠りについた。
次の日の朝も、とても遠い席で一緒に食事をした。これなら1人で食べるのとあまり変わらない。残念だ。
その後、私はヒューゴ様の部屋で書類整理を済ませると、騎士団に向かった。
騎士団の人に会うのは、国境から馬車で城まで送ってもらった日以来だから、かなり久しぶりだ。
訓練場がいくつもあるらしい。騎士団長の部屋に向かって、まずは騎士団長に挨拶をして、そこで会計の人にも会うことになっている。
騎士団の建物は城の敷地内にあるんだが、城の建物を出て、外を歩いて馬がいる厩舎を越えて更に歩いていく。
厩舎の馬番のルイに挨拶をして馬にも挨拶をする。
「ルイ、おはよう」
「ジョシュア様、おはようございます。今日はどちらへ?」
「今日は騎士団に用事があるんだ」
「お一人ですか?」
「そうですよ」
「お気を付けて」
「うん。ありがとう。またね」
軽く会話を交わすと、私は騎士団の建物へ向かった。
厩舎より向こうに行くのは初めてだな。
騎士団長の部屋はどこだろうか? その辺の人に聞けばいいかな?
私は最初に見つけた人に聞くことにした。
国を守る仕事をしているだけあって、ヒューゴ様のように筋肉がたくさんついていて、背も高いし強そうな見た目の人だった。
「おはようございます。騎士団長の部屋はどちらですか?」
「ん? なんだお前、華奢だし綺麗だが男だよな?」
「はい。私は男ですよ」
「騎士団長の部屋だったか?」
「はい。教えていただけますか?」
「騎士団長への用事は急ぎか?」
「うーん、そんなに急ぎでもないんですが、まだ仕事が残っているので早い方がいいですね」
急ぎか聞くなんて、もしかして騎士団長は急ぎの用事が入っていて不在なのか?
それともただ聞いただけなのか?
「少しぐらいいいだろ?」
「何がですか?」
そう言った瞬間に私は男に壁に押し付けられた。
なぜか私は彼を怒らせてしまったらしい。
「あの、すみません。何か私に不手際が?」
「お前、俺のものになれよ」
「え? 無理です。ごめんなさい」
「キスくらいいいだろ?」
「え? キス? どうでしょう? えっと、んん……」
私が言い淀んでいると、男に壁に押さえつけられたまま、キスをされた。
ヒューゴ様がしてくれるキスとは全然違って、押さえつけられた腕も痛いし、怖すぎて風魔法で彼を吹き飛ばして逃げた。
これもキスなの? 暴力みたいだと思った。怖くて少し涙が出ていて、まだ騎士団長に会ってもいないのに帰りたくなった。
あんな怖い人ばかりがいるのかと思ったら、足が震えて前に進めなくて、周りに結界を張って蹲ったら立てなくなった。どうしようか迷った挙句、私はヒューゴ様を呼ぶことにした。
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