上 下
13 / 56

13.暴力みたい

しおりを挟む
 
 ヒューゴ様にキスは唇を重ねることなのだと教えてもらった。そして抱きしめてくれた。
 ヒューゴ様の筋肉質な体に包まれると、守られている感じがして、とても格好いいと思って感動した。

 その後、一緒に食事をとると言ってくれた。
 1人で食事をとるのは寂しかったんだ。だから嬉しい。人質の私と一緒に食事をとってくれるなんて、ヒューゴ様はいい人なんだな。

 でも、私が女神なんて呼ばれていたから、私を女性だと思ったらしい。男の私が側にいていいんだろうか? 役に立っているうちは、きっと側においてくださる。頑張ろう。

 その後、ヒューゴ様とは一緒に食事をとることになって、しかし残念ながら席が遠すぎて話すことはできなかった。
 大きな声で「おーい」と呼ばなければ声が届かないほどの遠くの席で食事をしたんだ。
 なぜ2人きりなのに、こんなに長いテーブルの端と端で食事をしたのかが分からない。執務机のような大きさのテーブルであれば、もっと話をできたかもしれないのに。
 確かに一緒のテーブルではあったが、こんなに遠い席で食事をしたのは、私が他国の人間だからだろうか? まだ警戒されているのか? 私はヒューゴ様に害意など持っていないのに。

 とても残念な気持ちになりながら部屋に帰って、今日のことを思い返した。
 ヒューゴ様は今日初めて、私のことを「お前」ではなく「ジョシュア」と名前で呼んでくれた。
 食事の席は遠かったけれど、少しだけヒューゴ様に近づけた気がして嬉しくなって、私は嬉しさを抱きしめながら眠りについた。

 次の日の朝も、とても遠い席で一緒に食事をした。これなら1人で食べるのとあまり変わらない。残念だ。

 その後、私はヒューゴ様の部屋で書類整理を済ませると、騎士団に向かった。
 騎士団の人に会うのは、国境から馬車で城まで送ってもらった日以来だから、かなり久しぶりだ。
 訓練場がいくつもあるらしい。騎士団長の部屋に向かって、まずは騎士団長に挨拶をして、そこで会計の人にも会うことになっている。

 騎士団の建物は城の敷地内にあるんだが、城の建物を出て、外を歩いて馬がいる厩舎を越えて更に歩いていく。
 厩舎の馬番のルイに挨拶をして馬にも挨拶をする。

「ルイ、おはよう」
「ジョシュア様、おはようございます。今日はどちらへ?」
「今日は騎士団に用事があるんだ」
「お一人ですか?」
「そうですよ」
「お気を付けて」
「うん。ありがとう。またね」

 軽く会話を交わすと、私は騎士団の建物へ向かった。
 厩舎より向こうに行くのは初めてだな。
 騎士団長の部屋はどこだろうか? その辺の人に聞けばいいかな?

 私は最初に見つけた人に聞くことにした。
 国を守る仕事をしているだけあって、ヒューゴ様のように筋肉がたくさんついていて、背も高いし強そうな見た目の人だった。

「おはようございます。騎士団長の部屋はどちらですか?」
「ん? なんだお前、華奢だし綺麗だが男だよな?」
「はい。私は男ですよ」
「騎士団長の部屋だったか?」
「はい。教えていただけますか?」
「騎士団長への用事は急ぎか?」
「うーん、そんなに急ぎでもないんですが、まだ仕事が残っているので早い方がいいですね」

 急ぎか聞くなんて、もしかして騎士団長は急ぎの用事が入っていて不在なのか?
 それともただ聞いただけなのか?

「少しぐらいいいだろ?」
「何がですか?」

 そう言った瞬間に私は男に壁に押し付けられた。
 なぜか私は彼を怒らせてしまったらしい。

「あの、すみません。何か私に不手際が?」
「お前、俺のものになれよ」
「え? 無理です。ごめんなさい」
「キスくらいいいだろ?」
「え? キス? どうでしょう? えっと、んん……」

 私が言い淀んでいると、男に壁に押さえつけられたまま、キスをされた。
 ヒューゴ様がしてくれるキスとは全然違って、押さえつけられた腕も痛いし、怖すぎて風魔法で彼を吹き飛ばして逃げた。
 これもキスなの? 暴力みたいだと思った。怖くて少し涙が出ていて、まだ騎士団長に会ってもいないのに帰りたくなった。

 あんな怖い人ばかりがいるのかと思ったら、足が震えて前に進めなくて、周りに結界を張って蹲ったら立てなくなった。どうしようか迷った挙句、私はヒューゴ様を呼ぶことにした。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

【完結】うちの子は可愛い弱虫

cyan
BL
エリオットは公爵家に産まれ魔法騎士団では副団長を務めているが、幼い頃のトラウマにより自分に自信が持てず弱気な性格の持ち主だった。 そして、自分はダメな人間だと膝を抱える日々を送っている。 そんなエリオットの将来を心配した母が見つけてきたのは、ノアという魔法薬を研究する友人候補だった。 友人として親睦を深める2人がほのぼのと愛を育む。 R-18の内容が含まれる話のタイトルには※をつけています。 表紙はAIで作成しています。

【魔導具師マリオンの誤解】 ~陰謀で幼馴染みの王子に追放されたけど美味しいごはんともふもふに夢中なので必死で探されても知らんぷりします

真義あさひ
BL
だいたいタイトル通りの前世からの因縁カプもの、剣聖王子×可憐な錬金魔導具師の幼馴染みライトBL。 攻の王子はとりあえず頑張れと応援してやってください……w ◇◇◇ 「マリオン・ブルー。貴様のような能無しはこの誉れある研究学園には必要ない! 本日をもって退学処分を言い渡す!」 マリオンはいくつもコンクールで受賞している優秀な魔導具師だ。業績を見込まれて幼馴染みの他国の王子に研究学園の講師として招かれたのだが……なぜか生徒に間違われ、自分を呼び寄せたはずの王子からは嫌がらせのオンパレード。 ついに退学の追放処分まで言い渡されて意味がわからない。 (だから僕は学生じゃないよ、講師! 追放するなら退学じゃなくて解雇でしょ!?) マリオンにとって王子は初恋の人だ。幼い頃みたく仲良くしたいのに王子はマリオンの話を聞いてくれない。 王子から大切なものを踏みつけられ、傷つけられて折れた心を抱え泣きながら逃げ出すことになる。 だがそれはすべて誤解だった。王子は偽物で、本物は事情があって学園には通っていなかったのだ。 事態を知った王子は必死でマリオンを探し始めたが、マリオンは戻るつもりはなかった。 もふもふドラゴンの友達と一緒だし、潜伏先では綺麗なお姉さんたちに匿われて毎日ごはんもおいしい。 だがマリオンは知らない。 「これぐらいで諦められるなら、俺は転生してまで追いかけてないんだよ!」 王子と自分は前世からずーっと同じような追いかけっこを繰り返していたのだ。

処理中です...