【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

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11.仕事

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 ヒューゴ様に思い切って仕事がしたいと言ったら、仕事を手伝わせてくれることになった。
 私がフレイヤでしていた収支報告をまとめる仕事をくれて、褒めてくれた。
 よかった。ヒューゴ様の、帝国の役に立てている。
 私が役に立てている間は、フレイヤは安全だろう。

 父上、フレイヤは平和を取り戻しましたか? 父上は反対しましたが、私は帝国に来たことを後悔していませんよ。離れていても国を守る使命を忘れていません。私は上手くやれています。たぶん。
 ヒューゴ様は意外と優しいんですよ。
 奴隷のように働かされたり、暴力を振るわれたりすることもありません。
 私は役に立てていることが嬉しいのです。

 仕事を手伝うようになると、ヒューゴ様の側にずっと張り付いている必要はなくなった。
 だからたまにポールが任されている庭園の手入れを手伝うこともある。
 書類の管理室に行ったり、経理の部屋に行ったり、この前はキッチンでミールに動物を肉にするのを見せてもらった。

 豚だと聞いたが、こんなに大きな動物がいて、それを切ったりしているのが凄かった。言葉にできないくらいグロテスクで、目を逸らしたくなるような怖さもあったけれど、私は色々なことを知りたい。今後役に立つかは分からないけど、ここでは小さな館に閉じ込められることもないし、知る機会があるのなら、どのようなことでも知りたいと思った。

「ジョシュア様、解体など見ても楽しくはないでしょう。匂いも酷いですし」
「そんなことないよ。私は知らなかったんだ。動物がこんなに大きくて、料理に使う肉がこんなに大変な苦労の上にできていたなんて」
「そんなことはジョシュア様が知らなくても、問題ないのではないですか?」
「そうかもしれない。でも、私は知っておきたい。ミール、いつも美味しい料理をありがとう」
「勿体無いお言葉、ありがとうございます」

 動物を肉にしていくことを、解体とか、捌くとか言うらしい。そんなことも知らないのか? と言われそうだが、私は知らなかった。
 肉にかけていた粉のようなものが塩だというのも、先日知ったばかりだ。
 塩というのは粉なのだと知って、そこに乾燥させたハーブという植物を混ぜたりすると、味が変化して面白い。

 メイドのリサとは一番早く仲良くなったと思う。いつも私の世話をしてくれて、服も彼女が用意してくれる。
 初めの頃は私がお願いして、一緒にテーブルでお茶をしていたが、ヒューゴ様の側にいるようになってからは、お茶をする時間は無くなってしまった。

 それでも、私がメイドの休憩所を訪れる時には、他のメイドも含めて肌のケアの話や髪のケアの話などをしている。
 たまにキッチンでもらったお菓子をお裾分けしたり、メイドたちが街で買ったお菓子を、私がいただくこともある。
 街で流行っているものなども教えてくれるし、楽しくて時間を忘れて、お喋りに夢中になってしまうこともある。

 街か。賑やかで楽しそうだったな。フレイヤの館からは出たが、帝国に来ても、街は馬車で通っただけだ。城の外へは出たことがない。
 関わる人は増えたし、前と違って街の話はメイドだったり庭師だったり、仕立て屋だったり、行商人だったり、直接色んなところから入ってくる。塔に登って風魔法で拾わなくても、好きな話を仕入れてくれるし、凄く楽しい。
 いつか行ってみたいな。

 私は人質だし、ヒューゴ様にそんなことを言ったら、怒られるだろうから言えないけど、もし許されるなら、一度くらいは行ってみたいな。


 馬を見にいくこともある。私が乗った馬車を引いてくれた馬にも会いに行った。

「前に私を乗せた馬車を引いてくれてありがとう」
「ジョシュア様はどの馬が、馬車を引いていたのかを覚えているのですか?」
「覚えているよ。前髪って言うのかな? ここの毛が少しカールしていて可愛い子と、前足の付け根が灰色の子」
「それは鬣ですね。前髪といっても通じますが」
「そうなのか。教えてくれてありがとう」
「いいえ」

 馬の毛には部位によって名前があるのか。知らなかった。
 たくさんいる馬の様子を見ていると、足を庇うように、おかしな動きをする馬がいた。

「あれ? この子、足どうしたの? 怪我?」
「ああ、硬い棘か尖った石を踏んでしまったようで、膿んでます。なかなか治らなくて」
「そうなの? 痛そうだね。可哀想に。私が治癒をかけてもいい?」
「え? ジョシュア様は治癒魔法を使えるのですか?」
「うん。使えるよ」
「使ってもらえるならありがたいですが、ジョシュア様にそのようなことをさせていいのか……」
「じゃあ内緒で使うね。私は普段そんなに魔法を使わないから少しくらい使っても、どうってことはない」

 私が治癒をかけて怒るとすれば、ヒューゴ様だろうか? 馬が可哀想だし、このままにしておいて万が一足がダメになってしまったらと思うと怖い。
 私が救えるのなら、魔法を出し惜しみしてどうするんだ、という気持ちもある。
 もし見つかって怒られたら謝ろう。
 きっとヒューゴ様は分かってくれると思う。

 城の敷地内では馬だけでなく、鶏も飼われていた。
「鶏には乗れませんよね?」と言ったら笑われた。
 鶏は卵を食べたり、肉を食べたりするらしい。
 食べるために飼っているなんて少し怖いと思ったけど、私だって鶏肉の料理を食べているのだから、そんなことは言えない。

 私は人質なのに、こんなに自由に城の中を歩き回って、楽しい日々を過ごしていていいんだろうか?

 いつでも遊んでいるわけではない。キッチンに行くのも、厩舎に行くのも、収支の話をしに行くんだから、みんなと話をするのも仕事なんだ。でも楽しいんだ。毎日がとても楽しい。

 
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