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10.彼の能力(ヒューゴ視点)
しおりを挟むジッと俺を見ていた彼が視線を外したかと思うと、「枯葉を拾うために外に出たい」と言った。意味が分からない。ダメだと言ったら、窓を少し開けたいと。
暑くて外の風に当たりたいのを、枯葉を拾うと表現したのかもしれないと思い、俺は許可を出した。
すると彼は、庭で枯葉を掃除していた庭師に向かって話しかけ、風魔法で一気に枯葉を一箇所に集めてみせた。
こいつ、風魔法が使えるのか。
意外だと思いジッと見つめていると、彼はしばらくして口を開いた。
「ダメでしたか?」
「お前、風魔法が使えるのか?」
「はい。使えます」
「そうか。これがフレイヤが隠しておいた理由か」
「え?」
さっきも隠すことなく使っていたが、こいつは堂々と風魔法が使えると言った。
風魔法は太古に潰えた魔法だと言われている。現代で残っているのは火、土、治癒、稀に水を使える者がいる程度だ。
「それであの庭師とはどういう関係だ?」
「関係? たまに話したり、仕事を手伝わせてもらう関係です」
「そうか」
なぜ庭師との関係など質問してしまったのか分からなかったが、俺のものに手を出す奴は許さないという独占欲だろう。
たまに話すのは分かるが、仕事を手伝う? さっきのように枯葉を集めることなんだろうが、何だか気に入らないとムカムカする気持ちが湧き上がってくる。
先日まで俺はこいつを遠ざけていた。きっとその間に知り合ったんだろうが、俺の知らないところで勝手なことをされたのが気に食わなかっただけだ。ムカムカする気持ちに理由をつけて、無理やり自分を納得させた。
それからもずっと彼を側に置いて仕事をしていたが、ジッと座っているだけの彼のことが可哀想になってきた。
「暇だろ? 本でも読むか?」
「ヒューゴ様の仕事を手伝うのはダメでしょうか? 私はヒューゴ様のものですし、フレイヤとのやりとりはしていませんから情報を渡すことはありません」
仕事? 手伝ってくれるならありがたいが、仕事なんかしたいのか? 俺なら仕事なんかしなくていいのなら、したくないが。
「お前は仕事がしたいのか?」
「したいです。ヒューゴ様やこの国の役に立ちたいです」
「そうか。じゃあ手伝え」
「はい。ありがとうございます」
俺は簡単な書類整理を彼に頼んだ。
いつもバラバラにドサッと積み上げられて、時系列や分類、優先度も適当になっているから、それを整理するだけで時間を取られるんだ。
すると彼は、ソファーの側のローテーブルに書類をまとめて置いた。風魔法で浮かせて内容を確認すると、ヒラッ、ヒラッと手は使わずに書類を分けていき、すぐに仕事を終えてしまった。
「早いな」
「フレイヤでも同じようなことをやったことがあります」
「そうか。計算は得意か?」
「はい。収支報告をまとめる仕事をしていたので得意です」
「ではお願いしよう」
収支報告書の束を渡すと、また彼は風を操って書類を浮かべながら読んで、そして驚くほどの速さでまとめていった。
それどころか計算ミスや、細かい数値の齟齬などを全て洗い出した。
有能だったのか。女神という外見の噂だけで手に入れたが、風魔法が使える上に執務でも有能だとすると、夜の相手としてではなく右腕として側に置くのも悪くない。
これは戦争まで仕掛けて手に入れた価値がある者かもしれないと思った。
「今日の仕事はここまでだ。もう部屋に帰れ」
「はい」
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