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7.ヒューゴ様の怒り
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「ジョシュア様がいらしています」
「はぁ~、入れ」
一月もそんなことを続けていると、ようやくヒューゴ様はため息を吐きながらだったが、私を部屋に入れてくれた。
「ヒューゴ様、お部屋に入れていただきありがとうございます。
それと、初めてお会いしたあの日、申し訳ありませんでした。謁見室のでのマナーが分からず、あなたを不快にさせてしまいました」
「は? マナー?」
「え? 私のマナーがなっていないことにお怒りになったのでは?」
「お前が男だからだ」
私が男だから? どういうことだ?
「あー、俺は美女を求めていた。フレイヤには女神と言われる姫がいると聞いて、俺の妃にと思ったんだが、男が来た」
「申し訳ありません」
そうだったのか。マナー以前の問題だった。
しかし私には性別を変えることなどできないし、どうすればいいんだろう?
「しかしお前、美しいな」
「そうでしょうか? ヒューゴ様の方が逞しくて美しいと思います」
「まあいい。せっかく美しいお前を攫ったんだ。俺の側にいろ」
「はい」
私は男だが側にいていいのか?
分からないが、側にいろと言われたのだから、人質である私はそれに従うしかない。
私はずっとヒューゴ様の側にいることにした。
ヒューゴ様が執務をされる時に斜め後ろに立っていたら、ヒューゴ様は私のために椅子を用意してくれた。
「目の保養くらいにはなるか。お前はその辺の女より美しいな」
「そんな、とんでもないです。ヒューゴ様に比べたら私など大したことありませんから」
ヒューゴ様は私のことを事あるごとに美しいと言う。嬉しいけど、そんなに何回も言われると照れる。
ジッと見つめられると、その綺麗な黒曜石のような瞳に吸い込まれそうになって、少し緊張する。
「お前は汚れを知らないような空気を纏っているが、女を抱いたことはあるのか?」
「無いですよ」
「そうか。じゃあ男を抱いたことは?」
「無いですよ」
「男に抱かれたことは?」
「無いですよ。あ、いえ、あります」
フレイヤの城から出て国境にたどり着くまで、私は抱えられて移動したんだった。
「へぇ、意外だな。離宮に閉じ込められていたと聞いたが相手は誰だ?」
「名前は教えてもらえませんでした。私を迎えにきてくれた帝国の人です」
「は? あいつら、俺のものに勝手に手をつけやがって、許さん!」
机をバンッと叩いて怒りを露わにするヒューゴ様に、私は何かを間違えたのかと焦った。
「あの、私の足が遅いから、彼らも仕方なくだと思います」
「足が遅い? そんなもん関係ねぇ! お前はここにいろ、俺は出てくる」
ヒューゴ様は行ってしまった。
取り残された私はどうしていいのか分からず、なぜヒューゴ様がお怒りになったのかも分からず立ち尽くしていた。
そしてしばらく立ち尽くしていると、ヒューゴ様は私を国境まで送ってくれた四人を引き摺って戻ってきた。
「あ、みなさんお久しぶりです。みなさんのこと見かけないから、どこにいるのかと思っていましたが、お城にいたんですね」
「ジョシュア様……我らはあなたを抱いてなどいませんよね?」
「え? 抱き抱えて走ってくれましたよ。忘れてしまったんですか?」
「ほら、陛下。抱く違いですって。俺らはジョシュア様に手なんて出してませんから」
「紛らわしい! もういい。出ていけ!」
やっぱりヒューゴ様は怒っていて、連れてきた四人を部屋から追い出した。
「ヒューゴ様、私は何かいけないことをしてしまったのでしょうか? 申し訳ありません」
「いや、俺の聞き方がいけなかったのかもしれん。俺は男と寝たのかと聞きたかったんだ」
「彼らの隣で寝ましたよ。外で寝たのは初めてでした。部屋の中のベッドでしか寝てはいけないのだと思っていたのですが、外で寝てもいいんですね。彼らはお肉も焼いてくれたんです」
「なるほど。お前は知らんのだな。閉じ込められていたから遊びを知らんということか。可哀想に思えてきた」
可哀想。この前、宰相にも言われたな。私は可哀想なのか?
「お前の美しい顔を見ていると、男だがキスくらいならできそうな気がしてきた」
「キス?」
「こっちに来い」
「はい」
ヒューゴ様のそばまで行くと、ヒューゴ様の手が私の頬に触れた。
大きな手で、硬くて、でも温かい手だった。
「目を閉じろ」
「はい」
目を閉じると、唇にフニッと何かが触れた。
いつまで目を閉じていればいいんだろうか?
「もういいぞ」
「はい」
目を開けると、頬に触れていたヒューゴ様の手は離れて、彼は執務机に向かって歩いて行った。
何だったんだろう?
「どうだった?」
「ヒューゴ様の手が大きくて温かくて、唇に何か当たりました」
「そうか。やはり初めてか。意外と悪くなかった」
悪くなかった? 何の話だ? 頬か? 私の頬の感触が気に入ったんだろうか?
「いつまで立っているつもりだ? そこに座っていろ」
「はい」
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