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6.庭師の友達
しおりを挟む何かいけないことをしてしまったんだろうか? 怒りをあらわにした皇帝の姿に、背中を冷たい汗が伝っていくのが分かった。他国のマナーは分からない。謁見室のマナー自体分からない。それで皇帝を怒らせてしまったんだと思った。
私が失敗すれば、フレイヤが危険に晒されることになる。私はしっかり私の役目を果たさなければならない。
謁見室まで付き添ってくれた騎士の人たちは、謁見室を出ると騎士団というところに戻っていった。メイドに客間という部屋に案内されたが、私は部屋に閉じこもっていることなどできなかった。
私につけられたであろうメイドに、ヒューゴ様のお部屋に行きたいと言ったが、「お部屋でお寛ぎください」と言われて、なかなか案内してくれなかった。
案内されたお部屋はとても綺麗で、木目が綺麗な家具が置かれ、ベッドは大きいし、柔らかそうな布団が敷かれている。テーブルも椅子も彫刻が入っていてとても素敵だったし、メイドが淹れてくれた紅茶はとても香りがいいものだったけど、私はそんなことよりも、一刻も早くヒューゴ様に会って謝りたかった。
フレイヤのことを考えると、ヒューゴ様を怒らせたまま部屋で寛ぐなんて、できるはずがない。焦る気持ちだけが募っていった。
何度も何度もお願いして、やっとヒューゴ様のお部屋に連れていってもらえることになったのは、夕飯が終わった後だった。
コンコン
「ジョシュア様がいらしています」
「は? 部屋に帰らせろ」
その日、ヒューゴ様は私に会ってくれなかった。謝ることさえできないのか……これでは何のために私が帝国に来たのか分からない。
私は毎日、ヒューゴ様のお部屋を訪ねた。
しかし会ってはくれない。
何か役に立つことをしなければ、またフレイヤは攻撃されてしまうのでは? と思うととても怖かった。
ヒューゴ様が無理なら、何か他の人を手伝うとか。私は宰相に会いに行った。
「何かお手伝いをさせてもらえませんか?」
「ジョシュア様、可哀想に。他国に連れてこられて戸惑うことも多いでしょう。陛下があの調子では余計に。お部屋で好きなことをして過ごしていただいて構いませんよ」
「そうですか」
他国から来た私に、仕事をさせたくなどないんだろう。でもこのままではいけない。
私は人質なんだから、私の行動一つでフレイヤが危機にさらされてしまう。
メイドのリサに、帝国の歴史や帝国のことが分かる本をいくつか持ってきてもらい、勉強を始めた。
一息ついて窓から庭園を眺めていると、庭師が一生懸命に、箒で枯葉を集めているのが見えた。あんなのは風魔法でサッと集めたらいいのに。あの庭師の男は風魔法が使えないんだろう。
「庭師さん、手伝ってもいいですか?」
「構わないけど、いいのか?」
「風魔法で一気に集めましょう」
周りの木や草を傷つけないよう弱い風を起こして、一気に枯葉を集めた。
「凄いな。そんなことができるのか。ありがとう助かったよ」
「この布袋に入れればいいの?」
「それは俺が自分でやるさ」
「暇だから私も手伝う」
庭師はポールという名前で、部屋に飾る白い花を何本か切ってくれた。
それから一日に一度はポールの元を訪れて、庭の手入れを手伝ったり、少し話をした。
宰相には何度か、仕事をしたいと話をしに行ったし、ヒューゴ様の部屋も毎日訪ねた。
良い返事はもらえないが、それでもいつかはと期待を込めて続けた。
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