【完結】女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

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4.攫われた女神

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 帝国からお使いの人が来た翌日、私は手紙を書いた。初めは、帝国に行くことだけを書いたんだが、今まで世話になったみんなとお別れなのだと思ったら、感謝を伝えたくなった。
 そして一人一人に宛てた感謝の手紙を書いた。私が今まで不自由なく快適に暮らしてこられたのは、みんなのおかげだ。
 1人では何もできなかったし、いつもみんなが寄り添ってくれたから、父上や母上が側にいなくても寂しくなかった。

 ーーさようなら、みんな。そしてありがとう。

 手紙を机の上に置くと、私は新月の日まで、いつもと変わらない日々を過ごした。

 ピピ、サヨナラ
「シィー、それは言ってはいけないよ。ペル、ありがとう。お別れだよ」

 新月の日、これがこの館で過ごす最後の日になるのかと思うと、いつもよりルイスが手入れしてくれている庭の花は綺麗に見えたし、ノースが作ってくれた料理も美味しかった。メリーが淹れてくれた紅茶も、いつもより香り豊かで美味しくて、少しだけ泣きそうになった。
 少し寂しくて、残ったクッキーをハンカチに包んで、部屋に持ち帰った。

 夜に部屋に戻ると、私は白いシャツを着て、白いパンツと、同じ生地のジャケットを着た。タイは銀色のものをポケットに忍ばせ、夜中は冷えるかもしれないと、上から深緑の外套を羽織った。ポケットには名残惜しい気持ちを纏ったクッキーが入っている。
 私がこの館から出ることはないから正装なんて必要ないんだが、仕立て屋のフェデリコが「一着くらいはあってもいいでしょう」と、昨年仕立ててくれたんだ。仕立てはしたものの今まで一度も着る機会はなかった。ようやく出番がきた。フェデリコ、仕立てておいてよかったよ。

 迎えはいつ来るんだろう? やはり夜中に来るんだろうか?
 そんなことを考えながら、ベッドに座っていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。

「ジョシュア様、ジョシュア様」

 誰かに呼ばれる声がして意識が浮上する。私はいつの間にか寝ていたのか。
 小さな蝋燭の薄明かりの中で、声の主を探すと、先日の男がいた。

「ジョシュア様、窓から出て一気に城壁を越えますので、声を出さないでくださいね」
「分かった」

 私は彼とベランダに出ると、抱えられて空を飛んだ。凄い。音もなく城の屋根をタタタッと駆け、簡単に高い城壁を越えていった。
 そして仲間であろう3人の男と合流して、黒く夜に溶け込みそうな色のローブを着せられ、また抱えられて移動した。

 途中で私を抱える人が交代して、森の中を走り続けている。私は走らなくてもいいんだろうか? しかし、私は彼らのように速くは走れない。大人しく抱えられていた方がいいんだろう。
 落ちないようにギュッとしがみついていると、夜が明ける頃に一度休憩を挟むことになった。

「ジョシュア様、大丈夫ですか?」
「私は抱えられているだけだから大丈夫だ。それよりみんなはずっと走りっぱなしだったのに大丈夫なのか? 少し寝たらどうだ? 私が結界を展開しておこう」

 私がそう提案すると、彼らはみんなで顔を見合わせた。何だろう? おかしなことを言ってしまったんだろうか?

「1人見張りを残して休ませてもらいます」
「うん。それがいいよ。私はみんなのように速く走ったりはできないけど、見張りくらいはできる。任せて」

 私は結界を展開すると、みんなに休むように言った。でも、初めて会う私に命を預けるなんてできないから、1人は起きていた。
 それは仕方ないことだ。いつか彼らに信頼してもらえるように頑張るしかない。

「ジョシュア様もお休みになっていいんですよ」
「うん。そうなんだけどね、私はあの館から出たのが初めてで、森に来たのも初めてで、館にいる人以外と話すのも初めてだから、なんだか興奮して目が冴えてる。眠れそうにないんだ」
「そうですか。眠くなったら寝ていいですからね」
「うん。ありがとう」

 日が高くなってくると、見張りのために起きている者が交代した。そうか、こうして交代で寝るんだな。でもきっと大変だ。
 森で寝るなんて、面白いな。外で寝てもいいなんて知らなかった。サロンのソファでうとうとするだけで「こんなところでお休みになってはいけません」とベッドへ行くように言われていたから、ベッド以外では寝てはいけないのだと思っていた。

 お昼になってみんなが起きると、私はポケットからハンカチで包んだクッキーを出した。ちょうど5枚あってよかった。

「こんな物しかないけど、これ、みんなで食べて」
「いただきます」

 いただきますと言いながら、彼らはなかなか口にしない。クッキーは嫌いだったんだろうか? 私が一口齧ると、ようやく彼らはクッキーを口にした。
 椅子に座らずに物を食べるなど行儀が悪くて戸惑ったのかもしれない。何だか申し訳ないことをしたな。

 食べ終わると、そのうちの1人が狩りに行くと言ってその場を離れた。

 
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