3 / 56
3.皇帝サイド(皇帝ヒューゴ視点)
しおりを挟む「俺のことを愛しているか?」
「もちろんです。愛しています」
「チッ、やる気が失せた。俺は部屋に帰る」
「陛下?」
女の「愛しています」なんて言葉ほど薄っぺらいものはない。
俺は何でも持っているのに、何でも与えているのに、何が不満なのか俺を見て怯えた目をする。
心にもないことを……
また違う女を探すか。
「大臣、最近連れてきた踊り子の女にも飽きた」
「左様でございますか」
「適当に金でも握らせて放逐しろ」
「畏まりました」
こうして何人の女を城に呼び、そして手放してきたか。
美しいものは好きだ。女の柔らかい肌も。初めて抱く時は緊張している様子も可愛いと思うんだが、何度抱いても変わらないと面白くなくなる。
手放した女が俺の子を妊娠している場合は、産まれてすぐに子だけ城で引き取る。俺の血を分けた子だからな。何人かいるから、そのうちの1人くらいは俺の後を継げるだろう。
「宰相、どこかに美女の噂はないか?」
「またですか? 先日の踊り子の女はどうしたんです?」
「ああ、あいつならもう追い出した」
「そうですか。陛下が食い散らかしたせいで、もう帝国にはあなたが求めるような美女はいませんよ」
「じゃあ、帝国の外から連れて来い。俺の妃になれるかもしれないんだから喜んで来るだろ」
国中から美女の噂を集めては城に連れてきたが、宰相に「もういない」と言われた。
国外か。期待はしていないが数日楽しめればいい。
そんな退屈な日々を過ごしていると、たまに来る宝石売りが面白い話を持ってきた。
何でもフレイヤ王国には「女神」と呼ばれる者がいるらしい。どこにも出さずに王が城に閉じ込めて守っているのだとか。
あくまで噂の域を出ないが、それほどの女、是非とも嫁に欲しい。それに王族なら俺の妃にピッタリではないか。
さっそく俺はフレイヤ王国に手紙を書いた。
女神と呼ばれる者を嫁にもらいたいと。
フレイヤ王国など、帝国に比べたら半分以下の小さな国だ。帝国と関係が築けるとなれば喜んで姫の1人や2人差し出すと思っていた。
それなのに、フレイヤからの返答は断りの内容だった。そんな者はいないので無理だと。
やはりただの噂か。
それでも確かめたいと思い、俺は密偵を送った。
女神という者が存在するのか、本当に美しいのか確かめてこいと。
ただの噂で、存在しないのであれば仕方ない。
しかし、いるのにいないと嘘をつき断ったのだとすれば、到底許すことはできない。
いるが夫がいるとか、幼いとか、歳をとっているとか、そんな理由で断られるならまだしも、嘘をつかれるのは気分が良くない。
しばらくすると密偵は戻ってきた。
「陛下、女神と呼ばれる者はおりました。城に専用の離宮があり、そこから一歩も出ないよう管理されております。その者と接触できるのも限られた者だけのようです」
「それほど大切に育てられているのか。しかし閉じ込められて可哀想だな。それで容姿は? やはり女神のように美しいのか? 髪色や目の色は?」
「髪は綺麗な水色でした。目は深い青で、確かに女神と称されるほどの美しい容姿ではありました。ただーー」
「分かった。その先は言わずともいい。それにする。俺の妃にしよう」
俺は密偵のその先の言葉を遮って、俺の妃として迎えることを決めた。
どうせ我儘だとかそういったことだろう。別にそんなことは大きな問題ではない。何でも買い与えてやるし、我儘くらい聞いてやる。
ーー後に俺は、密偵の言葉を遮ったことを後悔することになるんだが、この時は知らずにいた。
俺は嘘をついていたことを咎める内容と、すぐに女神を寄越すようフレイヤ王国に手紙を書いた。
それなのにフレイヤ王国は嘘をついたことを謝りもせず、俺の要求を跳ね除けた。
話が分からない奴も、俺の手を煩わせる奴も嫌いだ。面倒だと武力行使に出ることを決めた。
あのような小国に勝ち目などない。ちょっと攻撃すれば、すぐに女神を差し出してくると思ったんだが、フレイヤはなかなかにしぶとかった。
本気で国を潰しにかかっているわけではない。小競り合い程度に止めてはいるが、そこまでして守られている女神が気になって仕方ない。
差し出されれば、すぐにでも城に連れ帰れるよう、国境には迎えの馬車と護衛騎士を待機させた。
長引くのは面倒だと、俺は先に城に帰って待つことにした。しかし本当にフレイヤはしぶとく、頑なに女神を渡すことを拒んだ。
女神は戦争を起こされても、戦争が長引いて被害が出ても、鳥籠から出ないつもりか? 密偵にそれを探ってくるよう言い、女神を連れ帰るよう指示を出した。
そこから半月ほど経過すると、国境に女神が着いたとの連絡が入った。
小競り合い程度とはいえ、1人の女を手に入れるために戦争まで起こした。これほどまでに手に入れるのに苦労した女はいない。会えるのが楽しみだ。
仕方ないから、フレイヤ王国には女神を貰い受ける代わりに攻撃の中止と、今後攻め入ることはないと手紙を書いた。元々争う気はなかったし、必死に守ってきた女をくれたのだから、それくらいはしてやろうと思った。
「先方が到着されました」
「すぐに通せ」
王家の姫なのだからと、俺は謁見の間で彼女を迎えることにした。身だしなみを整え、新しく誂えた衣装を身に纏い、一段高い位置に置いた椅子に座って待つ。
柄にもなく俺は少し緊張していた。
その者は、護衛たちに囲まれて入ってきたが、美しいとされる水色の髪しか見えなかった。
そして護衛たちが捌けると、そこに現れたのは……
「は?」
男? 確かに美しいが、男に見える。いや、男装をしている女なのか?
真っ白な正装に身を包んだその人物は、凛とした立ち姿ではあるものの、不安そうな表情で俺を見た。
「俺はフェデーリ帝国皇帝ヒューゴ・フェデーリだ。其方は?」
「私はジョシュア・フレイヤです」
声も低い。女の甲高い声ではないように思うが、低音なだけなのか? 「女なのか?」などと聞くのは失礼に当たるだろう。どうやって性別を聞けば失礼に当たらないかを、頭をフル回転させて考えていた。
「ジョシュア、お前がフレイヤの女神で間違いないか?」
「はい。そう呼ばれているようです。女神なんて、おかしいですよね。私は男なのに」
やはり男か。自ら答えてくれたが、男……
戦争まで起こして手に入れた女神が男……
不可侵まで約束して、すぐに返すこともできない……
「おい、男だと? どういうことだ?」
隣にいた宰相の胸ぐらを掴んで静かな怒りを向けたが、「陛下が望まれたのだと聞いていますよ」と涼しい顔で躱された。
確かに望んだが、それは美女だと思ったからだ。
「出ていけ。客間でも与えて閉じ込めておけ!」
「はい。すぐに!」
護衛に守られながら退場していく女神と呼ばれる男を見送ると、俺は周りに当たり散らしながら、ドスドスと音を立てて大股で歩いて部屋に戻った。
むしゃくしゃしてメイドにも当たって、壺を一つダメにした。
それでも怒りは収まらず、騎士団の訓練場まで行って、その辺にいた奴らを木剣でボコボコにした。
クソッ
俺は男のために戦争を起こし、男のために服を誂え、髪まで整えたのかと思うと、自分にも腹が立って仕方なかった。
401
お気に入りに追加
536
あなたにおすすめの小説

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる