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9.モヤモヤする気持ち
しおりを挟む「何しに来たんだよ?」
僕は逃げていく奴らを見送ると、タツミを睨みつけた。
「すまん。邪魔する気はなかったんだが、心配で」
「なんで? だってタツミは1週間後には僕の前からいなくなるんだろ? 僕と一緒にいたくないんだろ?」
本当にこいつはムカつく。マジで僕のこと守ろうとしてるのか?
わけ分かんないこと言ってる自分にも腹が立つ。まるでタツミにいなくなってほしくない、みたいな言い方して。
「ササ、それってーー」
「なんでもねぇよ。あっち行け」
僕はタツミの言葉を遮って、目を逸らした。その先に続く言葉を絶対に言われたくなかった。
「しかしその手」
「こんなの大したことねぇよ!」
手と言われて自分の手を見ると、血が滲んでいた。
たぶん相手の歯に当たったか、制服のボタンか金具か何かに当たったんだろう。こんなのよくあることだ。
「ダメだ」
「は?」
タツミはいつも怖い顔だが、いつもより一段と怖い顔をして、僕をひょいっと担いで運んでいく。
暴れても全然びくともしない。体格の差なのか、本当に強い奴はこんなに軽々と、僕なんかを担ぎ上げてしまうんだと思ったら悔しかった。
でも、ほんの少し、ほんの少しだけ嬉しかったから、僕は途中からは大人しく担がれてた。
わけ分かんねえ。
タツミの家に行くのは2度目だ。
玄関を入ると靴をポイポイっと脱がされて、そのまま洗面所に連れて行かれた。子どもじゃないのに、後ろから抱き抱えられて血が滲んだ手を洗われた。
でかい手だな。僕は手の大きさもタツミには敵わない。なんで全部負けんだよ。
そっと手を掴まれて、丁寧に薬を塗られるのが恥ずかしい。
恥ずかしすぎて僕は咄嗟に手を引っ込めた。
「必死に威嚇してる猫みたい。可愛い」
「なんだよそれ。馬鹿にしてんのか?」
「違う違う。本当に、可愛いって思ってる」
「だったらなんで……」
僕から離れようとするんだ、と言いかけて僕は口を閉じた。
なんで僕が一緒にいてほしいみたいなこと言わなきゃいけないんだよ。そんなのタツミのセリフだろ。僕はそんなこと絶対に言わない。
「危ないからまだ側にいるよ」
違う。そうじゃない。守ってほしいわけじゃない。僕は誰かに守られるほど弱くない。
「別に危なくねぇし。今日だってお前がこなくても、僕だけでなんとかなったし」
「うん。そうだな。でもやっぱり心配だからもうちょっと側にいる」
「違う。もう帰る。送るな。僕は心配されたいわけじゃない!」
なんでこんなにイライラするんだろう?
側にいるって言えよって思っていたし、タツミはちゃんと「側にいる」って言ったのに、それでも僕はなんか嫌だった。
イライラしてどうしようもなくて、僕は勢いよく立ち上がった。鞄を掴んで玄関に向かったのに、タツミは追いかけてきて僕の手を掴んだ。
「ササ、俺に言いたいことあるんだろ? 怒るだけじゃ分からん。言ってくれよ」
「分かんねぇよ。僕も、なんでこんなにイライラするのか分かんない」
「そうか。側にいるのはいいんだな? 弁当一緒に食べるのも」
「好きにすれば?」
「じゃあ好きにする」
もう分からない。タツミは好きにするって言ったけど、実際にどうするかは分からない。だから僕はもう投げやりな気持ちになって、タツミが掴んだ手を振り解いて、逃げるように玄関を出て走って帰った。
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