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2(桐崎視点)

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 ここはアパートの一室。父さんと母ちゃんは滅多に帰ってこない。父さんは自分の家庭があるし、母ちゃんもどこかの男の家にいるんだろう。
 しばらく見ていないな。ってことで俺の家は誰かを連れ込むには絶好の環境だ。連れ込んだことはないが。

 俺の部屋のベッドに寝かせると、俺は財布だけ持って家を出た。
 俺は女にも男にもモテるわけじゃない。ヒートを起こしているΩなんかに、そうそう出会うわけもないし、ゴムなんか持ち歩いてないしな。避妊薬を買って早めに飲ませないと妊娠したら大変だ。

 ドラッグストアに行って避妊薬と適当に炭酸ジュースとお茶を数本、腹が減っていたから菓子パンもいくつか買い物カゴに入れてレジに並んだ。誰かのために、しかもほとんど話したこともない、俺とは違う道を歩いている真面目くんのために買い物をするなど、俺は何をやっているのか。
 まあでも仕方ない。真面目くんが俺の子を妊娠とかヤバイしな。

 そんなことを考えながら家に戻ると、玄関までフェロモンの香りが漂ってきていた。もしかして部屋はヤバいことになってんじゃねえか?
 心配な気持ちが半分、残り半分はαの本能に抗えない欲望で部屋のドアノブに手をかけた。

 恐らくこの扉を開けたら、俺はもう理性を保てない。少しの躊躇いと少しの期待、母ちゃんが作ってくれた弁当を開く瞬間に似ている。凡その想像はできるが、開いてみるまでは安心できないし、少しの期待と、飯を前にした空腹の俺。
 こんな時に母ちゃんの弁当なんて思い出して俺は馬鹿か、頭を振って弁当の想像を追い出す。ああ、弁当の想像などしたのは、俺が実際に空腹だからだ。食いたいのはΩではなく飯だ。
 しかしここまで来て、飯を食ってからなんて悠長なことは言ってられない。思い切ってドアを開けると、ぶわっとフェロモンの香りに惑わされ、まるで糸でもついていて、引き寄せられるように真面目くんの上に覆い被さっていた。

「抱くからな」
「ありがとう」

「抱くからな」に対する返答が「ありがとう」なんておかしいだろ。そこまでは思考がちゃんと働いていた。その後はもう本能だ。
 俺が何度出したか、真面目くんが何度出したかも覚えてない。

 軽い達成感と、疲労感。酷い空腹と喉の渇きで、ベッドの脇に置き去りにされた袋を手繰り寄せた。

「堂島、学校でもやったから知っていると思うが、ゴムつけてないから避妊薬を飲め」
「分かった。ありがと」

 真面目くんは俺が買ってきたお茶で避妊薬を飲み、喉だけでなく体の渇きを潤すように500ミリリットルのペットボトルを1本空けると、布団の中に埋もれて眠ってしまった。
 腹は減ってねえのか? まあいいか、散々やられて疲れてんだろ。
 俺は菓子パンを齧りながら炭酸ジュースを飲んで、床に座ってベッドに背を預けた。

 あ~、中に出したままにしといたら腹痛くなるんだっけ?
 面倒だと思いながらも、真面目くんを起こし、肩を貸して風呂まで連れて行った。

「指入れるからな」
「じ、自分でできる」
「無理だろ、1人で歩けねえのに」
「あ、うん……」

 散々やった後なのに、風呂は恥ずかしいのか、真面目くんは真っ赤になった顔を手で隠した。
 まあ、クラスメイトだしな。真面目くんがまさか俺なんかに風呂に入れられるとは、思ってなかったんだろ。心配するな、それは俺もだ。学校では絡んだりしねえから。その辺は俺だって弁えてるよ。
 言葉にはしないが、そんなことを思いながら指を入れて、中から俺が出したものを掻き出した。

「あっ……」
「お前、感度いいのな。発情期だからか?」
「ごめ……んん……」
「謝んなくていい。もっとしてやろうか?」

 いいとこ攻めてるつもりはないんだけどな。感度がいいなんて大変だな。俺はΩになったこともなければ、突っ込まれたこともないから、どんな感じなのかも知らんが。
 フルフルと震える真面目くんがずり落ちてきて、よっと抱え直しながらそんなことを考えていた。

「ごめ……」
「いいって、こんなもんだろ、出るぞ」
「ん……」

 バスタオルで体を拭いて、俺のTシャツを着せると部屋に戻った。下着は無いが、たとえ洗濯してあっても人の使った下着なんか嫌だろ。

「腹減ってるか? パンならあるぞ」
「大丈夫」
「そうか。じゃあ寝とけ。体しんどいんだろ?」
「うん、ありがと」

 真面目くんはそのまま布団に潜り込んで寝てしまった。仕方ないから俺は真面目くんの服や、さっき使ったタオルを洗濯機に放り込んで、洗濯機を回した。
 真面目くんは真面目くんらしく夜には帰るだろうし、乾いてない下着を着せるか、もしくはノーパンで帰らせるしかねえ。洗濯したのは失敗だったか……

 試験も終わったし明日は休み。本能に従って散々やって疲れたのもあって、俺は真面目くんが眠るベッドに一緒に入って、そのまま寝てしまった。

 
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