【短編】戦場のゴミ処理係やってたら最強兵士に懐かれてしまった話

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 今日もいつものように戦場のゴミ捨て場に向かう。
 久しぶりに、ロッソと出会った東の端のゴミ捨て場だ。そこには何人かの人がいて、明らかにゴミ処理係じゃないって分かったけど、魔道具や壊れた武器を捨てにきた兵士なんだと思った。

「ナンバー712、やっと見つけたぞ! 早く前線に戻れ!」
「俺は捨てられて、彼に拾われました。今は彼のものです」

「許さん! お前は兵器であることを忘れるな! 兵器が人と共に生きることなどできんのだ!」
「……はい」

 僕は怖いおじさんがロッソを怒鳴りつけて連れていくのを、黙って見ていることしかできなかった。

「ロッソ! 行かないで!」

 ハッと我に返って、ロッソが連れていかれるって思ったら叫んでた。
 その人が、ロッソが怪我をした時にゴミ捨て場に行けって言った人だと思ったから。
 ロッソは一瞬にして僕のところまで走ってくると、僕をギュッと抱きしめて「一緒にいられずすまない」と言うと、おじさんと一緒に戦地へ戻っていった。

 僕は行かないで欲しいと思って手を伸ばしたけど、ロッソには届かなかった。
 遠ざかるロッソの背中。
 僕はロッソの背中を追えなかった。
 自分で行かないでって言ったくせに、ロッソの気持ちに応えれるのかが分からなかったから。

 仕事を放棄するわけにはいかないと仕事をして、その日は魔道具の解体はせず、魔石の浄化だけをして家に帰った。
 家に戻ると、小さなキッチンにはスープボウルが二個と、スプーンとカップも二個ずつ、布巾の上に乾かしてあった。
 朝までここにはロッソがいて、今日も一緒に家に帰ってくると思ってた。
 また青い炎で金属を溶かして固めたやつを売って、僕より稼ぐんだと思ってた。
 今日も「おやすみ、ニコラ好きだ」ってその言葉を聞いて眠りにつくんだと思ってた。

 それなのに、この部屋には僕しかいない。
 冬でもないのに、急に部屋の中の温度が低くなった気がして、寒くて寂しくて震えた。

 魔力の浄化が得意だからゴミ処理係になったって理由もあるけど、人と関わるのが苦手だから、この仕事に就いて、一人で黙々と作業するのが向いてると思ってた。それなのに一人が寂しいと思う。ロッソに出会う前の生活に戻っただけだって、何度自分に言い聞かせても、どこか虚しい。
 夕飯のスープも思わず二人分作ってしまったり、紅茶を用意するときにもカップを二つ手に取ってしまったりした。

 休みの日は、一人で公園で街を眺めながらサンドイッチを食べるのが好きだった。誰かと一緒にいると、相手が僕をどう思っているのか気になる。相手が黙ったりすると、嫌な発言をしてしまったんじゃないかって不安になって、だから人と一緒にいるのは疲れるって思ってた。
 一人の方が気楽でいいって思ってたのに、僕はずっとロッソのことばかり考えていた。

 あんなにたくさん「好きだ」って言ってくれたのに、僕は聞き流してた。
 会えなくなってから、当たり前なことなんて無いって気づくなんて、僕はバカだ。
 会いたい。ロッソに会いたい。

 会えないまま時だけどんどん流れていくけど、僕の中の時計はあの日で止まったままだ。
 軍部に給料をもらいに行くと、契約終了を告げられた。

「え? なぜです? 僕の働きが悪いからですか?」
「いや、キミはよくやってくれたよ。働きのせいではなく、戦争が終結したんだ」
「そう、ですか……あ! じゃあ兵士の方は戻ってきているのですか?」

 戦争、終わったのか。仕事なくなっちゃったな。と思ったけど、戦争が終わったってことはロッソの仕事も終わったってことだよね?
 だったらロッソが街に帰ってきてるんじゃないかと思った。

「大半は戻っている」
「712という兵器と呼ばれている人は戻ってますか?」
「は? なぜキミがその名を? まあ彼は英雄だからな。市民が知っていても不思議はないか。彼は一番の武功をたてたから、王都に行ったぞ」

 英雄、一番の武功をたてたんだ。やっぱりロッソは強いんだな。
 王都か。遠いな……

 もう会えないのかな?
 僕は給料をもらうと、新しい職を探すために職業斡旋所に向かった。

 戦場の廃棄品の運搬や、テントの解体、壊された道や橋の解体と建設など、戦争の後処理と思われる仕事がたくさんあった。
 その中で僕ができそうな仕事を探していると、魔道具の解体の仕事があった。
 戦争のためにたくさん作られたけど、不要になったから解体して新しく生活に役立つ魔道具に作り直すらしい。
 これは僕に向いている。魔道具の解体なら、日常的にやっていたし。

 僕はすぐにその求人の紙を剥がして、受付に持っていった。
 そしてその日のうちに僕の新しい仕事が決まった。
 それはよかったけど、こうして戦後処理を行なっていくことで、ロッソとの日々も消えてしまうような気がして寂しかった。

 魔道具の解体という仕事は、戦争で使われるはずだった魔道具の解体だから、終わりがくる。
 戦地に近い街というのは意外と人が集まる。永住しようって人は少ないにしても、商人や、武器や防具を作る人、魔道具を作る人、それを運搬してくる人。人が増えるから宿も繁盛して料理屋も繁盛する。屋台も増えていた。
 戦争が終わると、集まってきていた人たちがどんどん減っていく。

「この解体された魔道具を王都まで運んでくれないか?」
「分かりました」

 人が減ったせいで、王都まで運んでくれる人がいなくて、わざわざ運ぶ人を呼び寄せるわけにもいかず、僕が持っていくことになった。
 荷車を引いて徒歩の旅だ。僕一人ってわけじゃなくて、三人で一緒に運んで行くんだけど、そのうちの二人は運搬専門の人だ。足りなかった一人を僕が補うことになった。

 
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