【短編】戦場のゴミ処理係やってたら最強兵士に懐かれてしまった話

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 ロッソは毎日僕の仕事に付いてきた。
 こんなところでゴミ集めなんてしなくても、ロッソならいくらでも仕事があると思う。

「ロッソは別の仕事を探した方がいいんじゃない?」
「俺はニコラを守りたい。好きだから一緒にいたいんだ」
「そ、そう……」

 そんな風に言われたら、それ以上は何も言えなくなる。

「ニコラ、今日も美味しかった。ニコラは料理が上手いんだな」
「全然そんなことないよ。切って煮込んだだけだし」

 ロッソは毎日、料理が美味しかったと言ってくれる。本当に大したことないのに。
 戦場では、お湯に少量の干し肉が浮いてるだけのスープだったそうだ。そこに殴ったら怪我をするような硬いパンを浸して食べていたとか。それと比べたらマシかもしれないけど、そんな褒められるような料理の腕は僕にない。
 今度、料理屋に連れて行ってあげよう。ロッソはまた驚いた顔をしてくれるかな?

 僕の仕事は十日に一度、休みを取る。
 休みの日に、屋台でサンドイッチを買って公園でのんびりするのが好きだ。

 僕が今日はお休みだから公園に行くんだって言ったら、ロッソもついて来ると言う。
 休みの日まで僕に付き合わなくていいのに。剣とか買わないのかな?

「その……ニコラにはもしかして恋人がいるのか? 俺が一緒にいたら迷惑か?」
「恋人なんていないし、迷惑ではないけど、休みの日くらい好きなことすればいいのにって思う」
「ニコラに何かあってからでは遅い。一緒にいさせて下さい」

 ロッソは踵を揃えて、僕に深く頭を下げた。

「やめてよそんなことするの。一緒にいていいから、僕に頭なんて下げないで」
「すまない」

 謝らせたいわけじゃないのに……

 屋台でチキンサラダのサンドイッチを買って、公園の芝生に並んで座って食べる。
 ロッソは喜んでくれると思ったんだけど、そんなことはなかった。何故か眉間に皺を寄せて考え込んでいる。

「口に合わなかった?」
「ニコラが作ってくれるスープの方が好きだ」

 あんな大したことないスープを、お店のサンドイッチより好きだと言ってくれるなんて。

 やりたいことは無いのかって聞いたら、休みというものがなかったから、何をすればいいのか分からないって言われた。そんなことってある? 休み無いの?

「戦地からそれほど離れていないのに、ここには平和な空気が流れている。不思議なものだ」
「ロッソがみんなの平和を守ってくれているからだね」
「俺がみんなの平和を……」

 え? 何か違ったのかな? 黙り込んでいるロッソの横顔を眺めて、おかしなことを言ってしまったのかと不安になった。
 そうしたら、ロッソが急に僕の手を握った。その手が少し震えていて、驚いてロッソを見たんだけど、前を向いたままだった。

「俺はやっぱりニコラが好きだ」
「そ、そう」

 それを伝えてくるのは、僕にも好きになって欲しいから? 僕と恋人になりたいってこと?
 僕はどうだろう? 僕はロッソのこと好きなのかな?
 分からない……
 そっと握られているだけの手は、僕が簡単に振り解くことができる。
 でも、振り解くのは勿体無いって思ってる自分がいる。

「ニコラ、嫌じゃないか?」
「うん」
「俺は好きだけど、ニコラは俺に無理に合わせなくていいんだからな」
「うん。分かった」

 そうなんだ。そっか。じゃあ今は分からないままにしておこう。答えは焦っても見つからないよね。
 その日、帰り道にロッソは剣を買った。僕は剣で戦ったりできないから、性能が高いとかそんなのは全然分からないけど、欲しいものが買えたのはよかった。

 それからもロッソは毎日僕のゴミ処理の仕事についてきた。
 仕事探したりしないのかな?

「おはよう、ニコラ、好きだ」
「今日のスープも美味しいな。流石ニコラだ。好きだ」
「今日はまた公園に行くのか? 屋台で他の食べ物も買ってみたい。ニコラ、好きだ」
「おやすみ、ニコラ好きだ」

 ロッソは僕に「好きだ」って言わないと死んじゃう病気にかかったかのように、好きだと言うようになった。毎日何度も言ってくるのに、別に僕に何を求めるわけでもない。だから僕はロッソの「好きだ」って言葉を聞き流すようになった。

 狭い部屋だけど、小さいベッドならもう一つくらい置けると思って、ベッドを買うか聞いたんだけど、床でいいと言われた。

「雨風凌げる場所を提供してもらえるだけで感謝している。ニコラ、好きだ」
「背中痛くなったりしないの?」
「木の床など贅沢な方だ。乾いているし、平らだからな」

 木の床が贅沢? 濡れた床で寝ることなんてあるの? 戦場はテントだとしても、戦争ってずっとやってるわけじゃないし、訓練の時もそんな酷い環境で寝泊まりしてたんだろうか?
 兵士って大変なんだな。

 僕はロッソがいる生活に慣れて、好きだって言ってくれることにも慣れていった。慣れたというか、当たり前になっていた。

 
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