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プロローグ
しおりを挟む僕はニコラ。17歳で、二年前から戦場のゴミ処理係をしている。
戦場では多くの魔道具が使われる。使い捨ての魔道具の残骸や、起動しなかった魔道具、折れた剣や槍、壊れた防具やなんかもある。
防具や武器なんかは別にいいんだけど、問題は魔道具だ。魔石を使い切って捨ててくれればいいんだけど、戦いの最中に魔力が切れるのは困るとかで、まだ魔力が残っているのに捨てられる魔道具がある。何かの拍子に発動してしまったり、上手く起動しなかったものは暴発の恐れがあるから危険だ。
僕はそんな危険な魔道具に浄化をかけて魔力を自然に還す、そんな仕事をしている。それと、魔道具を分解してそれぞれ素材ごとに分けて素材として売る。こっちは副業ってところかな。
軍に直接雇用されているわけじゃない。下請けって感じだから給料は安いけど、その分素材を売ったりするのは自由だから食べていくのに問題はない。
戦場は広いから、色んなところにゴミ捨て場があって、一日に何ヶ所も回るのはちょっと難しい。頑張っても一日に二ヶ所ってところかな。距離が遠いと難しい。
今日のゴミ捨て場は東の一番端。ここは一番戦いが激しいと言われている場所で、流れた魔術が飛んでこないとも限らないから、結界の魔道具を発動させながらゴミ捨て場に向かった。
「ひっ」
怖かった……
一瞬足を止めると、僕のすぐ目の前を氷の矢が掠めていった。氷の矢、あれは魔術でたぶん威力の強いアイスランスだと思う。氷の矢を目で追うと、スピードを落とすことなく飛んでいって、僕の右手後方にある岩を破壊した。
結界の魔道具を発動させているとはいえ、強力な魔術だと結界も壊れるし、例え守られていたとしても魔術が向かってくるのは怖い。
ここは前線からは離れているし、矢だったり投擲のナイフが飛んでくるとか、敵が斬り込んでくることはないけど、こうして魔術が飛んでくることがある。
やっとの思いでゴミ捨て場に到着すると、先客がいた。
先客? その男はゴミの山にもたれて眠っているようだった。
給料が安い割に危険な仕事だし、ゴミ処理係は少ない。珍しいけど、全く会わないってわけでもない。挨拶でもしておこうと近づいてみると、その人はどう見てもゴミ処理係じゃなくて兵士だった。
「大丈夫? ねえ、こんなところに救護班は来ないから、救護班の所行った方がいいんじゃない?」
「ん……うう……」
これ、結構ヤバい状態なんじゃない? 防具とかボロボロだし、この人の血なのか返り血なのか分からないけど、血だらけって感じに見える。
綺麗にするために浄化をかけてみる。綺麗にはなったけど、脇腹からダラダラと血が流れ出していて、防具についている血は返り血じゃなくてこの人の血だった。
僕が持ってるポーションは低級で、こんな大怪我に効き目あるのかな? 不安になりながらポーションを傷口に半分かけて、半分は無理やり口を開けて飲ませた。
ゴミの山にもたれてるなんて危なすぎる。
僕は男を引きずってゴミの山から離すと、ポーションが効いてくるまで今日の仕事をすることにした。
魔道具を探し出しては浄化をかけて無力化して、分解していく。
あの男はいつ起きるんだろう?
作業を進めながらチラチラと眺めているけど、全然起きない。まさか間に合わずに死んじゃったりしてないよね?
戦争をしているんだから、人が死ぬのは珍しくない。でも僕の目の前で誰かが死んでしまうのは怖いと思った。
不安になった僕は、慌てて男の元に行って、分厚い胸に耳を当てた。
トクッ、トクッ、トクッ……
まだ心臓はちゃんと動いてる。でも起きないってことは大丈夫ってわけでもないんだよね?
ここは東の外れで、救護班のテントまでは遠い。救護班のテントなんて、兵でもない僕が近づいてもいいものなのかも分からない。
仕方ない。僕は男を背負って帰ることにした。
男が重いから、今日は素材の回収を諦めた。
この男は僕より大きくて背負っても足を引き摺る。もうそれは仕方ないよね。
そんなに得意じゃない身体強化を使って街の外れの家に帰ると、もう魔力がなくなりそうでフラフラだった。
なんとか男をベッドに寝かすことはできたけど、そこで僕は力尽きた。
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