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クラウディオ編1

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 俺に恋人ができた。
 きっかけはよく分からんが、成り行きというか、そんな感じだ。
 危なっかしい奴で、目を離したら他の奴に奪われそうだ。
 野獣だらけの騎士団の訓練場に無防備な感じで、ホイホイ気軽にやってくる。学園も最終学年ってことで時間に余裕があるらしい。

 ちょっと目を離した隙に、野獣に群がられる姿をよく目にする。
 見学は女もいるのに、何故か俺のリディがいつも狙われるんだ。気持ちは分かる。彼はちょっと儚げでとても可愛いんだ。

 なんでリディが俺を選んだのかは分からん。華奢で騎士団では出会えない種類の男だ。そして強引なキスが好きらしい。そこが一番謎だ。

 いつもキスが終わると気持ちいいとうっとりした顔で、少し目を潤ませて見上げてくる。
 そのまま押し倒しそうになるのを耐えるのが結構きつい。
 彼は伯爵家の子息だから、俺のような末端の、貴族とは名ばかりのような奴が手を出していいのかが分からない。出していいなら出したいが、大問題になるかもしれない。

 何度もキスをしておいて今更だが、キスなら挨拶だと言えばギリギリなんとかなりそうな気がしているから、まだ手を出していないと認識している。
 いや、舌を入れた時点でアウトか……
 一回したんだから、一回も百回も変わらんだろうということで、遠慮なく可愛い彼とは会う度に何度もキスをしている。

 抱きしめると俺の胸に頬擦りしてくるのが可愛い。
 力を込めたら潰してしまいそうだと思うんだが、多少キツめに抱きしめてもケロッとしている。むしろ嬉しそうに頬を染めるから、彼を抱きしめると俺もちょっと心がホワッとなる。

 貴族の気まぐれかもしれないが、今のところ俺はリディにそこそこ気に入られているようだ。

 休みの日には馬に相乗りして出掛けた。
 怖いのか俺の腕にギュッとしがみついている。
 先に降りて、脇に手を入れて彼を降ろしてやる。華奢な体だな。同じ男とは思えない細い体を見ると、俺が守ってやらないといけないと使命感にかられる。


「クラウディオ、僕のことめちゃくちゃにしたいと思う?」
「は?」
 こんな真っ昼間から何を言ってやがる? たまに彼は驚くようなことを口走る。
 恋人になるきっかけとなったあの夜もそうだ。「押し倒されて強引に唇を奪われたい」なんていきなり言われたんだ。
 まんまとその罠に嵌って、こうして俺に恋人ができたんだが……

 リディを組み敷いて、細い腰を掴んで乱れる姿を見たいとは思う。そりゃあそうだろ。リディほど儚げで可愛い男はなかなかいない。そんなリディを抱けるものなら抱きたいに決まっている。

「いいよ。僕の初めてはクラウディオって決めてる。一生クラウディオだけでいいとも思ってる」
 は? どういう意味だ? 今度は何を企んでいるんだ?

「リディ、俺を伯爵家に取り込むつもりか?」
 親か兄弟に結婚して俺を戦力として取り込めとでも言われたんだろうか?
 騎士団では、俺の強さは上位だと自負している。叙爵した際に、それで取り込まれないよう気をつけろと団長に言われたんだ。

 リディは驚いた顔をして、俯いてしまった。少し傷ついた顔をしていたようにも見えた。俺のせいか?
 取り込みたいわけじゃないのか? じゃあ何が目的だ?

「そんなに抱いてほしいなら抱いてやってもいいぞ。結婚はしないけどな」
「うん。いいよ」
「いいのかよ」
 どう反応するかで判断しようと、そう言ってみたが、リディは即答で了承した。
 何が目的なのか分からず、無茶苦茶に抱いてやろうと思った。

 しかし、その澄んだ目を見ていると、酷くなんてできなかった。

「クラウディオ……」
 切なげに俺の名前を呼んだ。きっと初めてが俺みたいなガタイのいい男で怖いんだろう。揺れる瞳とギュッと俺の腕を掴む細い指、彼は本当に綺麗だった。

 薄い胸に控えめな色の乳首。俺の手は彼の手みたいに柔らかくはない。そっと触れて、様子を伺う。
「痛くないか?」
「ん……気持ちいい」

 緊張しているのか体に力が入っていて、緊張をほぐすために時間をかけた。男を買ったことはあるが恋人は初めてだった。
 大切に大切に開いていく。
 男娼みたいに大きな声で喘いだり、大袈裟なまでの反応はしないんだな。やはりあれは演技だったのか。

 フルフル震えながら、小さく「あ……」と吐息が漏れてしまうのが可愛い。
 いいんだよな?
 挿れる時はがらにもなく少し緊張した。

「苦し……クラウディオ……」
「やめておくか?」
 涙を溜めながら、「やめないで」と言われて、そんな姿がますます可愛いと思った。

 俺はこいつのことが好きなのかもしれない。そう気付いたのはいつだったか。外見はタイプど真ん中だ。性格も全部を見せているわけではないと思うが好ましい。こいつになら騙されてやってもいいと思うほどに、もう俺の心はリディに掴まれてしまっていた。

 何かを隠しているのは気になるが、それでもいい。リディを抱ける喜びと、可愛い彼を俺のものにしたという優越感。一度抱くと、リディがもっと欲しくなる。

 優しくしたのは最初の数回で、だんだん何を隠しているのか、何を企んでいるのか、明かさないことに腹が立ってきて、貪るように、欲望のままに、強引に彼の体を求めるようになった。
 というのも、彼は俺を見ているようで、何か別のものを見ているように感じる時があるんだ。視線が合わないのに、嬉しそうにしていたり、恍惚の表情を浮かべている時がある。

 お前は何を見ている? 俺じゃないのか?
 自分勝手に無茶苦茶に、切なさも苛立ちも全てぶつけるように抱いたこともある。

 俺は好きなんだからお前も好きになれよ。恋人なんだろ? 俺はこんなに強欲だっただろうか?
 リディを前にすると、ここにいるのに遠くて、抱いているのに俺のものじゃない気がして、苦しくなる。

 
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