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ディオ視点1

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ローブの留め金が外れてしまい、防具屋に直しに行って、店を出たところで、ジョルに会った。
しかしジョルの腕には私より小柄の男が絡みついていた。ジョルもそれを嫌がっている素振りはない。
これはそういうことなのだと思った。

こんな現場には会いたくなかった・・・。

この後、ジョルがこの男を抱くのかと思ったら、泣き崩れそうで、必死に感情を殺してその場を急いで去った。



あの男は、可愛かった。私に言ったように、あの男にも可愛いと言うんだろうか?優しく微笑むんだろうか?
ジョルはまだ記憶が戻っていないんだから仕方ないことなんだ。私だって散々同じようなことをしてきたんだ。耐えろ。ジョルが悪いわけじゃない。私が我慢すれば良いだけだ。
そうは思うものの、どうしようもなく悲しい気持ちが溢れて、ベッドに突っ伏して泣いた。


しばらく泣いていると、ドアがノックされてジョルが訪ねてきた。
私は顔に浄化をかけて感情を遮断してドアを開けた。



自分でも驚くほどに冷たく低い声が出て、ジョルのせいではないのにジョルを冷たく遇らってしまった。
あの男を抱かなかったことにホッとしたが、私に見つからなければきっとジョルは他の誰かを抱くんだろうと思ったら、とても悲しくなって、初めてこのままジョルの側にいることが苦しいと思った。
朝起きて顔を合わせた時に爽やかな顔で、昨夜は誰を抱いたなどと報告された日には倒れてしまいそうだ。
だから誰を抱いても報告はするなと言った。

何があっても支えていくと誓ったのに。こんなことくらいで・・・。私は弱い・・・。


ベッドに横になって目を瞑っていたが、ほとんど眠れなかった。
頭を冷やしたいと思い、夜明けを待って宿を出ようとドアを開けたら、蹴破る勢いでジョルの部屋のドアが開いた。


「おはよう。早いな。」
「あぁ。おはよう、ディオ。」

私はジョルの顔をまともに見れなかった。
一瞬見たジョルの顔は、酷く疲れ恐らく一睡もしていないんだろうことが分かった。
私の態度はそこまで深くジョルを傷つけてしまったのかと思ったら、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
ジョルのせいではないのに。ジョルが悪いわけではないのに、私が嫉妬しただけなのに。私はジョルに謝った。
そして、もう私には夜の相手など必要なくなったことも話すと、なぜかジョルももうそういうのは止めると言った。


ジョルは必要なくなったと言ったが、その理由は分からなかった。昨日は私に見つからなければ他の奴を抱くつもりだったのだろうし。
私の機嫌を取るためにそんなことを言っただけかもしれない。

もしかしたら記憶が戻りかけているのか?
だとしたら嬉しいが、そんな素振りは今のところ無い。


どこへ行くのかと聞かれたため河原に走りに行くと言うと、ジョルが付いてくると言った。
一睡もしていないようなそんな疲れた顔をしているジョルを走らせるなどできない。
私は走るのは止めると告げ、少し悪戯心で添い寝を提案したら、ジョルは意外にものってきた。


「いいのか?」
「いいよ。」

私は部屋にジョルを招き入れた。


「抱きしめて寝ていいか?何もしないから。」
「仕方ないな。いいよ。」


私としては嬉しい提案なんだが、ジョルの意図が分からない。

誰も抱かないが、人肌は恋しいということだろうか?それとも何もしないと言いながら、性欲処理のためだけに私を使おうと思っているのか。

私もほとんど眠れなかったから、ジョルに抱きしめられて横になると、安心してすぐに寝てしまった。
 
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