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新しい関係(ジョル視点)5

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眠れず過ごしていると、まだ朝早い時間にディオの部屋の方向からドアの開く音がした。
俺の前からいなくなってしまうのかと思ったら居ても立っても居られずドアを蹴破る勢いで廊下に出た。
するとドアを開けたのはやはりディオだった。


「おはよう。早いな。」
「あぁ。おはよう、ディオ。」

ディオはいきなりドアが開いて驚いた表情をしていたが、目を逸らしながらおはようと言った。
なぜ目を逸らしたのか分からない。


「その、昨日はごめん。ジョルにあんな冷たい言い方をして。」
「いや、悪いのは俺だからディオが気にすることはない。」
「ジョルは悪くない。私も少し前までは同じことをしていたのに、ジョルを責める資格などないし、そんな立場でもないのに、ごめん。」
「いや、いいんだ。ん?少し前まで?」
「うん。私には必要なくなったから、そういうのはもう止めたんだ。」


俺はホッとした。
必要なくなった理由は分からないが、その辺の適当な奴にディオを奪われることはなくなったし、可愛いディオを誰にも見せないでいてくれると分かって安心した。


「そうか。じゃあ俺も止める。」
「え?なぜ?」
「なんでも。俺もそんなのは必要なくなったからだ。」
「そうか。」

俺はそうするのが自然だと思ったし。必要なくなったというのも本当のことだった。
ディオのことは抱きたいと思うが、それは今すぐでなくていい。ディオと心が通ってから。それまでは待てると思った。


「ディオ、こんなに朝早くにどこへ行こうとしたんだ?」
「河原でも走って頭を冷やそうかと・・・。」
「それなら俺も一緒に行く。」
「止めておく。ジョル、酷い顔だな。寝てないんだろ?私が添い寝してあげようか?」
「いいのか?」
「いいよ。」

ディオは部屋に俺を招き入れてくれた。



「抱きしめて寝ていいか?何もしないから。」
「仕方ないな。いいよ。」

またディオが俺に微笑んでくれた。
あの氷のような目で見続けられたら、俺は心が折れてしまうと思った。あの男に金だけ渡して何もせず帰ってきたのは正解だったようだ。
しかも抱きしめて寝ていいなんて、こんな幸せがあっていいのか?

ベッドに入ると、やはり男2人では狭かったが、ギュッと抱きしめて密着すればその狭さなど気にならなかった。
ディオの温度と感触と香りは落ち着く。
さっきまでの不安はもう無い。

なぜ添い寝してくれるのかは分からないけど、眠れず悩み続けた頭ではもう何も考えられず、俺は幸せな気分ですぐに眠りについた。




起きるとこれは全て俺の都合のいいように作られた夢で、ディオはもういないのではないかと思ったが、目を開けると俺の腕の中にはスヤスヤと眠るディオがいた。

愛しい。何もしないと言ったのに、ディオと心が通うまでは待てると思ったのに、俺の腕の中にディオがいるかと思うと、欲望が鎌首をもたげる。
人間とは実に欲深いものだ。十分だと満足だと思っても、次々と欲望が湧いてくる。
ただ隣に居られればいいと思ったのに、次は抱きしめたいと、抱きしめたら次はキスを、そして体を求めてしまうのかと思うと自分が怖くなった。


怖くて縋り付きたくなって、ディオをギュッと抱きしめた。
すると、力が強すぎて苦しかったのか、ディオは目を覚ました。


「ジョル、どうした?怖い夢でも見たか?大丈夫だ。私が付いている。」
「ありがとう。ディオは格好いいな。」
「ふふふ、そう?」

ディオは可愛いだけじゃない。強いしな。ディオに抱かれたい奴の気持ちが分かってしまった。


「キスしたらダメか?」
「いいよ。」
「いいのかよ。本当にするぞ?」
「いいよ。」

ディオは俺を見上げて目を閉じた。



「ん、、は、、ぁ、、、ん、、んん、、」

「ディオ、可愛い。」


俺の腕の中で蕩けた表情をしているディオを見て、思わず襲い掛かりそうになったが、必死に耐えた。
俺、大丈夫だよな?気をしっかり持っていないと衝動的に何かしてしまうかもしれない。
 
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