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しおりを挟む「おい!」
いきなりライデンシャフトくんに声をかけられてびっくりした。
「なんでしょう?」
何も思い当たることなんてない。だけど気付かないうちに何かしてしまったのかもしれない。
緊張から背中を冷や汗が伝って、尻尾は力なく股に巻き込んだ。やっぱりその金色の目は僕を冷たく見下ろしていて、僕より種族としても格が上だから、強者の威圧に似た空気が僕の息を詰まらせる。
憧れだけど、遠くから見てるのがよかった。近くで高い身長から見下ろされると怖い。
「俺のこと好きか?」
「え? あ、うん」
「じゃあついてこい」
どういう意味での好きを聞きたかったのかは分からない。
僕は強者の纏う空気に圧倒されたまま、黙ってついていくことになった。逆らうことなんてできない。クラスの大半がライデンシャフトくんには逆らえない。先生だって顔色を伺ってるくらいだ。
細くて長い綺麗な尻尾は左右にゆらゆら揺れて、僕は彼の尻尾を眺めながらついていった。
「ここって……」
「俺の家だ」
着いたのは大きな家だった。こういう家を豪邸っていうのかなって思うくらい大きくて、小さくなりながら彼の後に続く。
僕はなぜここに連れてこられたんだろう?
そして、さっきの「好きか?」の意味はなんだろう?
ライデンシャフトくんは玄関を入ってすぐのところにある、学校の階段より幅の広い階段を上がっていく。一段一段が普段登っている階段よりも高くて、着いていくのが大変だった。
背が高いだけでなく背中は大きいし、背中の真ん中まである真っ直ぐ伸びた黒髪は艶々でとても綺麗だ。
尻尾から背中に目線を移し、彼の後ろ姿を眺めていた。
ライデンシャフトくんはある扉の前で立ち止まって、扉を開けると、僕に中に入るよう促した。ここは彼の部屋だろうか?
床には複雑な模様の毛足の長い絨毯が敷いてあって、踏んでもいいのか迷いながらそっと一歩を踏み出した。
大きな窓にはレースのカーテンがかかっていて、室内は明るい。机やキャビネットなどの家具は全部、落ち着いた暗い茶色で統一されていて、大人って感じだ。
革張りのソファも茶色で艶々していて、校長室にあるソファより高そうに見える。
奥には僕が三人か四人くらい眠れそうな大きなベッドがあって、グレーの寝具で統一されている。黒っぽいベルベッドみたいな素材の天蓋が頭の方でまとめてあった。
寝る時だけベッドの周りを覆うんだろうか? 僕の家にはないものだから使い方が分からない。
僕はこの豪華な部屋をボーッと眺めていた。
入り口を入ってすぐのところで立ち止まっていたら、ライデンシャフトくんに手首を掴まれて、部屋の奥へと連れて行かれた。
「好きならキスしていいよな?」
「あ、うん」
キス? キスって言った? 戸惑っている間に唇が重なった。
僕はライデンシャフトくんの質問には肯定でしか答えらない。
故意に威圧をかけているわけじゃないと思うけど、その纏う空気感だけで、近づかれると服従してしまうんだ。
僕は受け入れるしかなかった。好きな気持ちはある。恋なんて烏滸がましい。憧れであり尊敬であり、敬愛が一番近いと思う。逃げたいと思う気持ちと、嬉しい気持ちがせめぎ合うけど決着はつかない。
舌が無理やり僕の口を開くように入ってくる。ザラザラした舌の表面が、無理やり押し入ってきたとは思えないくらい優しく口の中を撫でていった。
僕の舌も少しザラザラしているから、ライデンシャフトくんの舌に触れると簡単に絡め取られてしまった。
「んん……」
ライデンシャフトくんは僕が逃げないようにガッチリと両手で僕の頭を掴んでる。角度を変えて何度も何度も息ができないほど深く貪られた。
僕の茶色のまだらの癖っ毛を掻き混ぜるように指が絡んでくる。
酸素が足りないからか、頭が上手く回らない。ボーッとして、ただ必死に酸素を求めてパクパクと口を動かしていた。
「従順でいい子だ」
「ぁ……」
ようやく離れてくれたライデンシャフトくんは、完全に捕食者の目で僕を見てる。金色の目がギラギラと血走っていて、もうキスは終わってるのに息が詰まる。
「したいんだけど」
「……したい? なにを?」
「そんなの決まってんだろ、セックスだよ」
「あ、えっと……」
興味がないわけじゃないけど、正直怖い。
でも僕は断れず流されてしまった。というか、圧倒的な強者を前に、やっぱり頷くことしかできなかった。
僕はされるがままライデンシャフトくんに従った。
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