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二章
34.田村家の秘密
しおりを挟む俺が政宗さんに守られて精神を回復している間に鈴井からメッセージがあった。
『三宅ちゃん退学になったから大学来てももう嫌な思いはしないと思うよ』
知らない名前に、送り先を間違えているのではないかと返事をしたら、例の女だった。大学としてはαは貴重で大切にしている。αはもっと偏差値の高い大学に行く人が多いから、うちの大学にはそんなに多くない。よってαに迷惑をかけるような生徒は排除することにしたようだ。俺はまだマシな方で、他にも多数のαに付き纏いなどの迷惑行為をしていたらしい。
三日後、体調が回復してキッチンに立つと若い子達に泣かれた。
「兄さん、戻ってきてくれて嬉しいっす」
「兄さんがいないと無理っす……」
「昨日のヤス達の作った飯は特にヤバかった」
必要とされることが嬉しかった。やっぱり俺はここにいたい。まだいい解決策は浮かんでいないけど、諦めずに戦おうと思った。
「兄貴、今から組長がここに来るそうです。遥希さんにも会いたいと」
「は? 何しに来るんだ?」
「詳しくは教えてもらえませんでした」
「仕方ない、準備だけしておくか」
政宗さんは着物に着替えた。俺も政宗さんとの結婚を決めて組長に会ってから、結婚式の衣装とは別に着物を仕立ててもらっている。
こんなに早く着る機会が訪れるとは思っていなかったが、仕立てておいてよかった。
考えたくないが、まさか両親は組長のところにまで押しかけたんじゃないよな? さすがにそんな勇気はないと思うんだが……
政宗さんの周りにいる人と比べて、組長のいる本家にいる人たちは年季の入り方が違う。威圧感が半端ないというか……
「遥希、似合うな」
「そうですかね? 政宗さんみたいに慣れてないので着られている感じがあります。政宗さんはいつも格好いいですよ」
まだ俺は自分で着れないから、政宗さんに着せてもらった。自分でサッと着れるのは大人の男という感じがして格好いい。
「髪、やってやるよ」
「はい。お願いします」
和装に合う髪なんか分からないから、やってくれるのはありがたい。似合うかどうかは別として……
ふぅ、少し緊張しながら応接室に向かう。
「え?」
扉を開けて中に入った政宗さんに続いて応接室に一歩踏み入ると、そこにいた人物を見て固まってしまった。
組長は来ると聞いていたから分かるが、その隣に俺のじいちゃんが座っていたんだ。
「遥希、どうした?」
部屋に一歩入ったところで立ち止まってしまった俺を、心配そうな顔で政宗さんが見た。
「じいちゃん、なんで?」
「え!? 遥希のじいちゃん?」
政宗さんもまさか俺のじいちゃんが訪ねてくるなんて思ってなかったから、組長の隣に座る男を見て、誰だこの爺さんとでも思っていたんだろう。
「久しぶりじゃな。遥希」
久しぶりに会うじいちゃんは、にこやかにしていて元気そうで安心した。
「まあ二人とも座りなさい」
組長にそう言われて、俺は理解ができないままじいちゃんと組長の向かいに、政宗さんと並んで座った。
「次郎とは縁があってな。遥希がまさか次郎の孫と結婚するとはな」
次郎とは、組長さんのことなんだよな? じいちゃんは組長を呼び捨てにしているけど大丈夫だろうか?
「田村と聞いて調べたらまさか隆さんの孫だとは。政宗、よく見つけてきた」
組長さんも、今日は前に会った時より朗らかな印象だ。顔は怖いが威圧を解除しているというか、政宗さんの祖父の顔だ。
「じいちゃんと組長は知り合いなんですか?」
「次郎は中学の後輩じゃ。小さくて弱いくせに悪いことばっかしおって、わしが度々助けに行ったんじゃ」
「隆さん、そんな昔の話を……わしの威厳がなくなるだろ? まぁ色々助けられてわしが隆さんについて回っていたんだ」
じいちゃんが組長のことを次郎なんて呼び捨てにしていることがまず信じられないし、組長が小さくて弱いってのも信じられなかった。
そして、じいちゃんが格好よかったとか、組長が可愛かったとか、そんな昔話をたくさん聞かされた。
「次郎から連絡をもらって来てみたら、あいつらが次郎の孫にも遥希にも迷惑をかけていると知って回収しに来たんじゃよ」
「ああ……」
聞いてみると、両親は俺がαだと分かる半年前に投資話に騙されて借金を背負っていたのだとか。そんな時に俺がαだと発覚して金が成る木に見えたらしい。
それで取り戻そうと必死だったんだとか。
借金はじいちゃんが山を一つ売って返したそうだ。
「次に遥希や遥希の周りに迷惑をかけることがあれば、次郎に国外に売ってもらうことになってるから心配するな」
それ怖いんだが……笑っているから、じいちゃん的冗談なんだろう。本気かもしれないが、本気だと考えると怖すぎるから考えないようにしよう。
俺が結婚する相手がカタギじゃないって言っても驚いた様子がなかったのは、組長という存在を知ってたからなのか。
「遥希のじいさん、結婚式にはぜひ来てほしい」
黙って話を聞いていた政宗さんが口を開いた。
「隆さん、わしからもお願いしたい。孫たちの結婚、めでたいことじゃないか。わしらは親戚になるんだな」
「じゃあ、わしも参加させてもらうかな。あいつらは連れて来ないから安心してほしい」
「じいちゃん、ありがとう」
この先どうなるのかと心配だったけど、まさかじいちゃんが解決してくれるとは。
世間は狭いな。
今思えば、俺の歴史好きもじいちゃんの影響だ。
「じいちゃん、政宗さんの側近は片倉さんなんだよ。凄い偶然だよね」
「はは、そうじゃの。それを言うなら遥希もじゃ」
「え? 俺も?」
「伊達政宗の正室は愛姫じゃろ? 愛姫の実家は田村家じゃ」
「ええーー!?」
「今日はお互いのじいさんにしてやられたな」
「そうですね。でも、解決できてよかった。先が見えず不安でした」
「大丈夫。俺がついている。一生俺のものだからな」
「政宗さん、俺と政宗さんが出会ったのはきっと運命です」
「遥希は意外とロマンチストだな。そんなことよりさ、しよ?」
俺は今日じいちゃんに聞いた、伊達政宗の正室が田村家だったことを話したくて仕方なかったのに、政宗さんはもう我慢できないって感じで和服の帯をスルスルと解くと、俺を押し倒して唇を塞いできた。
狂犬だ……可愛い子犬だと思ってたんだけどな。
(完)
最後までお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m
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いつも感想をいただきありがとうございます🥰
こちらこそ、読んでくださり、感想も書いてくださり感謝でいっぱいです✨
これから遥希はお店を出しますし、結婚式もまだで、子どもが生まれたら……と考えると色々妄想が膨らみますね😆💕
あの甘えたな政宗さんに母性が……子どもも大事だけど遥希とイチャイチャもしたい。遥希の両親にリークした山下と住田に子どもを預けて、二人だけの時間もちゃっかり確保しそう。
「遥希、いっぱいキスしたい」
「いいですよ」
なんて会話をしながらずっとラブラブな二人でいてほしい。
おじいちゃんたちも、ひ孫を溺愛しそうですね😊
いつも感想をいただきありがとうございます🥰
政宗さんは遥希の前では甘えたですが、守られるだけじゃない格好いいΩでした✨
これからは二人のおじいちゃんが頻繁に遊びにきて色んな昔話を聞かせてくれそうです。
大将と女将さんも鈴井も、遥希を支えてきた大切な人たちなので、お店のオープンには招待するでしょう😊
感想をいただきありがとうございます🥰
いつもは少し控えめで優しい遥希ですが、大切なものを守るときは男を見せます✨
組では上に立つ政宗さんなので、甘えたなのは遥希の前だけってのが可愛い💕
子どもができても政宗さんは遥希にベッタリ甘えてそうですね😊