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3.露出狂の正体
しおりを挟む「お疲れさま」
再び現れる露出狂の変態で痴漢の男。
なんでまだいるんだよ。僕は無視して通り過ぎて帰ろうとしたんだけど、一気に距離を詰めて手を握られた。めちゃくちゃ温かくて柔らかい手だった。
「放せよ」
「ごめん。いきなり抱きしめたりキスして」
申し訳なさそうに肩を落としながら彼はそう答えた。一応そこは悪かったと思ってるのか。
「なんであんなことしたんだよ」
「キミの近くが気持ちよくて、思わず……近付いても逃げなかったから」
そんなのが抱きついたりキスする理由になるわけない。近づいても逃げなかったなんて理由で痴漢が許可されたら、世の中に痴漢が溢れてしまう。
「おかしいだろ」
「俺、属性特化で、人に近付けないんだ。近寄っただけで熱くて死ぬと言って逃げられる」
男は落ち込んだ様子で説明してくれた。
それは僕も分かる。僕も「寒いから近くに寄るな」とか、「同じ部屋にいるのは数分が限界」とか言われるし、みんなから距離を取られるから。
そういえば、この男は僕に抱きついたくせに平気なんだな。今も僕の手を握っている。彼の手が凍っている様子はないし、冷えるどころか温かい。不思議だ。
間違いないと思ってはいたけど、僕は聞いてみることにした。
「お前、炎属性特化の『火炎王子』か?」
「そうだ。俺はアレンディオ。アレンと呼んでほしい。キミは?」
「フィリベルト、フィルでいい」
やっぱりそうだよな……。
知ってた。だって辺りは火の海なのに平然と全裸で立っていたんだから。
アレンはフィル、フィル、フィル……とずっと僕の名前を呟いている。
「なんで全裸なわけ? そういう性癖なのは勝手だけど、僕の前では服着てよ」
「ごめん。魔術を使うと服が全部燃えてしまうんだ」
「マジかよ」
そんな仕組みありなのか? それは悲惨だな。
「今まではペアだった水の者や、従者に持ってもらってたんだが、水の者とはペアを解消したし、今回は範囲が広いから従者は街に置いてきた。だから服が無くて困っていたんだ」
意外にも丁寧に説明してくれた。
困ってるようには全然見えなかったけどな。
僕が到着したとき、どこも隠すことなく堂々と立ってただろ。全裸になってしまうのに理由はあったとしても、それを楽しんでいるように見えた。やっぱりこいつは露出狂に違いない。
僕はこの先、この『火炎王子』とペアを組むことになるんだろうか?
そうしたら、僕がこいつの服を持ち歩くんだろうか?
そして辺りが火の海になったところで、全裸の男に服を渡すのか……。
何それ。別途手当が欲しいくらいなんだけど。
僕、こいつとペアになるの嫌だな。先のことが不安になった。
よし、とにかく逃げよう。
問題は先送りにして僕はとにかく逃げることにした。もう今日の仕事は終わった。
ペアを組まされたからといって、普段から仲良くする必要はない。必要な時に必要なことをすればいいだけだ。僕は『火炎王子』が出動する時について行って消火する。それ以外の時は別行動だ。今だって、街に一緒に帰る必要はない。
僕はすぐに待機させておいたワイバーンタクシーを専用の笛で呼んで飛んで帰った。
ワイバーンタクシーは、空飛ぶトカゲの魔物を使った乗り物で、移動が速いという利点がある。僕たちの仕事は災害の対応が多いから、現場に急行する時も多い。帰りは急がないけど。
それと、僕でも乗れるということ。そこが一番重要かもしれない。
馬が凍えるから馬には乗れないし、馬車は短時間なら乗れるけど、長時間乗ると御者が寒さに耐えられなくなる。結界付きの馬車なら乗れるけど、あんなのは貴族が優雅に旅行するためのもので、高価すぎて一般市民が気軽に乗れるものではない。
だから寒さにも強いワイバーンタクシーだ。短時間で着くからワイバーンも凍らない。
ちょっとお値段は高いけど、ギルドから金が出るから問題ない。
あいつは変態だったけど、不思議な体験だった。まさか僕に近付いて抱きしめても大丈夫な人間がいるなんて。
キスもしてしまった。そっと唇を指でなぞる。温かかったな。
僕はちょっとドキドキしながら眠りについた。
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