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14.悪い子(ミツル視点)
しおりを挟む「君たち何があったの?」
マスターに心配された。タキさんが迎えに来なくなったから。それ以前からちょっと変だとは思ってたらしい。
「僕にも分からない。タキさんに好きだけど別れるって言われて……」
そう口に出したら途端に涙が溢れてきた。タキさんに言われた時は驚きすぎて何の反応もできなくて、何も答えられなかった。
自分で口にしたら初めて現実味が湧いて、別れたくないって強く思った。
言われた時はボーッとした頭で仕方ないことだって飲み込んだはずだったのに、そんな聞き分けのいい子ではいられなかった。いつもGood boyって言ってくれるから、ずっとタキさんにはいい子って思ってもらいたかったのかもしれない。僕はいい子じゃない。悪い子なんだ。
「別れたくない……好きなのに、上手くできない」
「そっか。二人は話し合いが足りないだけなんじゃないの? ちゃんとタキにそう言ってみたら?」
「でももう……」
「大丈夫。あいつ優しいから、ミツルくんの話ちゃんと聞いてくれると思うよ。ほら、もう今日は上がっていいから早く話しておいで」
マスターにエプロンを強引に剥ぎ取られて、鞄を持たされて従業員用の入り口からポイっと外に出された。
なんて言えばいい? もう手遅れじゃないの?
どうしようどうしようと迷いだけがぐるぐる頭の中を巡って、なかなか足が進まなかった。
「あれ? 可愛いね。夜の相手探してる?」
こんなところでボーッとしているんじゃなかった。変な酔っ払いに絡まれて手首を掴まれた。
遊びなのか軽くGlareを放出してるからきっとDomだ。憂さ晴らしのためにSubを探していたのかもしれない。
こうしてGlareを少し出しながら歩いて、引っかかるSubを探すヤバイDomもたまにいる。
「Subみっけ」
Glareを浴びて少し僕の手が震えたのを、この男は見逃さなかった。
嫌だ。こんな奴のおもちゃになんかなりたくない。
「離せ! 僕はちゃんとパートナーがいるんだ!」
「へぇ~こんなところに一人で置き去りにされて、パートナーと思ってるのは君だけじゃない? 俺が遊んでやるよ」
「嫌だ、離せ!」
僕は暴れた。タキさんみたいに強くない僕の細腕じゃ全然敵わないけど、それでもタキさん以外に触れられるのは死ぬほど嫌だった。
「Stop」
「やだやだやだ!」
プレイに了承もしていないのに、いきなりCommandを使ってきた男に恐怖を感じた。
Glareも強くなってCommandに逆らっていることもあって押し潰されそうになる。もうこの男に跪いた方が楽なんじゃないかと思ったけど、嫌だと泣きながら訴えた。
僕が騒ぐから人が集まってきて、それなのにみんな傍観するだけで助けてくれる人はいなかった。
ドガッ
いきなり男が殴られて、そこにいたのはタキさんだった。
「ミツル、こいつは新しいパートナーじゃないよな?」
「違う。そんなのいない。僕は、タキさんがいい」
涙で前が見えないままタキさんに抱きついて、そしたらタキさんはそのまま僕を抱っこして家に帰った。
「別れたくない。好きだから、別れたくない」
「分かった分かった。Good boyいい子だ。ミツルはいい子だGood boy。Glareを浴びて混乱しているんだな」
「ん……ああ……」
震えるほど気持ちいいタキさんのCare。違うのに。Glareは浴びたし苦しかったのは本当だけど違うのに……
「タキさん、話を聞いてくれますか?」
「いいぞ」
タキさんは胡座をかいた上に僕を乗せて、Careする時みたいに背中をずっと優しく撫でていてくれる。
「タキさん、別れたくない。好きなんです。恥ずかしくて……言えなくなって、だから誤解させたと思う」
「しかしミツルは……ハードな方がいいんだろ? 俺では満足させてやれない」
「そんなことない。いつも満足してた。満足してる自分に戸惑って、痛みがない快楽だけってのが恥ずかしかっただけ」
痛みよりいつの間にか優しく触れてくれるタキさんの指の方が好きになってた。でも恥ずかしかったんだ。
「そうだったのか……俺は全然ミツルのことを分かってやれていなかったんだな」
「そんなことない。優しいタキさんが好き」
「ミツル、好きだ。これからも恋人でパートナーでいてくれるか? もしカラーを贈りたいと言ったら困るか?」
「そんなの嬉しいに決まってる」
「しかしチョーカーはやめておこう。Subだと公言しているようなものだから危険だ。その、できれば指輪とか、お揃いだったら嫌か?」
緊張してるの? タキさんの腕に力が入って、伝わってくる鼓動も早くなった。
そんなこと言うタキさんが可愛くて仕方ないんだけど。ギャップ萌え狙ってる? タキさんはそんな器用なことはできないって知ってるけど。
「結婚指輪ですか?」
「そういう意味にしたら重いだろ? まだミツルは若いからな」
「タキさん、その優しさは酷いです」
「すまない。傷つける気はなかったんだ」
焦ってるタキさんも可愛い。
「僕は結婚指輪しか受け取りませんからね」
「いいのか? 受け取ってくれるのか?」
「結婚指輪限定ですからね」
「分かった。ミツル抱きたい」
「僕も抱かれたいです。ちゃんと目を逸らさずタキさんを受け止めたいです」
「ああっ……タキさん、好き」
恥ずかしいけどちゃんと言えた。繋ぎ止めたいために言う好きじゃなくて、ただタキさんに心からの想いを伝えるための「好き」をやっと言えた。
その日、僕はまたSub spaceに入ってしまった。
フワフワして、僕を全部タキさんにあげたくなったんだ。
「俺のこと好きって言って。Say」
「タキさん好き」
「いい子だGood boy、俺もミツルが好きだ」
「ああっ……気持ちいい……」
タキさんは朝まで放してくれなかった。
でも幸せだからいい。
「すみません」
『仕方ないな。タキに無理させるなって言っておきなさい。二日休んでいいよ』
僕は酷い腰痛でバイトを二日休んだ。マスターには理由が分かってしまったみたいで、次に顔を合わせるのがちょっと恥ずかしい。
次の週の休みの日、タキさんは本当に僕をジュエリーショップに連れて行った。「サプライズじゃないの?」って聞いたら、ミツルの好みじゃなかったら嫌だろって。
サイズが分からないだけなんじゃないかと思ったけど、それは言わないでおいた。サイズが合ったものを作るから、出来上がりまでに一ヶ月かかると言われた。意外と長い。
「ミツル、出かけるぞ」
「うん。どこ行くの?」
「神社だ」
「神社?」
実はタキさんって神社仏閣巡りが趣味とか?
なんかいつもと違うタキさんの雰囲気に、聞くに聞けず黙ってついていった。
「ミツル、俺、志乃山多喜は神に誓う。ミツルを夫として永遠に愛すると。ミツル、愛してるよ。結婚しよう」
タキさんがポケットから取り出した箱を開けると、中にはペアリングが収まってた。
「指輪、できてたんだ」
「ミツルの答えは?」
「僕、伊曽村充も神様に誓う。タキさんのこと夫として永遠に愛する! タキさん大好き!」
タキさんに飛びつくようにギュッて抱きついたら、やっぱりタキさんは全然ふらつくことなく僕を受け止めてくれた。強いタキさんが好き。優しいタキさんが好き。
人を愛することを教えてくれたタキさんが好き。
「左手を出してみろ。指輪はめてやるから」
「うん。僕もタキさんにはめたい」
お互いに指輪をはめる。
神社でこんなことするなんて、タキさん古風だね。でも嬉しい。
「タキさん、誓いのキスして?」
「ここ外だぞ? 人がいる」
「結婚式は誓いのキスが必要でしょ?」
タキさんは僕の左手をとって、薬指の指輪の上からキスをしてくれた。
何これ、唇にキスされるより恥ずかしいんだけど……
タキさんも真っ赤だし。可愛い。
「タキさん、足りない」
「俺もだ。このまま花婿を攫って帰るぞ」
うわっ
タキさんは僕を横抱きにした。
人前でキスは恥ずかしいのに、横抱きは恥ずかしくないの?
タキさんが向かったのはホテルだった。
「たまにはいいだろ?」
「うん」
タキさんは全部してくれる。指の一本まで丁寧に洗ってくれるんだ。恥ずかしいけど中も洗ってくれる。
体を拭いて、髪も乾かしてくれて、本当に僕はそこにいるだけでいい。
「ミツル、愛してるよ」
「僕も愛してる」
優しくて蕩けそうなキスを繰り返して、そっと僕の乳首に触れて、ちょっと物足りないくらい優しい。
「ああっ……あ、やだ、なんで?」
急にタキさんが僕の乳首を捻り上げた。
「これ好きだろ?」
そう言ったタキさんの目は支配者の目だった。鋭い快感と、タキさんの支配が僕を攫っていく。
「好き」
「ミツル、殴ったり怪我するようなことはできないが、ミツルが喜ぶことをしたい。我慢させたくない」
「うん。我慢してないよ。タキさん気付いてないの? いつも僕がヘロヘロになるまで攻めるじゃん。苦しくて苦しくて、死ぬほど気持ちいい。いつも幸せだよ」
「じゃあ今日も死ぬほど気持ちよくしてやる」
「お手柔らかに」
(完)
最後まででお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m
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いつも感想をいただきありがとうございます🥰
タキさん頑張れ〜
ミツルも色々なものを抱えていて、自分のことでいっぱいいっぱいなんでしょうね…
完結までサクサクあげていきます🙌