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12.本当のタキさん(ミツル視点)
しおりを挟む「タキってさ、あんな見た目なのに紳士で優しいでしょ? あいつたぶん人殴ったこともないんだよな。君は知ってると思うが驚きだろ?」
「え? あ、はい」
マスターにそう言われて一瞬何のことだか分からなかった。紳士ってのは分からなくはない。いつもCareは優しいし、セックスの後も色々拭いてくれたり、お風呂に入れてくれたりするし。
人を殴ったことがない? まさかね。
でも気になった。僕よりも昔からタキさんのことを知ってるマスターが言う言葉だ。
家に帰るとタキさんはもう帰っていた。
「ミツルCome」
壁に押し付けられて、何もできないままに唇に噛みつかれて、少し血の味がした。それでも足りないと僕のシャツの上から乳首をギュッと抓った。
「ぁああ……」
「Good boyいい子だ」
とまどう。どれが本当のタキさん?
マスターが知らないだけのか、それともタキさんが無理しているのか。
「何だ?」
「あ、何でもないです」
分からない。まさか僕はタキさんに暴力を強要していたの?
いけないと思ったけど、次の日タキさんが出勤するとパソコンの検索履歴を見た。
暴力的な内容が出てきた。
SMとかを調べた形跡があったし、ページの閲覧履歴にはハードプレイの動画もあった。
それが趣味なのか、それとも勉強していたのか分からない。
本人に確かめる?
そうしよう。
決心したはずだったのに、タキさんの顔を見ると言えなくなる。怒られるのも殴られるのもそんなのは怖くない。
無理をさせていたらと思うと怖くて、聞いたらもう今のままの関係ではいられなくなりそうで、なかなか聞けなかった。
「ミツル、Come」
「はい」
「Good boyいい子だ」
ソファに座るタキさんのところに行くと膝の上に乗せられた。そのまま苦しいくらいに抱きしめられて、気持ちよくて思考が溶けていく。
「それでミツル、何を悩んでいる?」
「何も……」
「Say」
少しGlareも放たれて、タキさんの圧が重くのしかかって、僕はタキさんの支配下に置かれた。
「タキさんに無理させたかもしれない。言うのが怖い。嫌われたくない」
「何だ? お前、何かやらかしたのか? 言ってみろ。俺はそう簡単にはミツルを手放したりしない。Say」
Careされないまま、重ねてCommandの重圧が降りてくる。
「タキさん……暴力、嫌いなの?」
僕が言った瞬間にGlareは霧散して少し軽くなった。
「すまない。俺のせいで悩ませたんだな。Good boy。ミツルはいい子だ。俺もいつかは話さなければならないと思っていた」
それって肯定ってことだよね? そっか。手加減してくれてた理由は、本気を出したら僕が死んじゃうかもしれないからじゃなくて、暴力が苦手だからなんだ。僕はどうしたらいい?
「ミツル、このまま聞いてくれるか?」
「はい」
僕をギュッと抱きしめたままタキさんは話し始めた。表情は見えない。
この肉体は喧嘩ではなく仕事でつけた筋肉だってこと、僕以外に手を上げたことはなかったこと、僕の期待に応えたいし僕を満足させたかったって。なんで?
「俺は支配するより甘やかして守ってやりたい欲の方が強いんだ。ミツルのことが好きで失いたくなくて言えずにいた。すまない」
「え? タキさん、僕のこと好きなの?」
僕のこと好きなんて知らなかった。それなりに気に入ってるから置いてくれるけど、飽きたら捨てられるのかと思ってた。
「当たり前だろ。好きだ。好きでもない奴を抱きたくないし、好きでもない奴を家に置いたりしない」
「そうなんだ……」
「別れるか? パートナーも解消するか? 俺は一緒にいたいが、俺では役不足であれば仕方ない」
一緒にいたいんだ。こんな僕のことをそんな風に思ってくれるんだ。
もうタキさんに無理はさせたくない。僕が我慢すればいいじゃん。そうしたらずっと一緒にいられる?
「一緒にいたいです。でももうタキさんに無理させたくない。僕にずっと付き合ってくれたから今度は僕がタキさんの好きな方法を試してみたいです」
「分かった。無理はするなよ。欲求不足になったらすぐに言ってくれ」
「うん」
「Kiss」
タキさんからCommandが発せられると、僕はタキさんの頬に手を添えてそっと口付けた。
「足りない。キスはこうやってやるんだ」
タキさんは僕の口内をゆっくり撫でていく。荒々しさがないこんなキスは初めてだった。苦しくも痛くもないのに気持ちよくて、甘い吐息が漏れてしまう。
「んん……ぁ……」
「ミツル、可愛い。Good boyいい子だ。ミツル、一緒にいたいと言ってくれて嬉しかった。ありがとう」
タキさんの甘い声が脳内に響いてドキドキした。本当のタキさんはこんなに甘いんだ。なんだかすごく恥ずかしい。
「タキさん、好き」
好きだと言うのもなんか恥ずかしい。一方通行だと思ってたから簡単に言えたのに、タキさんも僕のこと好きなんだと思ったら急に恥ずかしくなった。
「ミツル、ずっと優しくしたかった」
優しく? 今までも優しかったよ。優しくしたいなんて初めて言われた。なんか心の中が擽ったい。
いつものタキさんの分厚くて硬い手なのに、まるで別物みたいに僕をそっと撫でて、髪も梳かすように撫でられると、初めての感覚に戸惑った。
何これ……優しすぎて恥ずかしい。
「タキさん……なんか恥ずかしい」
「ミツルは可愛いな。初めて会った時からずっと可愛いと思ってた。好きだ」
緊張感とはまた別のドキドキがやってきて、僕はずっと戸惑いっぱなしだった。
その日の夜は何もしなかった。ただずっとタキさんにギュッと抱きしめられて寝た。
なんか嬉しそうにお風呂で僕の体を隅々まで洗って、全部拭いて髪も乾かしてくれた。
甘いだけのキスを繰り返して、僕が恥ずかしくて気持ちよくてヘロヘロになると、ようやくギュッと抱きしめて眠ったんだ。
本当のタキさんってこんな人なの?
ずっと無理をさせてたことを申し訳なく思う反面、僕のために色々調べて一生懸命やってくれたのかと思うと嬉しいって思った。
好きなだけでそんなに一生懸命になれるものなの? だとしたら僕だってタキさんのことちゃんと受け入れられるはずだと思った。
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